オフィシャル級オリジナル・マスターから起こされた完成直前の『ROCKS』。まさに「もう1つのROCKS」と呼ぶべき文化遺産です。その一方で『ROCKS』には通常バージョン完成後にも別ミックス盤が製作されていました。「さらにもう1つのROCKS」となる別ミックス・アルバムも同時コレクトしていただけるよう販売決定です。そんな本作の正体は、大名盤『ROCKS』のクアドラフォニック・ミックス。70年代にはいくつかの作品で4chステレオ盤がリリースされましたが、AEROSMITHの場合は3作品。『GET YOUR WINGS』『TOYS IN THE ATTIC』『ROCKS』が制作されました。これらは単に4ch仕様というだけでなく、音楽的にも完全に別ミックス。中にはバランスが異なる程度のものもありますが、2ch盤にはなかった音が入っていたり、まったく別テイクが使われることもあった。もちろん、当時のバンド自身が制作しているだけあってセンスも完成度も2ch盤に劣らず、“名盤のもう1つの姿”が正規に記録されているのです。本作は、そんなクアドラフォニックの『ROCKS』。その最高峰クオリティ盤なのです。AEROSMITHのクアドラフォニック版は、当時の米COLUMBIAが8トラック・カセットとアナログ盤でのみリリースしましたが、本作はオリジナルLP『PCQ 34165』のミント盤を使用。海外のオーディオ・マニアが精緻にデジタル化したのです。このマニアがただ者ではない。最近、当店では70年代アナログをデジタル化した作品を多数ご紹介しており、特にBLACK SABBATHの初期作品群やジェフ・ベックの『WIRED UK ORIGINAL LP』『TRUTH: ORIGINAL UK LP MONO PRESSING』などが大好評。本作は、その名作群と同じマニアが手がけたものなのです。そのクオリティは異常。本来、アナログ起こしの宿命であるはずの針パチが1つも見当たらず、回転ムラもまったく感じられない。しかも、このマニアは初回再生の音をそっくり残すだけで、デジタル化後に加工処理を行っていない。それにも関わらず完璧な再生音であり、後年の正規CD化サウンドよりも遙かにリアルでマスター・テープに肉薄するサウンドを復刻しているのです。近年、海外ではアナログ復権が著しいわけですが、だからこそアナログ復刻の技術も飛躍的に進化している。その最先端サウンドなのです。本作もまた、そうした工程で制作されています。しかも、正規CDとはまったく違うクアドラフォニック・ミックス。通常2chステレオ用のCDに落とし込んではおりますが、まったく別の音世界が楽しめるのです。それでは、各曲をご紹介していきましょう。SIDE A-1: Back In The Saddleいきなりまったく違う! 通常版に入っていたイントロの馬の嘶きがなく、蹄の音がデカい。もちろん、これはミスなどではなく、はっきりと狙ってのもの。この蹄の音が思いっきりパンしており、グルグルと頭の中を駆け回るのです。本作は一般の2chステレオ用CDですが、それでもこの効果は圧倒的。ぜひ、ヘッドフォンでお楽しみいただきたいところです。また、効果音だけでなく、バンドの演奏も遙かに3次元。特に「2:48」のギターにはご注目ください。あらぬ方向からガン!と一発カマして、ハッとさせられる。正規CDでは真っ平らになっていたバンドの意図がはっきりと刻まれています。SIDE A-2: Last Childもっとも違う曲が「Last Child」。イントロからヴォーカルのミックスやフェードのバランスが異なりますが、それ以上に完全別テイク。歌詞まで違う別物トラックなのです。メイン・ヴォーカルに向かって歌いかけるような“Home sweet home!”・“Stand up!”の立体感も鮮烈です。SIDE A-3: Rats In The Cellarイントロで鳴る街頭のSEが長くなっており、しかもまったくの別物の音も収録されています。この曲もヴォーカルの立体感が凄い。まるで2人のスティーヴンが別の位置からかけ合い。