正式発売されつつ、あっと言う間に姿を消した幻の公式アルバムタイトルがリリース決定。本作は、その第二弾、生前のフレディが最後に世に問うた名作『INNUENDO』の知る人ぞ知る別バージョンです。 【偶然の事故によって世に出た大名盤の珍バージョン】本作の誕生は、一種の事故でした。事の起こりは、2001年に計画されたQUEENカタログのリマスター計画。2001年と言えば、QUEENがロックの殿堂入りを果たし、にわかに再評価の気運が高まり始めた頃。その後に舞台化、ドラマ主題歌、QUEEN+ポールなどで盛り上がっていく寸前のタイミングでした。そんな時期に、日本の独自企画として24bitデジタル・リマスタリングで全アルバムの再発が考案されたのです。これ自体は問題はなく、歴史上何度も繰り返されてきた事。しかし、実際にリリースされた後でとんでもない事実が発覚。なんと『A KIND OF MAGIC』『INNUENDO』の2作は本来あるべきマスターが使用されず、丸っきり異なる内容の別バージョンでプレス。そのまま気づかれずにリリースされてしまったのです。しかも、その「別バージョン」が世にも奇妙なモノラル・バージョンだったのです。ロック史のレア物には度々モノラル盤が出てきますが、それは基本的にステレオ再生機の普及期だった60年代の作品だから制作されたもの。それに対して『A KIND OF MAGIC』は1986年作ですし、『INNUENDO』は1991年。当然、モノラル再生用のミックスなど制作されるはずがなありませんでした。では、このときにリリースされたモノラル・バージョンとは何なのか? 実はこれ、正規ステレオ・バージョンの右チャンネル。それが左右から出力されるというものだったのです。もちろん、事故に気づいた東芝EMIは即座に回収。この2作以外は問題なかったこともあってか大事件として記憶される事もなく、そもそも事故だっただけにパッケージの見た目だけでは正常盤と区別が付かない事もあって、事故盤は激レア化。現在では万単位のプレミア価格が付いているのです。 【深みも立体感も強引に削り取られた平板化『INNUENDO』】本作は、そんな激レア・バージョンの『INNUENDO』をミント・クオリティ盤から精緻に復刻したも野なのです。とは言うものの、お聴きになってもミント盤の有難味は感じられないかも知れません。右チャンネルだけになった『INNUENDO』はかなり貧相に聞こえる。『A KIND OF MAGIC』の解説でも触れたように、本作でもかけ合いフレーズが一方通行になってしまうわけですが、『INNUENDO』の場合はスケール感が平板にスポイルされている事を痛感するのです。そもそも『INNUENDO』は初期を思わせるHRサウンドが話題になりましたが、それは同時にぶ厚くスペーシーな多重録音感覚でもありました。コーラスも初期を彷彿とさせるほど多重なら何気ないリフもメロディも厚みがあり、さらに芯から広がっていく鳴りも非常に広がりがある。いちいちパンで飛びまくる演出をするまでもなく、基礎のバンドサウンド自体がステレオ感たっぷりなのです。しかし、本作はそうした厚みや広がりがバッサリ。正規バージョンが立体的な彫刻だとすれば、本作は壁の落書きのように平板な『INNUENDO』。末期QUEENが重厚な音世界を取り戻していた事を、逆説的に証明してしまう1枚でもあるのです。世界中のマニアが万単位の金額を出してでも欲しがる『INNUENDO』の別バージョンです。作品本来の魅力、輝きはここにはありませんが、色あせて聞こえるからこそ、正規盤の眩しさにも気づくのです。一度起きた事実は、事故であろうとも歴史。無かった事にはなりません。そんな歴史の1ページを体験できる1枚。 Taken from the original Japanese CD (TOCP 65854, accidentally pressed in mono) Re-issued as part of the 2001 'Queen Digital Remasters' series, withdrawn due to the fact that the album was accidentally pressed in mono. (53:45) 1. Innuendo 2. I'm Going Slightly Mad 3. Headlong 4. I Can't Live With You 5. Don't Try So Hard 6. Ride The Wild Wind 7. All God's People 8. These Are The Days Of Our Lives 9. Delilah 10. The Hitman 11. Bijou 12. The Show Must Go On