ミラード・マスター公開の最新作はキンクス1983年のLAフォーラム。ミラードによる彼らの記録と言えば昨年リリースされた「LOS ANGELES 1978: MIKE MILLARD SECOND GENERATION TAPES」のリリースも記憶に新しいところですが、今回は83年というところがミソ。「LOS ANGELES 1978~」はアメリカでの人気が爆発する直前の彼らのステージを捉えていましたが、今回は正にアメリカでの人気絶頂を謳歌していた時期のドキュメント。83年のアメリカ・ツアーと言えば昨年UXBRIDGEがリリースした「MILWAUKEE 1983」が「これサウンドボードじゃないの?」という強烈なクオリティのオーディエンス録音でマニアをアッと言わせてくれたのもまた記憶に新しいところかと。おまけにそちらは83年のツアー「北米#2」からの極上ドキュメントでしたが、今回はミルウォーキーから二週間後であり、やはり「北米#2」で実現したLAフォーラム公演にミラードが出向いたもの。つまり同じツアーで二種類の比類なきクオリティのオーディエンス録音が存在しているということは、これまた人気の絶頂ぶりを表わしている。この時点でニューアルバム「STATE OF CONFUSION」はまだリリースされていませんでしたが、既に前年にシングル「Come Dancing」が大ヒットを記録していたことで会場は大いに盛り上がっています。「MILWAUKEE 1983」は本当に衝撃的なクオリティでしたが、もちろんミラードの録音もまったく引けを取らない。いつものオンな音圧はもちろん、いかにも彼らしいウォーミーで広がりのある臨場感が「MILWAUKEE 1983」とは違った魅力を感じさせる。オープニングの「Around The Dial」でレイ・ディヴィスお得意のコール・アンド・レスポンスを求める場面の絶妙なバランスと臨場感は正にミラードの真骨頂であり、目をつぶると83年のLAフォーラムにタイムスリップしたかのような気分にさせてくれる。今回公開してくれたJEMSチームによると、ミラードが遺した音源メモの中においてクオリティ・ランクが「Fair」と記されていたが、これほどの録音を彼がどうしてそこまで厳しいレーティングだったのか解せない…と述べていたのも当然かと。特にデイヴ・デイヴィスのギターの音圧や生々しさは圧巻。むしろ惜しむらくはライブ終盤を捉えていた二本目のカセットの行方が分からず、不完全な状態のままで公開されていたということ。ミラード録音でなおかつ80年代キンクスの人気絶頂期を捉えていたにもかかわらず、今回CD-Rでのリリースとなってしまったのにはそうした事情があったのです。とはいえ当日の7割は捉えてくれており、83年のLAフォーラムの熱狂はこれだけでも十分すぎるくらいに感じられる。これがアメリカでアリーナやスタジアムが当たり前だった時期のキンクスというもの。そして幸いなことに、ミルウォーキーでは演奏されなかった「STATE OF CONFUSION」のフィナーレ・ナンバー「Bernadette」が録音されていたのは不幸中の幸い。アルバム発売を控え新曲のレパートリー導入を検討していた場面が捉えられているのが貴重ですし、そのハードでワイルドな演奏も素晴らしい。何より80年代における人気のピークにあったキンクスのステージをミラード・クオリティで聞けるのは格別。今回もミラードは凄かった!The Forum, Inglewood, CA, USA 25th April 1983 TRULY PERFECT SOUND (78:53) 01. Around The Dial 02. Definite Maybe / State Of Confusion 03. The Hard Way 04. Catch Me Now I'm Falling 05. All Day And All Of The Night / Destroyer 06. Yo-Yo 07. Come Dancing 08. Don't Forget To Dance 09. Lola 10. David Watts 11. A Gallon Of Gas 12. Back To Front 13. Art Lover 14. Till The End Of The Day 15. Bernadette 16. All Day And All Of The Night Ray Davies - vocals, guitar Dave Davies - guitar, vocals Mick Avory - drums Jim Rodford - bass Ian Gibbons - keyboards