ZEP1977年のシアトル・キングドームといえば同年アメリカ・ツアー中において唯一出土したプロショット映像として有名です。もっとも公開を前提として撮影されたのではなく、それまでZEPがシアトルで使っていたセンター・コロシアムよりも動員が可能な大会場であったキングドームのスクリーンへ映写する為に撮られたもの。よって全体的にモヤッとした画質、さらに曲間になるとスローモーションで数分前の場面が映し出されるといった演出が会場スクリーン用の映像であったことを証明しています。それと同時にPAアウトのサウンドボード録音がビデオ・フィードを経由して映像の音声となっており、77年ツアー後半でこれまた唯一発掘されているサウンドボードでもある。映像の方は確かに77年モードのZEPのビジュアルを捉えてくれているという点では非常に価値が高いのですが、何しろスクリーン用の撮影ですのでアングル的にイマイチなところも少なくない。そのせいで音声を収録したサウンドボード・アルバムが多数リリースされてきたものです。しかし過去のアイテムは何かしら詰めの甘い点があり、映像のジェネの問題からくる音質の粗いバージョンなどもありました。しかし今回はトレーダー間に出回っているベスト・バージョンのビデオを元にして、さらにマニアがリマスターしたバージョンを元にしています。元がPAアウトのサウンドボードですので音源としての素性には秀でたものがあり、過去のアイテムでも最低限の聞きやすさは保たれていた訳ですが、今回は過去最高と呼べるクリアネスを実現。77年のアメリカ・ツアーにおいては5月後半から6月前半にかけてサウンドボードの発掘が集中していますが、それらと比べても何ら遜色のない聞きやすさが大きな魅力。過去のアイテムではそれらのサウンドボードと違って「ビデオ落とし」的な雑さのあったものもありましたが、今回はいよいよ安定のサウンドボード・クオリティ。そのリリースに当たってはオープニング「The Song Remains The Same」が始まる直前の箇所などにオーディエンス録音をパッチしてあるのですが、演奏開始前のパートですのでまったく違和感がない。さらに同曲が始まると音量が一気に落ちてしまうのが本音源のジレンマでしたが、そこもしっかりとアジャスト。まるでそんなトラブルがなかったかのごとく安定したバランスで最初から楽しめる点は今回の大きな魅力。そして映像のビミョーさから「精彩を欠いている」と決めつけられがちな77年キングドームですが、こうして音声だけで聞いてみれば演奏が驚くほど素晴らしいことに気が付かれるはず。何と言ってもボンゾは6月のLA公演の日々を彷彿とさせる切れ味があり、なおかつZEPの生み出す演奏自体から6月前半までには感じられなかったような疾走感がはっきりと伝わってくる。先のオープニング「The Song Remains The Same」のドラミングなどは正にそれを彷彿とさせます。さらに特筆すべきは、絶好調のボンゾを受け止めるジミーとジョンジーの様子もはっきり伝わってくるのがサウンドボードのいいところ。「Nobody's Fault But Mine」に至ってはこの日最高の名演と呼べるほど。まずジミーがソロを弾き始めるバックでジョンジーが非常にファンキーなフレーズを弾いて演奏を盛り立てますし、後半はボンゾとジミーの掛け合いが最高にスリリング。その後も演奏チームは非常に好調で、「Since I've Been Loving You」でもボンゾがハッスル。映像ではジョンジーがフレーズを弾くたびにピアノから立ち上がって観客を煽る姿が妙だった(笑)「No Quarter」もこうしてライブアルバムとして聞くと15分辺りからでの三人の駆け引きが素晴らしい(21分辺りでのカットにはオーディエンス録音を極めてなめらかにパッチ)。ここでもLAの日々を引き継いだ見事な展開をじっくりと楽しめます。この辺りの魅力は意外と見過ごされているような気がしてなりません。ところが、この曲から急に雲行きの怪しくなるメンバーが約一名。それがロバート・プラント。演奏を始める前のMCからして声が裏返っており(咳までする有様)、演奏の歌い出しでも声が裏返ってしまう。それでもまだ「No Quarter」では先に触れたインプロ・パートが長いおかげでごまかしが利いたのですが、次の「Ten Years Gone」ではさらに声に力が入らなくなってしまう。声に力を入れようとするやいなや裏返ってしまう様はまるで75年のよう。もっとも73年のヨーロッパやシカゴ初日ほど惨憺たる状況とならなかったのが救いですが。またアコースティック・セット「Bron-Yr-Aur Stomp」の演奏中にジミーが弾いていたアコギの弦が切れてしまい、すかさずジョンジーがアップライト・ベースで場つなぎするのは有名なハプニングですが、そのせいでジャジーな展開となり、ジミーが戻ってもそのままジャジーなインプロとなっているのが絶品。こうした閃きも5月辺りのサウンドボードにはなかったもの。そしてこの日はボンゾの「Over The Top」でも面白い場面が。11分辺りの所になると「Bonzo’s Montreux」を彷彿とさせるパターンを叩いているのです。もう一つの面白い演奏が「Achilles Last Stand」。まるで演奏陣がそれぞれ好き勝手に演奏しているかのごとくバラバラな調子で、中でもボンゾはリズムがドスコイ調に変わってしまう場面まで。彼だけでなく他のメンバーまで演奏が不安定なところから推測するにモニターの不調などが起きていたのかもしれませんが、ボンゾのドラミングのブレ具合からするとジミーのギターソロで待機している間に彼が飲みすぎてしまったのかもしれません。それでもなんとか破綻をきたさず演奏を終えたのが凄い。その後もプラント以外の三人は絶好調で、その切れ味や勢いなどは、やはり5月辺りのサウンドボードとは一味違う。その点においては、やはり映像を伴うよりもこうしたサウンドボード・アルバムの方がずっと演奏を聞き込めると思います。しかも今回のバージョンを手掛けたマニアによるマスタリングも素晴らしく、すっきりとした質感で楽しめるのがイイ。未だに77年ツアー終盤における唯一のサウンドボードの突如現れたアッパー版。今まで映像からのイメージで見過ごしていたマニアにも自信を持ってすすめられる仕上がりです! Live at Kingdome, Seattle, WA, USA 17th July 1977 SBD(UPGRADE) Disc 1 (68:44) 1. Intro 2. The Song Remains The Same 3. Sick Again 4. Nobody's Fault But Mine 5. Over The Hills And Far Away 6. Since I've Been Loving You 7. No Quarter Disc 2 (64:43) 1. MC 2. Ten Years Gone 3. The Battle Of Evermore 4. Going To California 5. Black Country Woman 6. Bron-Yr-Aur Stomp 7. White Summer 8. Black Mountain Side 9. Kashmir Disc 3 (76:54) 1. Over The Top 2. Guitar Solo 3. Achilles Last Stand 4. Stairway To Heaven 5. Whole Lotta Love 6. Rock And Roll SOUNDBOARD RECORDING