毎回、大好評を賜っているBLACK SABBATHの英国オリジナルLP復刻シリーズ。第5弾は、大名盤『VOL.4』の登場です。『VOL.4』ほど英国の名盤と呼ぶに相応しいアルバムはありません。原点のデビュー作、大代表作の『PARANOID』、ドゥームの聖盤『MASTER OF REALITY』……と、彼らの初期はいずれ劣らぬ名盤揃い。しかし、それらはサバスの名盤であり、ヘヴィ・ミュージックの祖。それに対して“英国ロック”そのものの輝きを体現し、濃厚な時代の薫りを発散しているアルバムこそ『VOL.4』。『MASTER OF REALITY』までに確立させたヘヴィ・サウンドを土台にしながらも、セルフプロデュースによってトニー・アイオミの実験精神が一気に爆発(マネージャーのパトリック・ミーハンもクレジットされていますが、彼がノータッチだったのはメンバー自身が証言しています)。キーボードやメロトロンを大胆に導入、「Changes」ではピアノバラードに挑戦し、「Wheels Of Confusion」では以前とはケタ違いのギター・トラックを多重録音。「FX」の眩惑感は「Solitude」「Planet Caravan」の延長と言えなくはないものの、もはや曲としての体裁さえも放棄するほどぶっ飛んだ実験精神を放っています。ライヴで再現することなど眼中になく(この時期のツアーには鍵盤奏者はいませんでした)、ただひたすら「音楽作品」を目指した最初のアルバムでした。そして、そんな彼らが目指した「作品」を正鵠に甦らせたのが本作なのです。そのクオリティはいわゆる“アナログ起こし”とは次元が違う。海外のオーディオマニアが制作したマスターで、英国Vertigoのオリジナル・リリース盤「6360 071」でも、ミント・コンディションのものを厳選使用。アナログ起こしに特化したハイエンド環境で、最初に針を落とした初回再生をデジタルにトランスファー。デジタル化後に一切の手が加えられていないにも関わらず、針パチ1つなく、回転ムラさえ感じさせない極上のサウンドが実現しているのです。そうしたクオリティは、これまでの諸作で証明済みですが、これが『VOL.4』となると更に嬉しい。今までの復刻作は最新リマスター盤よりも自然なことがポイントでしたが、本作にもその旨みがたっぷりと詰まりつつ、さたに最新リマスター盤にも匹敵するほど鮮やかな立体感が宿っているのです。もちろん、その立体感もリマスター盤のような作為の音圧稼ぎではなく、あくまでも自然で綺麗な山を描いている。また、VICTORの紙ジャケ盤のようにステレオ定位が反転しているものもありますが、もちろん本作こそがオリジナル通りの正しい定位です。この鮮やかさは、多彩な『VOL.4』だからこそでしょう。何ヶ所ものスタジオを渡り歩いたためにサウンドが不揃いなのは古くから言われる通りですが、その一方で詳細な重ねぶりは比類ない。猛烈に重ねられたギターやメロトロンを細部までキチッと表現し、聴かせたい。そのアイオミの意志が英国初盤サウンドからハッキリと伝わってくる。「FX」の怪音ひとつでさえ、深みと現実感がまるで違うのです。ステージで再現できないほど様々な楽器を導入し、「作品づくり」に没頭し始めたBLACK SABBATH。彼らが生み出したのは、単に重く激しいメタルなどではなく、豊かな叙情や実験を取り込み、プログレッシヴでさえあった英国ロックの粋でした。本作は、その象徴でもある名作『VOL.4』の本物。24歳だったアイオミが目指した美学、アート作品を正鵠に伝えてくれる1枚なのです。
Taken from the UK original LP (Vertigo 6360 071) (43:12)
1. Wheels Of Confusion 2. Tomorrow's Dream 3. Changes 4. FX 5. Supernaut 6. Snowblind 7. Cornucopia 8. Laguna Sunrise 9. St. Vitus Dance 10. Under The Sun