珍しい1992年ツアーのオーディエンスショット!本盤はエリック・クラプトンが1992年に実施した全米サマーツアーから、5月8日のニュージャージー公演を良好なオーディエンスショットで完全収録したものです。このツアーは、前年に起こった幼い息子さんの事故死という悲劇を乗り越え、シーンに復帰したクラプトンが本格的な活動に戻ったものとして実施されたものでした。前年初頭のロイヤル・アルバート・ホールでの「24 NIGHTS」とはバンドメンバーの入れ替えがあり、セットリストも変わった上に、この年の映像はあまり出回っていないので貴重です。アングルは、ステージに向かって左45度あたりの2階スタンドからのシューティングで、前方に客がいて、その隙間を縫って撮影しているという感じのものと、一部ステージ正面の2階スタンドからのものをミックスした形です。メインとなる左45度あたりの2階スタンドからのアングルは、クラプトンの姿を全身をメインで捉えており、ピントも合っていて表情まで判る良好なものですが、残念な点は序盤の4曲が映像なし(未収録)な上に、前方の客の影や拍手の手に邪魔されてアングルが定まらない箇所があることです。しかしそれもShe's Waitingの頃には落ち着きを見せてきて、ストレスは減じられます。素晴らしい点は、音声を完全別収録の良好なオーディエンスソースで完全シンクロさせていることで、撮影面でのトラブルが反映されることなく全編を楽しめます。制作側の苦労の末に完成した優れた映像作品と言えるでしょう このツアーのみのセットリストとステージ構成 さて、ここでこの公演が、この年のクラプトンの活動上どのような意味を持っていたのか、年表で振り返ってみましょう。≪1992年1月14日:サウンドトラック「RUSH」(Tears In Heaven収録)リリース≫・1992年1月16日:ロンドン郊外、ブレイ・スタジオにてMTV「アンプラグド」の収録・1992年2月1日~3月1日:イギリス・ツアー・1992年4月25日~5月25日:全米ツアー・ファーストレッグ ←★ココ★・1992年5月29日:ロンドンで開催されたファッションショーに出席。・1992年6月16日~7月12日:ヨーロッパ・ツアー・1992年8月11日~9月6日:全米ツアー・セカンドレッグ(スタジアム含む)≪1992年8月25日:「UNPLUGGED」リリース≫・1992年9月9日:ロサンゼルスで開かれたMTVビデオ・アワードに出席・1992年10月16日:マジソン・スクエア・ガーデンで開かれたボブ・ディランのデビュー30周年記念コンサートに出演・1992年12月31日:故郷のサリー州ウォーキングにて、恒例のアルコール中毒者の会向けチャリティコンサート「ニュー・イヤーズ・イヴ・ダンス」を開催 この年の初めには、空前の大ヒットとなった「アンプラグド」の収録を行なっていました。前年、4歳になる息子さんを不慮の事故で失うという人生最悪の悲劇に見舞われたクラプトンですが、ジョージ・ハリスンとのジャパン・ツアーを経、「アンプラグド」で息子さんに想いを託したオリジナル曲や原点回帰したブルースを演奏することで自分を見詰め直し、ツアーのステージに復帰した記念すべき節目の年でありました。精神的にどん底に落ちたクラプトンが、再び音楽に活路を見出した年として記憶されるべき一年でしょう。従ってこの年のツアー・メンバーは、「アンプラグド」でバックを務めたミュージシャンたちでした(但し、女性コーラスの一人は、テッサ・ナイルズからジーナ・フォスターに代わっています)。White Roomからのオープニングというのがクラプトンの気合を物語っているようで、この強烈な圧でコンサートは幕を開け、以降は90年のジャーニーマン・ツアーで見せたのと同じキレキレのプレイが畳み掛けられます。ブリッジ部のボーカルには、珍しいことにキーボードのチャック・リベルが抜擢されていました。今やストーンズのレギュラーメンバーともなった彼の歌声が聴けるレアなツアーだったのです。このツアーならではの選曲と言えば、やはり何と言ってもアコースティックセットにおけるCircus Left TownとTears In Heavenでした。現在のシッティングアコースティックセットとは違い、クラプトンはスタンディングでギブソンのエレアコをプレイするというレアな形です。この映像でそれが判明しました。当時、クラプトンはインタビューで「歌うのも悲しくなるこの曲がヒットしたために、ライブで演奏するとオーディエンスがお祭り騒ぎのように陽気に盛り上がる。このパラドクスに苛立ちを覚える」と語ったこともありました。しかしその後は、なるべく感情移入せずに歌い、オーディエンスを喜ばせることに徹するプロフェッショナリズムを見せたクラプトンでした。クラプトン自身、カタルシスはこの曲を作ったこと、「アンプラグド」で披露したことで達せられたと考えたのでしょう。しかしこの時点では、まだ感情移入されている、そうせざるを得ないと言った本盤でのパフォーマンスです。そのあたりも聴きどころかと。そして突如セットインした85年「BEHIND THE SUN」からのShe's Waiting。85年ツアーでは当然レギュラーでプレイされていたナンバーですが、本ツアーで7年ぶりにセットに組まれました。その意図は定かではありませんが、85年当時のプレイよりもよりオリジナル・スタジオバージョンに忠実な演奏になっています。そしてこの演奏の方が85年よりも迫力と凄みが増しているように感じられます。こうして聴くと、なかなか秀逸なクラプトンのオリジナル曲であったと再認識できます。この会場は、ステージ裏側にも客席があり、この曲ではクラプトンはサービスとしてドラムキットの裏側まで「遠征」してソロを弾き、そちらの席のオーディエンスを大喜びさせている様子も捉えられています。後半はジャーニーマン・ツアーと同様の王道ヒット曲路線を驀進します。Laylaの後奏のソロの締めでは、珍しくワイルドなコードプレイをかましています。Sunshine of Your Loveでは、中間でお馴染みのドラム&パーカッションソロも観られます(クーパーは珍しくドラムソロも披露しています)。この迫力あるパフォーマンスを聴けば、クラプトンが完全復帰したことが判り、当時のファンはほっと胸をなでおろしたことでしょう。この前年、マスコミでは、一人の人間の人生経験としては余りにも悲惨な出来事だっただけに「もうクラプトンは立ち直れないのではないか。またドラッグとアルコール中毒の深みにはまってしまうのではないか。」と連日報道されていたものです。それを自らの強い意志で乗り越え、ツアー復帰したクラプトンでした。70年代から80年代にかけての「弱く、だらしないクラプトン」のイメージを「強い男クラプトン」へと一気に変えさせたのがこのツアーだったと言えるかもしれません。彼のプロキャリアにおいて重要な節目となった年の重要なツアーのレア映像です。Brendan Byrne Arena, East Rutherford, NJ, USA 8th May 1992 01. White Room (No footage) 02. Pretending 03. Anything For Your Love (No footage) 04. I Shot the Sheriff (No footage) 05. Running on Faith (No footage) 06. She's Waiting 07. Circus Left Town 08. Tears in Heaven 09. Before You Accuse Me 10. Tearing Us Apart 11. Old Love 12. Badge 13. Wonderful Tonight 14. Layla 15. Crossroads 16. Sunshine of Your Love COLOUR NTSC Approx.137min. BAND LINEUP: Eric Clapton – guitar / vocals Andy Fairweather Low – guitar Chuck Leavell – keyboards Nathan East – bass Steve Ferrone – drums Ray Cooper – percussion Katie Kissoon – backing vocals Gina Foster – backing vocals