正規CDでもかけ合いになっていますが、その感覚がまったく違う。ステージに喩えるなら正規CDが1本のマイクで2人が歌うような感じであり、本作はステージの両端からかけ合うような感じです。SIDE B-1: Combination/B-2: Sick As A Dogこの曲はそれほど大きな違いはなく、ステレオ感も正規CDに似ています。こうなると、オリジナルLPのサウンドの良さに気付く。ミックス違いばかり気になってしまいますが、本作の凄味はサウンドそのものにもある。たとえまったく同じミックスでも、サウンドは遙かに自然で、マスター・テープに肉薄するオリジナルLPの鮮度をたっぷりと味わえるのです。……と、安心して(?)いるところで不意を突くのがギターソロやコーラス。正規CDとはまったく異なるパンでギターが入ってきて、頭の中をグルグルと浮遊。コーラスもあらぬ方向から「Sick as a dog!!」と切り込んでくる。やっぱりクアドラフォニックは凄い!SIDE B-3: Nobody's Faultこれまた立体感が凄い。イントロで2本のギターが左右から飛びまくり、曲中のピアノや効果音もグルグルと脳みそをかき回す。正規CDではただの下敷き音だったものが、躍動しまくる。さらに凄いのはギターソロ。もうアチコチから乱れ飛び、定位もへったくれもない。ジョー・ペリーが分身の術でも使っているかのよう。こうした処理も、ただ派手にしているわけではなのです。浮遊しまくるステレオ感は、眩惑感やトリップ感にまでなっており、70年代サウンドにメチャクチャ似合う。まるでPINK FLOYDでも聴いているかのようです。SIDE B-4: Get The Lead Out色鮮やかなステレオ感が鮮烈なクアドラフォニックですが、真逆なのが「Get The Lead Out」。正規CDではイントロのギターがフェイド・インしながら右から左へパンしますが、本作はフェイドもパンもない。とは言え、立体感に乏しいかと言うと、さにあらず。曲中にビートに合わせた効果音が被せられているのですが、これがはっきりと感じられる。正規CDでは楽器音と混同して分かりづらい音も別方向から鳴り、「こんな音まであったのか!」の発見が多い。もちろん、相変わらずギター・ソロもフワフワと眩惑してくれます。SIDE B-5: Lick And A Promise浮遊するのはギターだけじゃない。この曲はスネアの連打でスタートしますが、本作ではこれがグルグル回る回る。さらに素晴らしいのは大歓声。この曲は後半でライヴを意識した歓声が重ねられていますが、正規CDでは立ち上がりの「ワァー」だけ大きく、すぐに小さくなってしまう。ところが、本作ではその後も大きく収録され、そのまま“Na, na, na♪”のコーラス・パートへと自然に繋がっていく。このムードが最高! 正規CDでは「何の音?」と思われても仕方ない感じでしたが、本作はハッキリとコンサート感だと分かる。バンドの意志がクッキリと感じ取れるミックスなのです。SIDE B-6: Home Tonightこの曲はさして派手な違いはありませんが、やはり正規CDよりもダイナミック。バンドの演奏は大団円に相応しいダイナミズムがあり、歌声も寄り添うようにリアルです。下手な小細工はないわけですが、ここからもクアドラフォニックへの本気度が分かる。単に「どっか変えればいいんだろ?」ではなく、より凄くできる曲は大胆に変えて、必要のない曲で無意味なことはしない。キチンと作品としての美学を持ってクアドラフォニックの可能性を探究しているのです。「完成後の別バージョン」。一旦完成した上で可能性を追求した「本当に作りたかったであろうROCKS」なのです。そんなクアドラフォニック・ミックスをアナログ起こしに執念を賭けるオーディオ・マニアが精緻にデジタル化した史上最高峰盤。マスター・テープのサウンドだけでなく、“こういう作品にしたかった”というバンドの本音にまで肉薄できる希代の大傑作。 Taken from the original US Quadraphonic LP(Columbia, PCQ 34165) *Different Mix!!