先月は2000年のツアーでノエルが一時離脱した際にマット・デイトンに加わってもらった助っ人期サウンドボード・アルバム「MARSEILLES 2000」をリリースしましたが、今週もまたオアシスの助っ人期ライブ音源をリリースいたします。そもそもオアシスのライブにおける「助っ人期」というの自体が貴重な時期なのですが、その最初の例が1995年に起きています。この年はセカンドアルバム「MORNING GLORY」をリリースしたことで大成功の一年という印象が強いのですが、実は波乱万丈な一年でもありました。ここで1995年の途中まで振り返ってみましょう。・1月末-3月アメリカ#1(30公演) ・4月下旬短期ヨーロッパ&初アリーナ・トニー・マッキャロル脱退→アラン・ホワイト加入・6月-7月フェス回り&REMの前座・8月ジャパン・ツアー(94年に次いで二回目) 今振り返ってみれば60年代や70年代のアーティストほどスケジュールが強行軍だった訳ではないのですが、それでも「MORNING GLORY」リリースに伴う人気の爆発によって6月から忙しくなったのは事実。この状況に翻弄させられたのがベースのギグジーで、来日公演後、一時的に脱退しています。ところが既にニューシングル「Wonderwall」のMV撮影から始まって10月からは再びツアーが待ち構えていた。バンドが上昇気流に乗った中でスケジュールを変えるということはマネージメント的にありえない話であり、ギグジーの代わりとなるベーシストを急遽雇い入れます。そこでヤーヤーズというバンドにいたスコット・マクラウドに白羽の矢が立てられました。問題は彼が加入して行われた10月からのツアー。まず母国で二回ほどウォーミング・アップ的なギグが行われ、そこから95年二回目のアメリカ上陸。ところが当時のメンバーがまだ若く仲間意識の強い状況であり助っ人スコットはバンドになじめず、何より演奏に支障を来してしまいます。おまけに右も左も分からないアメリカに放り込まれたせいでみるみるホームシックに。遂には10月16日のピッツバーグ公演を終えると逃げるようにイギリスへ戻り、スコットのあまりに短命な助っ人期が強制終了したのです。結局ギグジーが復帰することで文字通り元のさやに納まった訳ですが、このスコット助っ人期はギグの本数そのものが少ない上にアイテムが輪をかけて少ない。特にアメリカに関してはリアムがステージに上がった段階で既に調子が悪く、挙句の果てに途中からノエルが引き継いだというハプニングがラジオで放送されてしまったボストン公演が定番となっていました。それ以外にオーディエンス録音で唯一リリースされていたのが10月10日のボルチモア公演。驚くほど音質の良いオーディエンス録音が「GETTING HIGH」というタイトルでリリースされていたものの、何故か3曲カットされた不完全収録な代わりにオフィシャルのシングルB面曲コピーで埋められた不思議な内容だったという。非常に貴重な時期を良好な音質で収録していたにもかかわらず、そのような収録状態は大減点でした。しかし元音源は以前からトレーダー間やネット上に出回っており、今回はそれを元に初の完全版リリースが実現するのです。この音源を聞いて何より驚かされるのは、アメリカのオーディエンス録音とは思えないほど周囲の静かな録音状態。もしかして盛り上がっていないのでは?と錯覚しそうなほどの臨場感なのですが、遠くで盛り上がっている様子も伝わってきますし、左側には健気に声援を送る女性ファンもいる。彼女が「Some Might Say」を求めて曲目を叫んだ直後にノエルが同曲をコールして彼女が大喜びする場面は素敵。よって特殊なポジションから録音されたであろうことは周囲の状況だけでなく、ノエルのギターの音がPAではなくアンプから出された音を拾ったかのような音色であることからも推測できます。「まるでサウンドボード」と形容される域の音像にまでは及ばないものの、周囲が大人しいので本当に聞きやすい。ただし1990年代半ばのDATオーディエンス録音らしく高音が目立つバランス感が否めず、そこに関しては今回のリリースに際して若干のイコライズを加えて緩和させています。この変化はホワイティのシンバルの響き辺りから実感してもらえるかと。さらにDATの経年により「Cigarettes & Alcohol」の冒頭で生じていたデジノイズも目立たなくなる処理を施しています。周囲の静かなおかげもあり、この日はリアムの声が少し荒れていた…つまりアメリカ・ツアー初日から既に完ぺきではなかった様子も伺える。それが4日後のボストンでのラジオ放送であそこまで悪化してしまった訳ですが、幸いにもこの日はそこまでエスカレートせず踏みとどまって最後までちゃんと歌い切っている。むしろ「Roll With It」辺りから通常営業に近づいているほど。何せボストンがあのような結末でしたので、このツアーでリアムが最後までステージにいた日を高音質で捉えてくれているというのも価値が高い。そして皮肉なことに、音質が秀でているせいでバンドに溶け込めていないスコットの様子まで聞き取れてしまう。まず「Cigarettes & Alcohol」で彼は構成を間違えてしまった様子が聞き取れますが、それ以上に深刻だったのが「Champagne Supernova」。ノエルがギターソロを弾いている最中にスコットは構成を見失って音を外した挙句、遂には弾くのを止めてしまいます。他のメンバーは当然ドン引き状態となり、ノエルが彼のミスに気を取られて音を外してしまいそうになっただけでなく、リアムまで歌に戻るタイミングが遅れてしまいます。この場面から「あいつ大丈夫か?」というスコットへの不安がありありと感じられるという。この時期は珍しくフィナーレの「I Am The Walrus」がセットリストから外されており、代わりに「Rock 'n' Roll Star」で締めくくるというパターンとなっていたのですが、この点に関しても「I Am~」がスコットには難しいのでは?という配慮があったのかもしれません。それだけに足手まといなベーシスト(苦笑)に惑わされないノエル弾き語りコーナーの説得力は素晴らしく、なおかつ音像がさらに近くなっていよいよ聞きやすくなっています。ここだけ聞いてもノエルが鳴らすエレアコっぽい響きをリアルに捉えており、やはり特殊な位置から録音されたであろうことを伺わせてくれる。それに加えて演奏の向こうで観客が熱狂的な反応を見せている様子もちゃんと垣間見られます。そして既発「GETTING HIGH」で聞かれなかった終盤になるとリアムはすっかり復調してギグを最後までこなしてくれたのですね。やはりこのパートが収録されないというのは片手落ちでした。こうして内容面と音質面の両方で充実し、なおかつ貴重な時期の優良オーディエンスが初めて完全版にてリリース! Hammerjacks, Baltimore, MD, USA 10th October 1995 TRULY PERFECT SOUND (76:54) 01. The Swamp Song 02. Acquiesce 03. Supersonic 04. Hello 05. Roll With It 06. Shakermaker 07. Some Might Say 08. Slide Away 09. Cigarettes & Alcohol 10. Champagne Supernova 11. Wonderwall 12. Cast No Shadow 13. Don't Look Back In Anger 14. Live Forever 15. Rock 'N' Roll Star Liam Gallagher - lead vocals, tambourine Noel Gallagher - guitar, vocals Paul Arthurs - guitar Alan White - drums Scott McLeod - bass★