2016年4月いっぱいをかけて列島を染め変えたボブ・ディラン。その後に行われた全米ツアーの最高傑作録音が登場です。当店では、これまでも『WOODINVILLE 2016 1ST NIGHT』『NASHVILLE 2016』『KETTERING 2016』でリアルタイム・レポートを続けてきましたが、どれも通常リリースまでは至らないものばかりでした。しかし、遂に週限定ではなく、長く皆さまにご紹介し続けられるクオリティの逸品が登場したのです。まずは、4月末に日本を離れた後の足取りから始めましょう。
・4月4日-28日:日本ツアー(16公演)《5月20日『FALLEN ANGELS』リリース》・6月4日-7月17日:米国ツアー(30公演)《約2ヶ月半オフ》 ←★今ココ★・10月7日&14日:インディオ2公演
このように、現在は30公演の全米ツアーも終了し、オフに入っていることろ。世界のマニア達が音源を整理し、全米ツアーを総括しようとしているタイミングです。そんな中、飛び出してきたのが本作。「2016年7月13日フィラデルフィア公演」のオーディエンス・アルバムなのです。正直なところ、日本公演はクリスタル・クリアに輝く名録音が次から次へと生まれましたが、その後の全米ツアーはかなり厳しかった。日本公演の2倍に及ぶ公演数がありながら、日本録音の基準に近づけたのは『NASHVILLE 2016』1本だけだったと言わざるを得ません。しかし、そのナッシュヴィル録音も日本“基準”に追いついた止まりであり、日本の“名録音”のレベルではなかった。本作のクオリティは、そんな世界でも類を見ないほど高い“日本の名録音”にも匹敵する傑作なのです。そのクオリティは、まさに日本の名盤たちを思い起こすに十分なクリアさ。会場の空気感も吸い込みつつ、その空気が透明に透き通っている。絶妙な会場音響は真っ直ぐに届くディランの歌声を彩りはしても、決してエッジをボカすことはない。もちろん、ギターやリズム隊もクリアに引き立ち、ただただ、ひたすらに美しいライヴアルバムなのです。クオリティは“まるで日本公演”ではあっても、やはり本作は日本ではない。一番の違いは選曲。日本では1公演を除き完全に固定されていたセットリストですが、全米ツアーを続ける間に徐々に変化しています。その注目曲は、フランク・シナトラのカバー「Full Moon And Empty Arms」と「Stay With Me」、ポール・ホワイトマンのカバー「How Deep Is The Ocean?」の3曲。「Full Moon And Empty Arms」は、昨年のヨーロッパツアーでも演奏されていた曲ですが、今年は3公演だけ。本作はそのうち2公演目となる演奏です。それ以上なのが「How Deep Is The Ocean?」で、こちらは今回の全米ツアーで初めて歌われた曲。日本公演はおろか、今まで誰も聴いたことのなかったディラン・バージョンが極上サウンドで体験できるのです。更に、この日はこれまでアンコールラストの定番ナンバーだった「Love Sick」が外れ、代わりにシナトラのカバー「Stay With Me」がセットインしたこと。そんなレアな3曲だけでなく、本作全体を包む空気感も日本公演とはまったく違う。日本では“1音たりとも聞き逃すものか”といった緊迫感が会場に満ち、針が落ちる音さえ気になるような静寂。曲間になると、その一気に喝采が沸き上がるムードでした。しかし、本場アメリカの観客たちはリラックスしてディランの歌声をたっぷりと楽しんでいる。それは1曲目の「Things Have Changed」からして明らかで、演奏が始まるどころか、御大が歌い出しても思い思いに声援を送る。もちろん、ディランの観客ですから「演奏も聴かずに大暴れ」などという事はあり得ないのですが、お気に入りのパート、フレーズ、そして御大の仕草に敏感に反応する。演奏中に話し合ってさえいるのです。日本人だったら無意識下に「声を出しても大丈夫かな」と空気を読んでしまうのでしょうが、アメリカの観客達は一瞬たりとも迷わない。“空気を読む”のではなく、“空気を作り出す”オーディエンスなのです。もちろん、そんなオーディエンスも本作の極上クオリティを微塵も揺るがさない程度の音量です。しかし、楽音の下地にそんな空気感が漂い、リラックスしたムードが御大の歌声を活き活きとさせてもいる。日本公演の緊張感も代え難い美しさではありますが、これこそが本場。これこそが本来、ディランの音楽を育んできた空間。その説得力がたっぷりと詰まったライヴアルバムなのです。 日本公演の名作群に匹敵するサウンド・クオリティでありながら、まるで違う表情を魅せてくれる1本。このノリ、ムードで楽しめることがちょっと羨ましくもなってしまう名録音です。日本公演の想い出を蘇らせるというより、ディランと一緒にアメリカに渡った気分で浸っていただきたいライヴアルバム。
Live at The Mann Center, Philadelphia, PA. USA 13th July 2016 TRULY PERFECT/ULTIMATE SOUND
Disc 1(43:57)
1. Things Have Changed 2. She Belongs to Me 3. Beyond Here Lies Nothin' 4. Full Moon and Empty Arms 5. Pay in Blood 6. Melancholy Mood 7. Duquesne Whistle 8. How Deep Is the Ocean? 9. Tangled Up in Blue
Disc 2(53:15)
1. High Water (For Charley Patton) 2. Why Try to Change Me Now 3. Early Roman Kings 4. I Could Have Told You 5. Spirit on the Water 6. Scarlet Town 7. All or Nothing at All 8. Long and Wasted Years 9. Autumn Leaves 10. Blowin' in the Wind 11. Stay With Me