「WITH THE BEATLES」はセカンド・アルバムということもあり前作と比べてよりオーバーダビングが盛り込まれており、同じ2トラック・ステレオ録音でもさらにデミックスし甲斐のある一枚だと言えるでしょう。このアルバムのデミックスに関してもLord Reithの最終トライを元にした「WITH THE BEATLES STEREO REMIX REVISED EDITION」で極められた感がありましたが、今回の「Prof. Stoned」による新たなステレオ・イメージの仕上がりはこれまた素晴らしいの一言。ボーカルを真ん中に配置し、なおかつ演奏を左右に振り分けたという4トラック録音的なステレオ・イメージ、あるいは派手なステレオの分離感を求める向きには「WITH THE BEATLES STEREO REMIX REVISED EDITION」(以下“既発盤”と称します)の方が良いかもしれません。それに対し「Prof. Stoned」はオーバーダブを多用して厚みを増した本アルバムのサウンドの迫力を2022年的な洗練された仕上がりでまとめ上げたというもの。よって「PLEASE PLEASE ME」のデミックス以上にLord Reith版とは異なるステレオ・イメージとなっているのです。しかし今振り返ってみると、既発盤はアルバムB面のテンポが速くてドラムと手拍子が一緒くたになっている曲、例えば「Roll Over Beethoven」などではAIが攻め切れておらず、ドラムと手拍子が中途半端に干渉してシャカシャカとした感触が残ってしまったのですが、今回はそれぞれが見事に分離しており、中でも手拍子は左チャンネルから軽やかに鳴っています。同じことは「Till There Was You」にも当てはまり、既発盤では分離しつつも虚ろなバランスだったコンガが今回はきっちり左側から鳴っている。この辺りはデミックス技術の進化がモノを言った結果かと。よってヘッドフォンでじっくり演奏の分離具合を楽しむなら既発盤ということになるのでしょうが、それぞれの楽器のディテールが奇麗に分離しつつ、それでこのアルバムならではと言える厚みを増したサウンドの迫力と共に楽しむなら今回のバージョンだと言えるのではないでしょうか。その演奏の迫力が伝わってくる仕上がりでありながら、それでいて「I Wanna Be Your Man」のような曲になるとジョンとポールのバックコーラスが左から飛び出してくるのが今回のリミックスならでは。演奏の分離にこだわりすぎることなく、それでいて2022年の今のリスナーが聞いても迫力のあるサウンドのアルバムに生まれ変わったという。それに何と言っても「Prof. Stoned」ならではのマスタリングによるナチュラルでふくよかな音質に生まれ変わった聞き心地も抜群。そしてボーナストラックの中では「She Loves You」のデミックスがずば抜けた仕上がり。同時リリースとなる「PLEASE PLEASE ME 2022 STEREO REMIX」のアルバム中盤におけるモノラル音源パートが証明していたように、「Prof. Stoned」はモノラルしか存在しない音源を分離させるセンスと技術が抜群。ご存じのようにシングル用モノ・マスターしか現存しない本曲、遂にここまで見事なステレオ化が実現したのか…と感激されること間違いなし。Lord Reithですらこの曲に関しては苦心している様子が伺えましたので、なおさら今回の仕上がりの良さが際立ちます。もはやボーナスながら本トラックが目玉の一つだと言えるほど素晴らしい「She Loves You」のステレオ化。1966年になってベストアルバム「A COLLECTION OF BEATLES OLDIES」用に初めて本曲のステレオを作らなければいけなくなった際、苦し紛れの疑似ステレオが作られたことを考えると、文字通り隔世の感があります。THE BEATLES - WITH THE BEATLES 2022 STEREO REMIX(1CD) (42:22) 01. It Won't Be Long 02. All I've Got To Do 03. All My Loving 04. Don't Bother Me 05. Little Child 06. Till There Was You 07. Please Mister Postman 08. Roll Over Beethoven 09. Hold Me Tight 10. You Really Got A Hold On Me 11. I Wanna Be Your Man 12. Devil In Her Heart 13. Not A Second Time14. Money Bonus Tracks 15. She Loves You 16. I'll Get You 17. I Want To Hold Your Hand 18. This Boy