その昔「ボブ・ディラン大百科」という本がありました。他にビートルズやプリンスも出ており、今でも古本で見つけることは容易です。現在のように、調べればインターネットで情報が何でも手に入ってしまう時代ではありませんでしたし、何よりも日本語で読めるディランのライブやレコーディングをまとめた本として、非常に画期的な存在でありました。そこでは各年代のライブの演奏内容に関しても詳しく記されており、各年代のベスト・ショウがいつの公演であるかを知らしめてくれた点においても、大変に重宝した本だったのです。そこにおいて、1984年のヨーロッパ・ツアー最高の名演と絶賛されていたのが6月28日のバルセロナ公演。曰く「バンドはすっかり作品になじみ、しかも何度もくりかえしているにもかかわらず演奏に歪みがなく、ディランもコンサートの最後まですばらしい声をたもっていた」とまで高い評価を受けていたのです。それ以上に衝撃的だったのが、このツアーから作られたライブ・アルバム「REAL LIVE」に対する評価。何しろ「パリやニューカッスルにおとり、ましてバルセロナにはるかにおよばないコンサートで録音された」と記されていたのです。一体、それほどまでにすばらしい演奏を披露していたバルセロナ公演とはどれほどのものなのか?大百科に記されていた、バルセロナ公演に対する記述を前に、日本のマニアはどうすれば名演を聴けるのだろう…そういった思いを馳せたもの。とは言いつつも、大抵のマニアが「REAL LIVE」で満足していたふしがあり、84年ヨーロッパはあんなものだろうとタカをくくっていたように思います。何しろストーンズですら81年ツアーを「SILL LIFE」でLP一枚分のライブ・アルバムとしてまとめてしまった時代。ディランの84年ツアーはスタジアム・ツアーだったことから一回のショウの演奏時間が長く、平均的で二時間を超える長さ。それを「REAL LIVE」のLP一枚分にまとめようとしたこと自体、無理がありました。今となっては、むしろアルバムが84年ツアーの印象を薄める要因にすらなってしまったように思えるのですが、だからこそ、84年バルセロナを聴きたいという思いに駆られたものでした。ファンサイト「BOB’S BOOTS」によると、1988年の時点で「SPANISH BOOTS」、さらにはその名も「BARCERONA」という二種類のLPが存在したとレポートされているのですが、バルセロナ公演を聴きたくてそれらのアイテムを手にしたマニアは少なかったのが現状です。それもまた、アイテムがレアなのではなく、84年ツアーが見過ごされていたことが原因だったのです。話を少し戻しましょう。大百科が発行された1990年はメディアの移行期であり、ライブ音源に関してもCDのリリースが相次いでいた時期。そこから90年代前半もまた84年ツアーが見過ごされていた時期であり「BOB’S BOOTS」によると、バルセロナ公演初のCDバージョンとして登場したのが「FROM THE COAST OF BARCELONA」。これは先のLP「SPANISH BOOTS」のCD版という触れ込みでリリースされたことから、遂に名演を聴けるようになったことを喜んだマニアは少なくありませんでした。しかし実際には同じオーディエンス録音を使用しつつも、ジェネ落ちカセット・コピーを使ってしまったことから「LPより音質が落ちる」という評価を受けてしまいます。結局のところ、CDアイテムでスカッと内容、音質の両方がリリースされてこなかったことは、近年の84年ツアー軽視の風潮に拍車をかけてしまいました。そんな状況にようやく一石を投じてみせたのが当店リリースの「BRUSSELS AFFAIR」です。6月7日のブリュッセルにおいて、まだぎこちなさは残るものの、ディランとバンドが懸命に演奏する姿は「REAL LIVE」とまったく違う感動を聴き手に与えました。さらに音質も非常に良好だったことから、大好評となりました。「84年ツアーはこんなにホットだった…」そんな忘れかけていた印象をマニアへ与える結果となり、そうなると84年最大の名演たるバルセロナも当店がリリースしない訳にはいきません。今回のリリースに当たっても、元のオーディエンス録音はLP「SPANISH BOOT」と同じ音源を使用しました。もちろん今回はマスターからのコピーという鮮度抜群な状態の音源を使用し、先のLPをも凌ぐ最高音質を実現してしまったのです。LPの時から別格な音質が世界中のマニアに高い評価を受けていた音源ではありますが、今回のリリースにおいては、いよいよ完全無欠なクリアネスを実現。先祖CDとも言える「FROM THE COAST OF BARCELONA」など比較にもならないのです。ここまで音質が良いと、下手なサウンドボード録音を軽く凌駕しているレベル。それを実証しようとしたわけでもありませんが、ボーナスにはこの日のサウンドボード録音も数曲収録しています。これは地元スペインのテレビ局で放送された映像のモノラル音声が元になっています。「Like A Rolling Stone」の映像などは妙なエフェクトが施された編集を記憶しているマニアもおられることでしょう。よってサウンドボード録音ではありますが、マルチトラック録音のようなクリアネスは望むべくもありません。ディラン弾き語りになると十分に楽しめるクオリティですが、バンド演奏になると今回のオーディエンス録音の鮮やかな臨場感や肉欲的にすら映る演奏のリアルな質感には及びません。つまり、ここぞとばかりに「下手なサウンドボード録音」をボーナス収録してみせた訳です(笑)
