
GENESISはもちろん、初期ソロの名曲から最新作に至るまで“ハケットのプログレッシヴ・ロック”を一挙に総括して魅せた今回の来日公演。その中でもフルスケールの初日公演を完璧に録音しきった『KAWASAKI 2016』(以下2CD)は、問答無用の大傑作です。そんな本作の正体は「2016年5月21日クラブチッタ川崎」公演のイヤー・イン・モニター(IEM)アルバムです。すでにご存じかと思いますが、IEMとは演奏中のメンバーやスタッフが聴いているワイヤレスの電波を傍受したもの。PAを通さない近似サウンドボード的な音源で、ライン音源に匹敵するクリアさとビビッドな楽音が人気です。ただし、ショウの進行を把握するのが主目的なので、観客に聴かせるミックスとは異なり、芸術的には歪なものも多い。また、電波傍受だけに環境に左右されやすく、ショウを完全収録できることも希です。そのため、同じライヴのオーディエンス録音とマトリクスし、全体を客席録音で通し、その楽音にエッジを加えるのが通例なのです(一方で出音とは異なるマトリクスに不自然さを感じる方もいて、好悪が激しく分かれがちです)。……とまぁ、これがIEMの基礎。本作も本2CDのオーディエンス録音とのマトリクスも考案されたのですが、本編オーディエンスがあまりに完璧なため、IEMの入り込む余地がありませんでした。本来であれば、そこで歴史の闇に消えていくところですが、本作のクオリティは消し去るには惜しかった。実は、IEM傍受の専門家による記録でして、上記したようなIEMの欠点がほとんどないのです。冒頭こそ、受信不良のノイズが散見しますが、それもすぐになくなり、全編を綺麗に捉えきっている。しかもミックスの完成度も高く、“音楽作品”として十二分に楽しめるクオリティなのです。そのビビッドな楽音がとにかく素晴らしい。各楽器の分離も鮮やかで1つひとつ、1音1音が“立って”いる。何から何までクリアですが、特に鮮烈なのがコーラスやハケットの日本語MC。マイクに押しつけた口元の息づかいまでもが聞こえ、まるで自分がマイクになったかのように感じるほどなのです。もちろん、コーラスだけが特出しているわけではありませんが、これほどまでの密着感はPAの出音を録音した2CDでも聴けないものなのです。もちろん、2CDのナチュラルで極上の音世界には遠く及ばないわけですが、それでもなお、無視するには美味しすぎる1枚。
Live at Club Citta, Kawasaki, Japan 21st May 2016
Disc 1 (76:40)
01. Intro 02. Corycian Fire (intro only) 03. Spectral Mornings 04. Out of the Body 05. Wolflight 06. Every Day 07. Love Song to a Vampire 08. The Wheel's Turning 09. Loving Sea 10. Icarus Ascending 11. Star of Sirius 12. Ace of Wands 13. A Tower Struck Down 14. Shadow of the Hierophant
Disc 2 (65:47)
01. Intro 02. Get 'Em Out by Friday 03. Can-Utility and the Coastliners 04. The Cinema Show 05. Aisle of Plenty 06. The Lamb Lies Down on Broadway 07. The Musical Box 08. Member Introductions 09. Dance on a Volcano 10. Firth of Fifth 11. Outro.