北米を制覇し、主戦場のヨーロッパへと帰ってきた2019年のNICK MASON'S SAUCERFUL OF SECRETS。そのワールド・ツアー最終盤から誕生した極上ライヴアルバムが登場です。そんな本作に収められているのは「2019年7月23日アムステルダム公演」。彼らはつい先日ワールド・ツアーを終えましたが、本作はその最新レポート。彼らの活動概要は今週同時リリースの『UMBRIA JAZZ FESTIVAL 2019(Amity 566)』の解説を参照頂くとして、ここではより絞り込んだ最新ヨーロッパ・ツアーの詳細からショウのポジションを見てみましょう。 ・7月3日『ULM 2019』・7月5日『AUGST 2019』・7月6日-16日(6公演)・7月17日『UMBRIA JAZZ FESTIVAL 2019』・7月18日-21日(3公演)・7月23日:アムステルダム公演 ←★本作 ・7月25日:プラハ公演・7月27日:ワルシャワ公演 これが終わったばかりの欧州ツアー。現在のところ、公表されている予定はここまでであり、2019年の活動は上記で終了となる見込みです。本作は最終の欧州ツアーの4作目になり、最後から3公演目を記録したライヴアルバムなのです。そんなショウを記録した本作は、極上にして端正なオーディエンス録音。このところ「クリア・タイプ」「ダイナミック・タイプ」「ムード・タイプ」の3種に分類するのが慣例となっておりますが、それに従うなら本作は「ダイナミック・タイプ」。サウンドボード並に力強く鮮やかな芯が迫りつつ、ほんのりとしたホール鳴りが中音域・重低音に迫力を宿らせ、ダイナミックな音世界を描き出すタイプです。実のところ、この「ダイナミック・タイプ」こそが一番人気でもあるわけですが、本作の個性はその鳴りが極めて端正で、気品まで感じさせること。オーラのようにディテールを隠さず立ち上る鳴りは、空気の振動さえ感じるほどに繊細でビロードのように滑らか。その上品でトロける美の響きを輪郭までクッキリとした芯が貫き、距離感も感じさせず耳元へ飛び込んでくる。「まるでサウンドボード」と呼ぶに相応しいクオリティでありつつ、オーディエンス録音なればこその美しさを湛えた名録音なのです。その要因はもちろん録音家の腕と絶妙なポジショニングにあるのでしょうが、この気品は会場のおかげかも知れません。現場となった“RAIシアター”は、ヨーロッパ最大級の複合カンファレンス・センター内にある1750名規模の劇場。1961年に開設された歴史を誇りつつ、貿易大国オランダの顔となってきた施設でもあります。これはまさにSAUCERFUL OF SECRETSにぴったり。60年代の音世界を現代的サウンドを甦らせるコンセプトをそのまま会場が体現しているかのようでもあり、最新録音らしいクリアがズバ抜けていながら、伝統を愛する欧州の気品を美しい鳴りに潜ませる。SAUCERFUL OF SECRETSは2019年のヨーロッパでもいずれ劣らぬ傑作録音を大量に残したわけですが、こと“美しさ”に関しては本作がベストでしょう。そして、そのサウンドで描かれる初期FLOYDナンバーは円熟の極地。北米ツアーから続く最大・完成形のセットは盤石であり、そのアンサンブルも鉄壁の域に達している。しかも、前後に休みを入れた日程によって余裕もダレもない。さらに言えば、アムステルダムは昨年の欧州ツアーでも序盤に大盛況を博し、彼らに自信を与えたであろう土地。すべての条件が揃っており、まさになるべくしてなった名演なのです。欧州だけでなく北米も制覇し、格段の飛躍を遂げた2019年のSAUCERFUL OF SECRETS。その凱旋ツアーとも言うべき欧州ツアーを極上体験できる美音の大傑作です。今後登場するかも知れない最終日ワルシャワの開放感が今から待ちきれなくなるライヴアルバムの銘品。 Live at RAI Theatre, Amsterdam, Netherlands 23rd July 2019 TRULY PERFECT SOUND Disc 1(60:11) 1. Intro 2. Interstellar Overdrive 3. Astronomy Domine 4. Nick Mason Introduction 5. Lucifer Sam 6. Fearless 7. Obscured By Clouds 8. When You're In 9. Remember A Day 10. Arnold Layne 11. Vegetable Man 12. Nick Mason Speaking 13. If 14. Atom Heart Mother 15. If (reprise) Disc 2(59:12) 1. The Nile Song 2. Guy Pratt Speaking 3. Green Is The Colour 4. Gary Kemp Speaking 5. Let There Be More Light 6. Childhood's End 7. Nick Mason Speaking 8. Set The Controls For The Heart Of The Sun 9. See Emily Play 10. Bike 11. One Of These Days 12. A Saucerful Of Secrets 13. Point Me At The Sky