とにかく1984年ツアー最高の名演と呼ばれただけあって、この日の演奏は本当に素晴らしい!先にも触れたように、バンドのコンディションが一番いい時期だったというのが大きな要因だったと思われますが、文字通り熱狂的なバルセロナのオーディエンスのレスポンスがまた素晴らしく、それがディランの心を動かしたのは間違いありません。その証拠がこの日を締めくくった「Blowin’ In The Wind」の大合唱と、それに大喜びして何度もオーディエンスに歌わせようとしたディランの姿でしょう。そこで今回もリリースに際し「THE BEST SHOW」のタイトルを冠したのです。もちろんバンド全体も最高のコンディションにあった時期ですので、ミック・テイラーも「I And I」を皮切りとして、ホットなフレーズを思う存分弾いてくれています。ベーシストのグレッグ・サットンがディランの休憩タイムに歌う「I've Got To Use My Imagination」でも凄まじい弾きっぷりで、ディランと関係ない演奏だからと飛ばす訳にはゆきません。むしろテイラーのリードに注目するつもりで聴き込んでみれば、彼の圧倒的なプレイに打ちのめされてしまうはず。そしてアンコールの「Knockin' On Heaven's Door」からは、ディランの前座を務めていたカルロス・サンタナも登場。何しろ音質が抜群ですので、泣きのトーンとタメを使い分けるサンタナと、流麗なフレーズで押しまくるテイラーのプレイの違いも一目瞭然。ゴスペル期を終え、久々にストレートなロック・サウンドをバックに、バルセロナの観客を大いに沸かせ、さらにはディラン自身も大いに楽しんだという伝説のライブを捉えた極上音源を収録。世界中のマニアが待ち望んであろう、1984年6月28日バルセロナ公演の決定版リリースをライブから32年後の6月28日に堂々アナウンスさせていただきます!
Minestadio del F.C. Barcelona, Barcelona, Spain 28th June 1984 TRULY PERFECT SOUND
Disc 1 (77:48)
1. Introduction 2. Highway 61 Revisited 3. Jokerman 4. All Along The Watchtower 5. Just Like A Woman 6. Maggie's Farm 7. I And I 8. License To Kill 9. I've Got To Use My Imagination (sung by Greg Sutton) 10. A Hard Rain's A-Gonna Fall11. It Ain't Me, Babe 12. It's Alright, Ma (I'm Only Bleeding)
13. Simple Twist Of Fate 14. Masters Of War 15. Ballad Of A Thin Man 16. Enough Is Enough
Disc 2 (79:27)
1. Every Grain Of Sand 2. Lay Lady Lay 3. Like A Rolling Stone 4. Mr. Tambourine Man 5. Don't Think Twice, It's All Right 6. Girl From The North Country 7. Knockin' On Heaven's Door (with Carlos Santana) 8. Senor (Tales Of Yankee Power) (with Carlos Santana)
9. The Times They Are A-Changin' (with Carlos Santana) 10. Tombstone Blues (with Carlos Santana) 11. Blowin' In The Wind (with Carlos Santana)
Bonus Tracks Soundboard recording from TV broadcast
12. Like A Rolling Stone 13. Mr. Tambourine Man 14. Don't Think Twice, It's All Right 15. Blowin' In The Wind
Bob Dylan (vocal, guitar & harmonica) Mick Taylor (guitar) Ian McLagan (keyboards) Greg Sutton (bass) Colin Allen (drums)