ついに完遂された初期FLOYD復刻プロジェクトの2019年ワールド・ツアー。その終盤を象徴するであろう個性派ライヴアルバムが登場です。そんな本作に収められているのは「2019年7月17日ペルージャ公演」。ヨーロッパを代表する有名音楽祭“UMBRIA JAZZ FESTIVAL”に出演した極上オーディエンス録音です。このフェスはまさに祭り。夏はペルージャ、冬はオルヴィエートと年2回開かれるのですが、広場やホールで行われるいわゆるロック・フェスとは違い、街中が現場。レストランや劇場はもちろんのこと、路上、美術館、教会、地下洞窟等々、ありとあらゆるスペースでコンサートが開催される。ロック・バンドの出演は多くないのであまりロックファンには馴染みが薄いかも知れませんが、オーディエンス録音にはその独特なムードも宿る。当店では一昨年のKRAFTWERK『UMBRIA JAZZ 17』をご紹介したこともありますが、他のどの夏フェスとも違う雰囲気が美味しいのです。また、前述のようにこのショウは2019年ツアーの終盤でもある。まずは、いつものようにSAUCERFUL OF SECRETSの活動概要からショウのポジションを確かめておきましょう。●2018年・5月20日-24日:英国#1(4公演)・9月2日-21日:欧州#1(15公演)・9月23日-29日:英国#2(6公演) ●2019年・3月12日-4月22日:北米(28公演)・4月29日-5月4日:英国#3(5公演)・7月3日-27日:欧州#2(15公演)←★ココ★ これが現在までに公表されている初期FLOYD復刻プロジェクトの足跡。昨年はヨーロッパに終始していましたが、今年は北米まで進出。まさに“ワールド”なツアーでした。とは言え、その締めくくりはやはり主戦場のヨーロッパ。本作のウンブリア・ジャズ・フェス公演は、その最終盤となる「欧州#2」の9公演目にあたるコンサートでした。そんなショウを記録した本作は、これまでと同じく……いえ、これまで以上に極上。何よりも素晴らしいのは、晴れ渡るクリアさとド密着のシンクロ感。独特なウンブリア・ジャズのムードも吸い込んだオーディエンス録音には違いないのですが、肝心要の演奏音が素晴らしすぎる。多種多様な現場の中でもSAUCERFUL OF SECRETSが出演したのはメイン会場の“サンタジュリアーナ・アリーナ”であり、ここは大きく開けたオープン・スペース。そのため、音を反射する壁や天井が存在せず、文字どおり反響ゼロでPAの出力音をダイレクトに拾っている。しかも、単にクリアなだけではない。綺麗に伸びる高音はもちろんのこと、中音域も手応えたっぷりで力強く、重低音もヴァイヴまで鮮明ながら図太い。45年以上続く世界的なジャズフェスのメイン会場ゆえの出音のせいか、それともポジションが奇跡だったのか。とにかくすべての音域にダイナミズムが宿り、距離感ゼロでグイグイ突きつけてくるのです。まさしく「まるでサウンドボード」と呼べる演奏音でありながらAmityレーベルからのご紹介となったのは、リアルなウンブリアのムード。あくまでも僅かですが、ところどころで周囲の会話声も拾っているのです。しかし、これが悪いわけではない。前述のように、このフェスは街が丸ごとコンサート会場になるお祭り。そのムードは開放的で、実に気持ちが良いのです。誤解のないよう念を押しますが、本作は他会場のような雑踏は皆無であり、他バンドの基準なら、むしろオーディエンス・ノイズは極少の部類。しかし、圧倒的なサウンドの超名録音を連発しているSAUCERFUL OF SECRETSとなると、よほどの奇跡でも起きない限りあえて永久保存は……という次元なわけです。ともあれ、その微細な観客の息吹に宿る“夏祭り”が美味しく、初期FLOYDナンバーのサイケデリックな雰囲気にリラックスした夏の風を吹き込んでいるのです。名録音が量産されているSAUCERFUL OF SECRETSの場合「クリア・タイプ」「ダイナミック・タイプ」「ムード・タイプ」の3種に分類してご紹介していますが、本作は非常に難しい。反響ゼロの透明感は「クリア・タイプ」の中でもズバ抜けており、中音域も重低音もぶっとい力強さは「ダイナミック・タイプ」の極地でもある。そして、夏フェスらしい開放感は「ムード・タイプ」と呼んでもおかしくない……あらゆるタイプの旨みを吸い込みつつ、問答無用にサウンドボード級のクオリティで初期FLOYDナンバーを全身に浴びられる。これまで無数のライヴアルバムでレポートしてきましたが、ここまで個性とクオリティを頂点的な次元で融合させているものはありませんでした。これだからSAUCERFUL OF SECRETSは1公演も侮れない……そんな想いに駆られる大傑作の一作。ツアー「No.1」の究極サウンドです。 Live at Arena Santa Giuliana, Perugia, Italy 17th July 2019 ULTIMATE SOUND Disc 1(60:21) 1. Soundscape 2. Intro 3. Interstellar Overdrive 4. Astronomy Domine 5. Nick Mason Introduction 6. Lucifer Sam 7. Fearless 8. Obscured By Clouds 9. When You're In 10. Remember A Day 11. Arnold Layne 12. Vegetable Man 13. Nick Mason Speaking 14. If 15. Atom Heart Mother 16. If (reprise) Disc 2(61:03) 1. The Nile Song 2. Guy Pratt Speaking 3. Green Is The Colour 4. Gary Kemp Speaking 5. Let There Be More Light 6. Childhood's End 7. Nick Mason Speaking 8. Set The Controls For The Heart Of The Sun 9. See Emily Play 10. Bike 11. One Of These Days 12. A Saucerful Of Secrets 13. Point Me At The Sky