ZEP1969年のサンバーナーディーノと言えば「ああジミーのギターが爆音の音源ね」とマニアが思い浮かべる日。確かに本音源が捉えたジミーのギターの音量は飽和状態で、オープニングの「The Train Kept A Rollin'」に至っては完全に飽和状態。そうしたイメージからマニア向けな69年ライブ音源という印象が強かったのではないでしょうか。それを裏付けるように本音源のアイテムというのは多くなく、挙句の果てにはリリースした1969年セントラルパークのおまけ扱として出されたことまであったという曰くつきの音源。確かにジミーのギターが歪んだ爆音で鳴り響く印象の強い音源ではあるのですが、そのいびつさを増幅させていたのがカセット・トレードによるジェネ落ちという問題でしょう。この音源に限らずカセット・トレードはダビングが繰り返されることで音が荒んでしまうという現象がどうしても起きてしまう。それが69年のサンバーナーディーノのような音源になると、完全に凶と出てしまうのではないかと。あらゆる意味で見過ごされがちな69年ライブ音源の一つだったのですが、今月に入って突如69年のサンバーナーディーノのロージェネ・バージョンがネット上に現れました。それをアップロードしてくれたのはトレーダー界ではおなじみKrw_co。これまでも数々のビンテージ音源を公開してくれた彼です。今年は69年夏のアメリカ・ツアーからの発掘が多いのですが、今回のサンバーナーディーノもこの流れに乗ってアッパー版が登場してくれるとは嬉しい驚き。さすがにこれまで出回ってきたジェネ落ちバージョンと比べて歴然とした鮮度の良さが際立っており、おかげでジミーのギターが飽和した状態なりにちゃんと聞きこめる状態へと進化してくれたことは特筆すべき点でしょう。こうした状態ですので、下手にイコライズなど加えると聞けたものではなく(これがまた過去にアイテムの少ない理由でもある)、むしろナチュラルな質感も保たれるべき音源の典型。それが今回のファースト・ジェネレーション・コピーという恩恵を受けて鮮度がはっきりと向上してくれたのです。当然カット個所も既発と比べて最小限。こうしてバージョンアップを遂げた新たなバージョンで69年サンバーナーディーノを聞いてみると本当に面白いですね。オーディエンス録音でジミーが鳴らない箇所ではしっかり歓声も聞こえるというのに、彼が弾き始めると途端にギターの音に支配されてしまう。いったいどのようなポジションから録音したのでしょうか幸いなことに69年夏のZEPのライブ構成のおかげで本音源もライブ全編がジミーのギターで覆われることはなく、緩急のある演奏になるとロバート以下、他の三人の音もちゃんと聞こえます。それ以上に幸いだったのが「I Can't Quit You」でジミーが愛機レスポールの弦を切ってしまい、場つなぎとして機転を利かせたブルースカバー「You Gotta Move」が3月のストックホルムのラジオ放送(その時もジミーが弦を切った)以来の登場を果たしてくれたこと。ここではエンディングまで完全に三人で演奏されたことから、ジミーの音が大きい他の曲と違ってこの日のバンドの演奏というのを短い間ながらも楽しめるのがありがたい。それに場つなぎとは思えないほどカッコイイ演奏でもあり、さすがは69年のZEPならではと思い知らされる場面でもあるこの録音バランスでジミー独演の「White Summer」を聞かされるのはキツイかもと思っていたところ、ここでリールの掛け替えに当たったようで彼が弾き始めたところでカットとなってしまいます。皮肉にも災い転じて…といったところか。演奏がさまざまな方向に展開することが功を奏し「How Many More Times」でもジミーが弾くのを止めると、そこでは意外な曲をロバートが歌い始めていて面白い。彼はこの日チャック・ベリーを歌いたい気分だったようで「Schooldays」と「Hail Hail Rock 'N' Roll」の一節を持ち出しているのがレア。また8月上旬はボンゾのステージセットにバス・ドラムを導入していた貴重な時期だったのですが、この曲のエンディングでは確かにツーバスを活かしたキックが聞かれるのも貴重。そしてこの日のライブはジェルロ・タルとのダブルビルだったのですが、同じテーパーが残した二曲の演奏をボーナスとして収録。彼らの演奏まで含まれていることもロージェネ・バージョンの証と呼べるのでは。今回のリリースに際し音質に関しては先の理由から一切の手を加えていませんが、徐々に狂ってゆくピッチに関しては緻密にアジャストしており、この部分だけでも既発より格段に聞きやすくなっています。それでいて音質自体もしっかりと向上。爆音ジミーで知られた69年オーディエンスを聞きこむハードルが遂に下がりました!Swing Auditorium, San Bernardino, CA, USA 8th August 1969 TRULY AMAZING/PERFECT SOUND*UPGRADE (66:02) 1. Intro 2. The Train Kept A Rollin' 3. I Can't Quit You 4. You Gotta Move 5. Dazed And Confused 6. White Summer/Black Mountain Side 7. You Shook Me 8. How Many More Times (The Lemon Song / Schooldays / Hideaway / Hail Hail Rock 'n Roll) JETHRO TULL 9. Intro 10. Fat Man 11. Dharma for One