唯我独尊の革命児イングヴェイが対等な相棒ジョー・リン・ターナーと組んだ特別すぎる名作『ODYSSEY』。その来日公演を記録した名門キニーの大名盤が誕生。そんな本作に刻まれているのは「1988年8月25日:日本武道館」公演。その極上オーディエンス録音です。「キニー」「1988年」と来れば、オリジナル・カセットから起こされた『DEFINITIVE YOKOHAMA 1988(Zodiac 355)』も記憶に新しいところですが、もちろん本作はあの大名盤の姉妹作になるわけです。そんな姉妹も含め、まずは当時の日程からショウのポジションを確かめてみましょう。・8月16日『FIRST ODYSSEY(名古屋)』 ・8月17日『SPEED AT NIGHT(大阪)』・8月18日『LOST ODYSSEY(大阪)』・8月20日『KYOTO 1988』・8月23日『DEFINITIVE YOKOHAMA 1988』・8月25日:日本武道館 ←★本作★※注:各日とも代表作のみ。 以上、全6公演。インググヴェイはALCATRAZZの初来日から4年で4度目。元RAINBOWとして人気の高いジョーと組んだ事もあり、遂に日本武道館の大舞台に立ったわけです。少年時代にリッチー・ブラックモアに心酔していたイングヴェイにとって、日本武道館は特別な会場。あの『MADE IN JAPAN』の現場に臨む意欲に燃えたライヴをフル体験できるアルバムなのです(ちなみに大阪フェスティバルホールはALCATRAZZで体験済み)。それだけ特別なショウを記録した本作は、サウンドも特別。何しろ、あの名門キニーのオリジナル・カセットからダイレクトにCD化した銘品中の銘品。しかも、キニー・コレクションでも特級の1作なのです。残されたチケットによると「1階席南西A列」で録音されたようですが、これこそ日本武道館のスウィート・スポット。もちろん、録音家の得手不得手によってスウィート・スポットは変わるものですが、このポジションはほとんど失敗しないとも言われているのです。実際、本作のサウンドはそれを音で証明しているようでもあり、骨太な芯も鮮やかな輪郭もえらくビビッド。音色にオーディンスらしさも感じられるのでサウンドボードと間違えはしませんが、クリアさやダイレクト感はそんじょそこらのFM放送にも負けない。常にクリアさで飛び抜けているキニー録音ですが、本作はその中でもサウンドボードっぽさの強いパワフル録音なのです。そのサウンドで描かれるのは、イングヴェイにとってもジョーにとっても二度となかった“マジカル”なフルショウ。彼らのライヴと言えば『TRIAL BY FIRE』が基準となりますので、ここで比較しながらセットを整理してみましょう。・RISING FORCE:Far Beyond The Sun/Black Star・MARCHING OUT:I'll See The Light, Tonight(★) ・TRILOGY:Liar/Queen In Love/You Don't Remember, I'll Never Forget/Trilogy Suite Opus 5・ODYSSEY:Rising Force/Deja Vu/Crystal Ball/Heaven Tonight/Now Is The Time(★)/Dreaming(Tell Me)/Faster Than The Speed Of Light(★) ・カバー他:Adagio(★)/Budokan Blues(★◆)/Smoke On The Water(★◆)※注:「★」印は『TRIAL BY FIRE』では聴けない曲。「◆」印はジェフ・バクスターとの共演。……と、このようになっています。「Rising Force」「Dreaming(Tell Me)」のようにイングヴェイ/ジョー双方の定番になっていく曲も演奏されますが、「Crystal Ball」「Heaven Tonight」あたりをジョーの歌声で聴けるのは当時ならでは。もっと言えば、「Now Is The Time」「Faster Than The Speed Of Light」はこのツアーでしか演奏していないにも関わらず、『TRIAL BY FIRE』でも聴けない名曲群なのです。もちろん、『ODYSSEY』以外のナンバーも美味しい。ジョーはマーク・ボールズのように超ハイノート・シンガーではないわけですが、絶頂期だったために届くべきパートでは届き、他のシンガー達では絶対にやらないスキャットや即興もカッコイイ。味気なくなりがちなネオクラシカルHRにソウルフルな味わいを注入していくのです。また、日本武道館ならではのスペシャルだったのがアンコール。THE DOOBIE BROTHERSのジェフ・バクスターが登場し、即興ブルース「Budokan Blues」と「Smoke On The Water」で共演するのです。本編のネオクラシカル・テイストとは異なるブルージーなコーナーなのですが、これも実に面白い。ジェフとジョーは本場のブルース趣味を繰り広げつつ、イングヴェイはあくまでジミヘンがフィルターになった欧州人らしいフレーズで対抗。これもまた『ODYSSEY』時代ならではのコラボレーションなのです。ネオクラシカルなイングヴェイと、ポップなジョー。2人のコラボレーションはミスマッチになりそうなギリギリの線でマジックを起こし、『ODYSSEY』を異色の大名盤にしました。しかし、その本領は実はステージにこそあった。ポップさのない格調高い過去のネオクラ曲もソウルフルに味付けされ、クラシカルなインプロヴィゼーションと混じり合っていく。そんな奇跡の時代にあって、本作は両者の意欲が最高潮に燃え上がっていた“日本武道館の夜”を名門サウンドで真空パックしたライヴアルバムです。これこそ『ODYSSEY』自体と同等の価値を持つであろう大名盤。 Live at Budokan, Tokyo, Japan 25th August 1988 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters) Disc 1 (63:19) 1. Intro 2. Rising Force 3. Liar 4. Queen In Love 5. Deja Vu 6. You Don't Remember, I'll Never Forget (incl. Street Of Dreams) 7. Keyboards Solo 8. Crystal Ball 9. Adagio 10. Far Beyond The Sun 11. Bass Solo 12. Heaven Tonight 13. Now Is The Time 14. Drum Solo 15. I'll See The Light Tonight Disc 2 (45:06) 1. Trilogy Suite Op.5 2. Krakatau/Solo 3. Dreaming (Tell Me) 4. Faster Than The Speed Of Light 5. Black Star 6. Budokan Blues (with Jeff Baxter) 7. Smoke On The Water (with Jeff Baxter) Yngwie J. Malmsteen - Guitars Joe Lynn Turner - Lead Vocals Jens Johansson - Keyboards Barry Dunaway - Bass, Vocals Anders Johansson - Drums