世界がキース・エマーソンを失って9ヶ月。今度はグレッグ・レイクまでもが去ってしまいました。2016年は冒頭から偉大なる音楽家の悲報が続いていましたが、それももう終わった事だと信じていたのに。そんな今週はグレッグと、そしてキースと共に過ごすためのプロショットをご用意いたしました。正直なところ、迷いました。こんな時に何を用意すれば良いのか、何を皆さまと共有すれば良いのか。数々の名演ライヴアルバム、ライヴ映像……その1つひとつが輝いてはいますが、今週ばかりはそれだけで終わらせたくない。演奏家としてのグレッグだけでなく、“ひとりの人間”としての彼を感じたい。そうして決断したのが本作。1992年にEL&Pが再結成した際のオフィシャル映像『”WELCOME BACK”』です。この作品は、彼らの再始動に併せて制作されたドキュメンタリー・ビデオで、各時代のクリップや歴史的映像を交えながら、メンバーや関係者が語っていくもの。それだけに完全演奏される曲はないのですが、コメントの数々から彼らの“人となり”に近づけるオフィシャル映像なのです。そして、そのクオリティも一級。10年以上前に微妙なクオリティのDVD化もありましたが、本作は制作当時にリリースされた日本盤レーザーディスクを使用。それも、国内のコアコレクターが秘蔵していたミント・クオリティ盤を精緻にデジタル化した最高峰クオリティ版なのです。クオリティにも増して“日本盤レーザーディスク”の強みは、日本語字幕。本作はドキュメンタリーなので出演者は全員、早口な英語でしゃべりまくる。日本語字幕のおかげで、その内容がビビッドに理解できるのです。その内容は、私たちの思い出を凝縮するかのよう。ワイト島の伝説的なデビューからモーグ博士との出会い、モントリールのオーケストラ共演、再始動を決意した想い、そしてミュージシャンとしての矜持等々、その歩みを当事者本人の言葉と声で綴られていくのです。話題話題によって時代感覚も鮮烈。例えば、70年代のこぼれ話ではプロモーターが登場するのですが、彼はブッキングはしたものの、日付を間違えて当日になっても何の準備もしていなかったそう。その当時を思い出しながら「照明の事を忘れていたんだ。用意しろと言われたけど、2万5千人ものお客一人一人がマッチを持てば、それが照明になるんじゃないかと思った」と語る。時間と空間を超えて「バカ言ってじゃないよ!」と突っ込みたくなる大らかな時代の空気が漂うのです。有名な話も多いものの、それも当事者の生証言で語られると面白さが違う。例えば、モーグ・シンセサイザー。モーグ博士本人が登場し、「(巨大で配線も複雑なシンセを)誰かがステージに持って行って観客の前で実際に演奏するなんて到底考えられませんでした。『ラッキーマン』を聴いた時には自分の耳を疑いました。あまりにもオリジナルで、印象的で、うってつけで、まさに降参でした」と語るのです。また、キースからは「僕たちはヘヴィ・メタルだと言われた事もあった」と衝撃発言。キース自身も「ヘヴィ・メタルは長髪のギタリストがギンギンにやるという考えが定着する前の事だよ」と補足しますが、まさに70年代を最先端で生き抜いた人だからこその証言。さらに、ワイト島におけるキース・ムーンの逸話や大赤字に終わったオーケストラ共演ツアーに対しての当人の想い等々、70年代の歴史がイキイキと動き出すコメントが目白押しなのです。その一方、制作された“1992年”の時代感も匂い立つ。カール・パーマーが「今(1992年)はMIDIとか使えるものがたくさんあるから、プログレッシヴ・ロック・バンドがまた始めるには格好の時期だと思うんだ」と語り、グレッグは「昔はやり過ぎだと思われたものも、今振り返ってみるとほんの小さな変化に過ぎない。ガンズ&ローゼズとかに比べるとね」と話す。今でもMIDIは信号プロトコル等で現役ではあるものの、1992年は最新技術として音楽業界を席巻していたし、GUNS’N ROSESも時代の寵児として数々の事件を巻き起こしていた。そんな空気が言葉の端々から匂ってくるのです。この“1992年”感もまた、本作を今週のギフトに選んだ理由のひとつです。EL&Pの黄金期は、言うまでもなく70年代。しかし、私たちが彼らを身近に感じたのは90年代の再結成時代だったのではないでしょうか。レコードの向こうや“ロックの伝説”ではなく、“生きたバンドの息吹”として直接感じられたのは。本作には、その当時の生の声がたっぷりと詰まっている。本作にはロイヤル・アルバート・ホールの復活公演もフィーチュアされていますが、そこには再始動に臨むEL&Pの決意、そしてその復活劇を目撃した観客たちも興奮した言葉も収められている。その紅潮した表情と言葉。これこそ、かつての私たち。そして、あの再来日公演に挑んでいた彼らそのものだったと思うのです。「今振り買ってみると“ああしたほうが良かった”・“こうすれば良かった”という事はたくさんあるけど、“やるに値するような事をした”という点では、いい線いってると思うよ」……そう語るグレッグ。彼は、もういない。キースを失い、グレッグまでもが去ってしまった。今はまだ2016年を呪う事も、2017年の幸せを祈る気持ちにもなれない。そんな想いを共にしてくださる方へ、2人を“伝説”ではなく“人間”として感じられる本作を贈ります。最後に、キースが亡くなった際にグレッグが語った言葉をご紹介します。 「世界中にいるELPの友人、ファンのみんなへ。(銃自殺という)キースの死はとても悲しくて痛い。でも、私はみんなに悲劇ばかりを覚えていてほしくないんだ。この先もずっと、彼の素晴らしい才能とみんなを楽しませ続けた情熱を覚えていてほしい」この願い。今こそ、今だからこそ、グレッグ自身のために。
1. Fanfare/Romeo And Juliet 2. Karn Evil 9 1st Impression Part 2 3. Isle Of Wight Festival: Pictures At An Exhibition 4. Technology 5. Paper Blood: The Two Extremes 6. Honky Tonk Train Blues: The Wrong Day 7. Creole Dance: Final Approval 8. The Right Sound: Changing States/Hoedown
9. Black Moon 10. Drum Solo 11. Tarkus: Trying New Things: Close To Home 12. Pirates: Memories Of Montreal 13. Playing Guitar 14. C'est La Vie 15. Something Different 16. Tiger In The Spotlight: Full Circle 17. Watching Over You 18. Back Home 19. Lucky Man 20. The Test Of Time: Maple Leaf Rag
21. Fanfare For The Common Man: Performing Live 22. End Credits
PRO-SHOT COLOUR NTSC Approx.79min.