YESが“ロックの殿堂”入りを果たし、ARW(現:YES Featuring ARW)の来日公演も始まりました。そんな今週のギフトには、殿堂入り模様を伝える極上映像をご用意いたしました。本作に収められているのは「2017年4月7日ニューヨーク」で行われた殿堂入りセレモニー。現行の「本家YES+ARW」の合体パフォーマンスも見られる、大爆笑のオーディエンス・ショットです。オーディエンスとは言うものの、そのクオリティは客席撮影の常識とはかけ離れている。ステージ左側(スティーヴ・ハウ側)の2階席からやや見下ろしたショットなのですが、熱狂渦巻くコンサートではないせいか、前列の影が微塵もない。ステージ“だけ”を綺麗に直視し、安定感もバツグン。まるでプロショットの1アングルかのように美しく、超ビビッドに描き出されている。もちろん、サウンドも視界に負けず特級。特別パフォーマンスは遮蔽物ゼロの超クリア・サウンドですし、スピーチも一言一言までハッキリと聴き取れます。そんな本作は、RUSHのゲディ・リー&アレックス・ライフソンによるプレゼンター・スピーチからスタート。YESの偉業をユーモラスに讃え、殿堂入りしたメンバー達をステージに招きます。今回、殿堂入りを果たしたのは『UNION』時代の8人なのですが、この日壇上でスピーチしたのは5人。ジョン・アンダーソン→トレヴァー・ラビン→アラン・ホワイト→スティーヴ・ハウ→リック・ウェイクマンの順で語ります。このスピーチが傑作。5人が一様にファンと家族への感謝を語るわけですが、各人のキャラクターがモロ出し。往年のファンは思わずニヤニヤしてしまうのです。特に面白いのは、ジョンとハウとリック。トップバッターのジョンはもう、しゃぎまくりのテンション全開で「ワオ!」「信じられない!」「みんなビューティフルだ!」を連発。妻とロックの殿堂を見て回った思い出話では「ビル・ヘイリーだよ、こっちはスティービー・ワンダーだ!」と実況中継(?)し、バンドを結成したくだりでは「クリス・スクワイアはバカでかかったんだ。信じられないよ!」。その「クリスとピーター・バンクスが天国とスピリットの中にいるんだ」という〆の言葉も実にジョンらしいのです。トレヴァーやアランは満面の笑みながらわりとマトモに挨拶するのですが、それもまた彼ららしい。そして、4番手のハウは原稿を手に持ちながら、彼一流の回りくどい言い回しが最高。ファンへの感謝を語るにしても「幸いなことに、一般的な音楽愛好家とは明らかに異なる耳を持っている私たちのファンの反応は消せない」「彼らはテクスチャとハーモニー、劇的で謙虚な、あるいはソフトな、コーラスの愛の調和とダイナミクスを聴き取れるのです」……もはや礼を言っているのか違うのかさえ不明ですが、もちろん、現場に居合わせたファン達はそんなハウのキャラクターは百も承知。その語り口だけで大ウケですし、〆のジョーク「ビルはYESの音楽をシンプルに言い表したよ。『速いのも遅いのもある』ってね」にもやんやの喝采が巻き起こるのです。そんなスピーチにトドメを刺したのがリック。殿堂入りが決まった当初は「出席しない!」と声明を出し、その後一転して出席を決めただけに発言も注目されましたが……もう、酷い(笑)。「今、私は2つの理由で幸せなんだ。1つはロックの殿堂入りが出来たこと、もう1つはこのビルの近くでセックスしてきたこと」。会場は一気に大爆笑となりますが、「いやいや、そんなに良くなかったんだよ」とフォロー(?)。家族への感謝を語るにも「私の父は売れないエルヴィスのパチモンだったんだ。子供の私に多くのことを教えてくれたよ。『ストリップクラブに行ってはダメだ。チープで汚いし、見てはいけないものがあるんだ』とね」とカマし、「確かに、行ってみたら親父を見たよ」とオチを入れる。この他にも、ちょっと文字にするのは憚れるような下ネタの連発。この後、ビル・ブルーフォードやクリスの奥さんのスピーチも予定されていたそうですが、リックで終了。そりゃまぁ、漫談で沸き立った後にスピーチはできませんよねぇ……。それにしても、本作がオーディエンス・ショットで本当に良かった。リックのスピーチに会場はドッカンドッカンの大爆笑でして、スタンディング・オベーションとなる大ヒット。そのムードがリアルに分かるのです。もし、これが観客の反応の分からないプロショットだった日には、空気が伝わらず、恐ろしくて見ていられません……。 その後は、目玉の特別パフォーマンス。残念ながら既に引退しているビルは不参加ですが、クリスの代役にゲディ・リーという豪華ラインナップで「Roundabout」「Make It Easy」「Owner Of A Lonely Heart」を演奏。2004年以来、13年ぶりにジョンがハウやアランと共演した記念碑パフォーマンスを目撃できます。その豪華&貴重ぶりもさることながら、ここでもリックがやってくれた。「Owner Of A Lonely Heart」の後半でショルキーを持ち出し、トレヴァーをマントの裾持ちにして客席へ。それも「最前席のファンにタッチ!」などという可愛らしいものではなく、客席のド真ん中をガンガン練り歩き、そのまま席に居座ってしまう。もちろん演奏はグッダグダなわけですが、それは問題外。ウケにウケてウケまくり、この日の“お祭り”感が爆発するシーンなのです。昨年の本家YESに続き、ARWが日本を訪れ、目眩く“YESミュージックの夕べ”を披露しています。彼らは50周年を記念する“ YESTIVAL”を発表する一方、「YESとARWが一緒にライヴをやることはない」とも宣言。仲が良いのか悪いのか、これからどうなっていくのやら……。しかし、そのすべてがYESらしい。超個性的な人間が離合集散を重ね、それでもコミュニティ全体がポジティヴなムードに包まれている不思議なYESファミリー。そんな呼吸感がひときわ輝く授賞式に、極上クオリティで立ち会える1枚です。さぁ、どうぞ!
Barclays Center, Brooklyn, NY. USA 7th April 2017
1. Geddy Lee & Alex Lifeson Introduction 2. Yes on Stage Speeches 3. Jon Anderson 4. Travor Rabin 5. Alan White 6. Steve Howe 7. Rick Wakeman 8. Roundabout with Geddy Lee 9. Make It Easy 10. Owner Of A Lonely Heart
COLOUR NTSC Approx. 35min.