
2002年の「LICKS」アメリカ・ツアーは三種類の会場を使い分け、なおかつセットリストが変化に富んだことが評判を呼び、多くの公演がアイテムとしてリリースされたという印象が強い時期。しかし公演自体が忘れ去られているのではと思えるのが11月6日のタコマ・ドーム。一応オーディエンス録音は存在していたのですが、B級音質であったことが災いし、かろうじてトレーダ間の合間で出回るレベルに留まっていました。その公演から早くも16年の歳月が過ぎ去った今年、2002年のタコマを録音した別のオーディエンス録音が突如としてネット上に現れたのです。今回の初登場音源の面白いところは、2002年というDAT全盛時代にもかかわらず、敢えてハイポジ・カセット(MAXELL XL-IIS)を用いて録音されたということでしょう。その甲斐あって音質は非常にクリアーであり、録音ポジションはアリーナの40列目ということから音像に関しては程よい距離感がありつつ、それでいてクリアネスは申し分ないというもの。これほどのクオリティを誇っていた近年のライブ録音が15年以上も眠っていたという事実にも驚かされますが、ブラッシュアップを施しました。そのままでも十分に高音質ではあるものの、その距離感のせいでショー序盤などはホール・エコーで増幅された低域が演奏の輪郭をファジーにさせてしまったきらいがあったのです。そこでイコライズを施してみたところ、この問題が大幅に解消されて、耳に刺さらないスッキリ伸びやかな高音が生かされてさらに聞きやすくなったのです。この実にスッキリとした高音のクリアネスこそハイポジ・カセットならではの味わいかと。それだけではありません、今回の音源のテーパーはBステージとそれのスピーカーから近い位置にいたのでしょう、音の印象が極端に変わってしまうようなことがなく、むしろ「Little Red Rooster」などはすさまじいまでの音圧で捉えてくれました。同曲の演奏がまた実に素晴らしく、ストーンズ本領発揮のブルースということからキースのプレイも絶好調。今のストーンズもこの曲をやればいいのに…それほど魅力的な演奏が最高の音質で聞かれたのです。この音源の独特のバランスや音像はその後も聞いていて面白いもの。Bステージが終わるとそれ以前のような音像に戻るのは当然だとしても、今度はチャック・リーヴェルのキーボードや懐かしのブロンディ・チャップリンが弾いた歯切れの良いアコギといったサポートの音が目立って聞こえるのです。そこで演奏されるのはいつもの定番ナンバーばかりですから、むしろこの独特のバランスからは新たな発見があって新鮮に映って楽しめるのではないでしょうか。セットリスト自体は同じ11月でもウィルターン・シアターのクラブ・ギグや後のオークランドの合間に挟まれたかのように面白味を欠いたもので、一番の目立つポイントであるはずな「Wild Horses」におけるシェリル・クロウの登場もこの時期には頻繁にあったことで、むしろ彼女もサポート・メンバーの一員であったのでは?と錯覚しそうなほどステージに登場していたので、あまりインパクトはありません。それもこれまでアイテムがリリースされなかった原因かもしれません。ところがストーンズの演奏は極めてタイトな素晴らしいもの。ツアーが開始から三か月目に突入し、ストーンズとしてもエンジン全開なモードであることがオープニングからはっきり伝わってきます。中でもミックの好調ぶりは際立っていて、そんな彼の頂点が「All Down The Line」。ロニーが弾いた滑らかなスライド・ギターは1975年ツアーそのものですし、そこにホーン・セクションが加わったことで1973年ヨーロッパとの折衷のように映るほど。そして何と言ってもミックが突如として覚醒したようなハイパー・シャウトを炸裂させており、これまた75年にタイムスリップしたかのようで興奮を覚えます。おまけにこの曲がタコマでは大人気であり、演奏が始まると観客は大合唱。それでいてストーンズの演奏が奥に追いやられるようなことはなく、左右にステレオで捉えられたゴキゲンな盛り上がりと臨場感は最高に楽しいもの。ここは是非ヘッドフォンにてその感触をたっぷりと掴んでほしいところ。逆に言えばテーパーの周辺ではいい感じに盛り上がりつつも、リスニング上のストレスとなるような騒がしさが皆無であるという点もこの音源の大きな魅力。とはいえキースが「Slipping Away」が歌い始めるや否や観客がお喋りを始めるという、正にアメリカのストーンズ・ライブらしい場面も捉えられているのですが。とにかく全体的には驚くほど足腰しなやかなストーンズの演奏ぶりが捉えられていて、2002年のストーンズがこんなにタイトな演奏を繰り広げていたのか?と新鮮に感じられること請け合い。そのいきいきとした演奏を余すことなく捉えてくれたハイポジ・カセット録音の独特な味わいがまた最高。Live at Tacoma Dome, Tacoma, Washington, USA 6th November 2002 TRULY PERFECT SOUND
Disc 1 (74:42)
1. Intro 2. Brown Sugar 3. It's Only Rock 'n Roll 4. Start Me Up 5. Don't Stop 6. Tumbling Dice 7. Monkey Man 8. Wild Horses (with Sheryl Crow) 9. You Can't Always Get What You Want 10. All Down The Line 11. Midnight Rambler
12. Band Introductions 13. Slipping Away 14. Before They Make Me Run
Disc 2 (52:36)
1. Sympathy For The Devil 2. When The Whip Comes Down 3. Little Red Rooster 4. You Got Me Rocking 5. Gimme Shelter 6. Honky Tonk Women 7. Street Fighting Man 8. Jumping Jack Flash 9. Satisfaction