バンドにとってドラマーは要。そんなドラマーが不調なままライブが行われるとどういうことになるか?そんな状態の一日のドキュメントとしてマニアに語り継がれているのがレッド・ツェッペリン1977年のサンディエゴ。ボンゾの調子が悪かったにもかかわらずライブが決行された挙句、何とか完遂されたという伝説の一日。おまけに音質の良いオーディエンス録音が残されているときた…それもそのはず、この日を録音してくれたのはマイク・ミラード。どうりで音がいい訳だ。実はサンディエゴ、この日はマディソン・スクエア・ガーデンとLAフォーラムそれぞれの連続公演の合間に行われた単発公演。なおかつ77年ツアーにおいて最初の西海岸ZEPショーでもあった。そこでミラードがLAフォーラムの前の「予行」としてサンディエゴに向かったであろうことは容易に想像できます。彼からすれば愛してやまないZEPがフォーラムにやってくる。その前にサンディエゴも録っておこう…その程度の気持ちでしかなかったはず。ところが、目の前に現れたのはボンゾが絶不調なイレギュラーZEPだったという。77年のZEPライブサウンドはバンドの土台という域を超えてボンゾのドラムが全体を支配している感が強く、その最たる例が次の公演6月21日でしょう。それだけに彼が不調を訴えるとなれば他の公演で見られないような異例のサウンドとなるのは必須。むしろ77年の中でも異色中の異色であった一日をミラードが素晴らしい音質で録音してくれたことになります…何たることか。このボンゾ不調についてはいろいろな説がありましたが、シカゴの時のようにジミーの腹痛でライブが打ち切られた場合と違い、とりあえずボンゾがライブをこなせそうであるという確証があったからこそ決行されたのでしょう。とはいえ「The Song Remains The Same」から既に雲行きの怪しかった彼は「The Rover」のイントロから本格的な不調状態へと突入。いつになくテンポが遅く、同曲のイントロではジミーが不調のボンゾの遅いテンポに合わせてリフをゆっくり弾いてあげている様子がはっきり解ります。何しろミラード・クオリティですので、他の三人が不調なままステージに上がったボンゾを気遣いつつ、何とかショーを進行させようという様子も生々しいほどに伝わってくる。皮肉なことにボンゾ不調という緊急事態のまま決行したショーですので、ジミーが77年では珍しいくらいプレイに集中してしっかり弾いている様子が伝わってくるのがまた面白い。77年いつものパターンですとボンゾに支えられてジミーは陶酔&ステージアクションで観客を沸かせ、その代わりにフレーズが雑になるというのが普通でした。ところがサンディエゴではいつも頼りになるボンゾに寄りかかれない。そこでジミーが77年にしては珍しいほど慎重に弾いている。ある意味ボンゾへの「恩返しプレイ」とも呼べるのではないかと(笑)。例えば「Nobody's Fault But Mine」の後半でジミーが弾きまくるパートなど、これまた皮肉なことにいつもよりテンポが遅い分いい感じに弾けていて、このパートだけ聞くと「名演」と呼んで差し障りないほど。序盤から顕著なボンゾの不調ぶりのせいでライブ自体がダメ…的な紋切り型イメージを持たれがちなサンディエゴですが、実は他の三人の頑張りは涙ぐましいほどで、そこが聞きものでもあったという。よりによってこの日のミラード録音はボンゾのドラミングの音像が近く、おかげで彼のコンディションの上下もはっきり伝わってしまい、突如としていつものノリが復活する場面が散見されるのが不思議。例えば「In My Time Of Dying」5分辺りでは77年の典型ともいえる炸裂ドラミングが飛び出します。それが「No Quarter」の中盤を迎えるといよいよ復調。ここだけ聞いたらいつもの77年型の好調な展開にしか映りません。そこでメンバーも演奏を引き延ばしたくなったのか、ジミーとボンゾがそれぞれに仕掛けてくるのですが、そこは冷静なジョンジー。「今日は無理しないでおこう」とばかり素っ気なく曲に戻ってしまう場面に爆笑。案の定「Ten Years Gone」でボンゾの状態は逆戻り、やはりジョンジーの判断は正しかった。ジョンジーと言えばやたらとプラントに「背中の調子が悪い」とMCのネタにされているのですが、その反面ボンゾの体調に関して一切触れようとしないところがまたジョンジーを代わりにしている感がありありと。そして「Since I've Been Loving You」で彼がいつものエレクトリック・ピアノでなくオルガンを弾いているのは77年において非常に珍しい場面でもありました。こうして前半だけでもハラハラする場面続出の迷演だった訳ですが、それでもライブが完遂できた秘訣、それはライブの構成が功を奏し、ボンゾの休憩できる場面が随所にあったことに尽きます。