かつてないロウ・ジェネレーションな状態が大好評を博しております、先週のクラプトンを交えた1986年のスタジオ音源「HEARTS OF FIRE SESSION 1986」に続き、今回は80年代ディランの極上ライブ音源を二種類リリースいたします。どちらもこの年代におけるディランのライブ音源としてはスタンダード中のスタンダードだと呼べるものですが、まずお届けしますは1980年4月20日のトロント公演。マニアの間ではゴスペル・ツアーの一環と称される時期ではあります。前年から始まったディランのゴスペルへの路線変更は物議をかもしたものですが、今では世界中のマニアから絶大な支持を得ています。その証拠に、当店が過去にリリースした、マイク・ミラード録音による極上音質の79年ゴスペル・ツアー音源はどれも大好評。ディランが毎晩のステージに全身全霊を傾けてステージに打ち込んでいたライブ・サウンドを、ミラードが最高の音質で再現してくれたことが人気の秘密でした。そうした賛否両論の風潮にもめげず、1980年を迎えたディランはさらにゴスペル路線を推し進めます。「SLOW TRAIN COMING」よりもさらにゴスペル・サウンドを進化させたアルバム「SAVED」のレコーディングを手早く済ませたのですが、レコーディング・スタジオではゴスペルのサウンドやステージにある熱狂が捉えられていないと感じたのでしょうか。それとも、単に今の自分のステージのエキサイティングなサウンドをいち早く記録したいと思ったのでしょうか。4月の19と20日に行われたトロントでのショウを録音だけでなく、映像収録まで行ったのです。この時の収録からは19日の演奏をベースにした「SOLID ROCK」というライブ・アルバムが制作されましたが、当時のゴスペル路線の不評の弊害か、それともレコード会社としては既に完成していた「SAVED」のリリースを優先したかったのか、ライブ・アルバムのリリースはキャンセルされてしまいます(ディランはライブ・アルバムのお蔵入りが多いです…)。それ以上に撮影されていた映像に関してはテレビ放送のような企画すら持ち上がらず、ZEPのロイヤル・アルバート・ホールのようにお蔵入りしたまま眠り続けるライブ映像となってしまったのです。二日間撮影された映像の内、4月20日の方はいつからかコア・コレクターの間に出回っていたようですが、1990年代を迎えると一気に流出。ゴスペル期のディランを捉えた貴重なライブ映像として世界中のマニアに大きな反響を巻き起こしました。映像の画質が良好だったことはもとより、そこに収められていたサウンドボード録音の音質が極めて良好だったことから、音声を収録したCDアイテムがいくつもリリースされました。「BORN AGAIN MUSIC」などは、オープニング・ゴスペルから完全収録していたことから、かつてディランのファンサイトにおいて名盤扱いされていたものですが、実はモノラルにダウングレード・コピーされた映像を元にしていたお粗末さ。その点WANTED MANがリリースしていた「SOLID ROCK」は全編ハイ・クオリティなステレオ・サウンドで収録されていたことから専門誌などで絶賛されたことがありましたが、実際には曲間の不要なカットが多すぎる、さらには19日の音源から「Covenant Woman」を紛れ込ませるなど、ずば抜けた音質クオリティとは裏腹に、内容面における不備がはっきりと目立つアイテムだったのです。ゴスペル・ディランを代表するステレオ・サウンドボード録音の名音源がこれほどまでに不遇な扱いを受けていたとは…そのような問題を一掃し、オープニング・ゴスペルから4月20日のライブ・ショウを完璧なステレオ・サウンドボード録音にて収録してみせたのが今回のリリース!もちろん、元の映像からの問題であった「Precious Angel」のイントロ欠けと、ディランがステージを去ったところで途切れてしまう「In The Garden」の状態は今回も変わりません。昨年あたりから、前者の欠損部に前日の音源を補てんして映像もモンタージュさせた編集が見事なトロント映像がYouTube上に出回っていますが、所詮「疑似完全版」であることに変わりはないのです。こうした欠点を補って余りある、驚異的な音質と、全編に渡って曇りのない歌と演奏を聴かせるディランとバンドの素晴らしさと言ったら!何しろ映像に使われた音源がマルチトラック録音ですので、そのままオフィシャルでリリースされたとしても何ら遜色のないウルトラ・クリアーなサウンド。音質が完璧だからこそ、ディランの名唱の数々も際立つ…本当に聞き惚れてしまいます。ここ最近シナトラ・カバー・アルバムを連発し、彼の歌い込み指向が話題となったものですが、実はゴスペル・ツアーでもディランは既に歌を聴かせるステージをしっかりと披露していました。中でも「When He Returns」や「What Can I Do For You?」辺りで聴かせてくれる歌の素晴らしさは、この時期ならではのもの。そして当時全盛を極めていたAORを意識したのではと思えるようなしっとり落ち着いたバックのサウンド。ディランのゴスペル期の中においても、もっとも完成度と純度が高いサウンドを誇っていた時期。ミラード録音の79年ライブで聴けたような勢いが落ち着きをみせ、代わりに自信に満ち溢れたサウンドへと進化し、毎晩最高の演奏がステージから放たれたのがこのトロント公演。ゴスペル・ツアー究極のリアル・ライブ・アルバムのベストバージョンが遂にリリースされます。ゴスペル期のディラン・ライブを聴きたければ、まずはこれから!
Massey Hall, Toronto, Canada 20th April 1980 STEREO SBD
Disc 1 (72:25) track 1-7 sung by Backing singers
1. Intro Story 2. If I've Got My Ticket, Lord 3. Hold On 4. The Rainbow Sign 5. Show Me The Way, Lord 6. Freedom At The Wall 7. This Train Is Bound For Glory 8. Gotta Serve Somebody 9. I Believe In You 10. When He Returns 11. Ain't Gonna Go To Hell For Anybody 12. Cover Down, Break Through
13. Man Gave Names To All The Animals 14. Precious Angel 15. Slow Train
Disc 2 (68:44)
1. Stranger In The City (sung by Mona Lisa Young) 2. Walk Around Heaven All Day (sung by Mary Elizabeth Bridget) 3. Do Right To Me, Baby (Do Unto Others) 4. Speech 5. Solid Rock 6. Saving Grace 7. Saved 8. What Can I Do For You ? 9. In The Garden 10. Are You Ready ? 11. Pressing On
Bob Dylan (vocal, guitars & harmonica) Fred Tackett (guitar) Spooner Oldham (keyboards) Tim Drummond (bass) Terry Young (keyboards) Jim Keltner (drums) Clydie King, Gwen Evans, Mary Elizabeth Bridges, Regina McCrary, Mona Lisa Young (background vocals)