RAINBOW伝統のオフィシャル映像集『THE FINAL CUT』。その笑撃バージョンがリリース決定です。『THE FINAL CUT』については解説する必要もないでしょう。RAINBOW消滅後の1986年になって発売されたオフィシャルの映像作品。ビデオクリップを中心に、1982年や1984年のライヴ映像も交えてグラハム・ボネット/ジョー・リン・ターナー時代を総括するプロショット集でした。本作はその日本盤なのですが、お馴染みのものとはちょっと違う。1998年に短期間だけ再発された初DVDバージョンなのです。何が「ちょっと違う」のかと言えば、字幕。「MCもなければドキュメンタリーでもない作品に何の字幕?」と思われるかも知れませんが、全曲・全歌詞に字幕が付いている。それも英語の元歌詞だけでなく、日本語対訳まで! 元歌詞もカラオケ的で意外と便利だったりするのですが、やはり強烈なのは対訳字幕。これがもう凄いインパクトなのです。基本的には「字幕なし」がデフォルトになっていますが、日本語字幕を設定して再生するといきなりビックリ。リッチーが空のステージに座っているジャケット・アートに乗ってドロシーがしゃべり、そこには字幕「でもカンサスにはもう僕らいないみたいだ 僕らはレインボーを超えたんだね レインボーレインボーレインボー」。何もエコーで繰り返される声に合わせて律儀に3回書かなくても……と突っ込むヒマを与えず快走する「Spotlight Kid」が凄いのなんの! ジョーがおもむろに歌い出すや「おまえは何が起きてるのか知らない おまえは家に帰りたい」と始まり、「観衆はどよめいている」「おまえは立ち上がり一晩中楽しめる」と畳みかけ。サビでは「皆おまえを愛してる」「でもおまえはスポットライトを愛する」と来たもんだ。内容的に間違っているワケではないのですが、耳に馴染んだ歌やメロディと、表示される日本語が脳内でどうしても一致してくれない。さらに「Jokers and women」が「追っかけや女達」で、「pleasure machine」が「快楽のからくり」で、「you fly every night」が「おまえは毎晩ブッ飛ぶ」。そして、「Encore one more time」が「アンコール今一度」……。何なのでしょう、この昭和感は。そしてラスト。「You're in love with the, you're in love with the, you're in love with the, Ahhhhhhh!!!」が「おまえは愛するおまえは愛するおまえは愛する スポットライトを」と訳してる。「Ahhhhhhh」の絶叫を「スポットライトを」はムリすぎというか、倒置法にしてでも意味を通しておかなきゃいけない強迫観念がやはり昭和的だったりするのです。そんな「Spotlight Kid」は1984年の日本武道館ライヴでしたが、続く「Death Alley Driver」はクリップ。そう、レースゲームや後部座席に座ったリッチーが手もみするアレです。あの映像にこの字幕が乗ったらどんな破壊力が……と思っていると、表示されるのが「荒々しく覚悟したライダー スーパー・ソニック・マシーンの中」。じんわり心掻き立てられたところで「Rock and Roll survivor」の訳が「発進だサバイバー」!!!! 「Rock’n’ Roll」を「発進」と超訳してまで、まさかのスーパーロボット風。たしかに1981年と言えば劇場版『機動戦士ガンダム』が一世を風靡していましたが……。さらに「All Night Long」と「Since You Been Gone」を歌うグラハムも凄い。例のサングラスで口をひん曲げて歌う姿はお馴染みですが、そこに日本語字幕が乗るといきなりヤクザ感が爆増。マイクを鷲づかみにしながら「俺にはずっといてくれる女が必要」と歌い、血管浮き立たせては「お前は品はないけれども足は長い」、小刻み震えながら仰け反って「やあ、ワインでも飲むかい?」。「お前の毒の或る手紙や電報が知らしめるのは」とスゴんだかと思えば、「俺のことなんかお前は気にかけてなんかいないという事」と一転。本当にそういう歌詞ではあるのですが、こうもビビッドな日本語で言われてしまうと想い出横町が似合うチンピラにしか見えません。その後もミラーボールをバックにした「溺れていく(I surrender)」に昭和を感じ、「汚れた肴にマイクロチップ(Contaminated fish and micro chips)」に「肴じゃなく魚だろ!」と突っ込んだり。実はギャグばかりでもなく、環境問題を歌う「Can't Happen Here」では公害や文明批判、ベトナム戦争、リニア、ICBM……いった映像と歌詞がリンクしている事が実感でき、映画風な「Street Of Dreams」のPVに字幕がビシッとハマッてカッコイイ。とにかく1曲も、一瞬たりとも気が抜けない映像作なのです。目と耳に焼きついているお馴染みのプロショット映像たち。それがまったく違って見える日本語字幕が強烈な1枚です。直訳ロックで一世を風靡した「王様」のように笑えるけど、演奏も歌も本物。しかも、狙っているのかいないのかギリギリの翻訳センスも絶妙。こんなオフィシャル作品が人知れず発売され、そして消えていったとは……。音楽シーンそのものの奥深さまで改めて思い知る傑作……いえ、怪作であり快作です。 RAINBOW - THE FINAL CUT: Lyrics Subtitles Edition 1. Spotlight Kid 2. Death Alley Driver 3. I Surrender 4. All Night Long 5. Can't Happen Here 6. Difficult To Cure 7. Can't Let You Go 8. Power 9. Since You Been Gone 10. Stone Cold 11. Street Of Dreams PRO-SHOT COLOUR NTSC Approx.57min.