先の「No Quarter」などは曲の中ではっきり休憩できるパートがあったことで一時的にせよ彼が復調したのは明らかですし、さらに彼を救ったのはアコースティック・コーナーに「White Summer」といったボンゾの出番が少ない演奏が続いたこと。そうした中でプレスリーの「Mystery Train」にアコースティック演奏は初めてとなった「Dancing Days」といったレアな場面が続出。この日を当初収録したアイテムがどれもアコースティック・パートをメインに収録した不完全版ばかりだったのはボンゾの不調が目立つパートをカットした結果だったのですね。「Kashmir」が始まると再びボンゾがのたうち回っており、案の定ドラムソロ「Over The Top」は割愛。これがまた皮肉なことにZEP77年ライブ音源としては全体を聞き通す上で非常にとっつきやすくなる結果にもなりました。そして今回発掘されたのはもちろんミラードのマスターカセット。今から10年前に「Mike Millard unmarked 1st gen cassettes」という状態のコピーが広まり、当時サンディエゴのベストとされて6月21日の同様のコピーと共にカップリングされた「SEQUENCE OF EVENTS」というタイトルがリリースされていたものですが、今回のマスターカセットとの差は歴然。圧倒的にクリアーかつナチュラルな音質は10年前のバージョンを軽く一蹴。実際に聞き比べてみると以前のバージョンは随分モコモコした音質に映ってしまう。ただし今回のバージョンでは演奏以外の部分で二か所にそれぞれ10秒ほどの未収録部分がありましので、それらに関しては先の音源を補填して完全を期しています。また昨年からZEPミラード・マスターが公開される場合、フラットとリマスター二種類のバージョンが公開されていますが、もちろんCD化に際して元にしているのはフラット。リマスターの方はアメリカ人の好みからか低音が強められているのですが、これが正直イマイチ。よってフラット・トランスファーからの丁寧なCD化にて、ボンゾ不調に他の三人が勇猛果敢に立ち向かう1977年ツアー伝説の一日のベスト・バージョンが遂に登場します。今回のマスターサウンドで改めて聞いてみるとサンディエゴは本当に面白い! リマスター・メモ JEMS「MASTERED EDITION」(リマスター版)は低音を大きく上げているので不採用。 既発「1ST GEN」は高音の抜けが悪い(多分ノイズリダクションが掛かっている)。音質は今回の「MASTER TAPE」は遥かに良い・既発「1ST GEN」は今回盤を基準として左右及び位相が逆転している。 San Diego Sports Arena, San Diego, CA, USA 19th June 1977 TRULY PERFECT SOUND(UPGRADE) Disc 1 (66:22) 1. Intro ★0:00 - 0:02 「1st Gen」より補填 2. The Song Remains The Same 3. Sick Again 4. Nobody's Fault But Mine 5. In My Time Of Dying 6. Since I've Been Loving You ★9:17 - 9:21 「1st Gen」より補填。「JIMMY PAGE, GUITAR!」の部分。JEMS新版では、テープチェンジの頭のフェイドインが深すぎて「ギター」の「ター」から始まってる。 7. No Quarter Disc 2 (51:52) 1. Ten Years Gone 2. The Battle Of Evermore 3. Going To California 4. Mystery Train 5. Black Country Woman 6. Bron-Y-Aur Stomp 7. White Summer/Black Mountain Side 8. Kashmir Disc 3 (43:25) 1. Guitar Solo ★12:33 - 12:44 「1st Gen」より補填。JEMS新版ではギターソロの途中が10秒欠落してるのを補填 2. Achilles Last Stand 3. Stairway To Heaven 4. Whole Lotta Love 5. Rock And Rol 今回JEMS新版で、既作に対して短かった部分は、全て「Mike Millard unmarked 1st gen cassettes」で補填。(「1st Gen」既発は左右反転及び位相逆転、高音ヒスを上げて補填しました。 )