ZEPがヤードバーズの「For Your Love」を演奏していたことで昔から有名な1969年1月10日のフィルモア。それに加えてまだファースト・アルバムをリリースしただけでアメリカに認知されていなかったバンドが初めてフィルモアに見参、四夜に渡って行われた公演の中でほぼショウの全長を捉えてくれている点でも価値が高く、なおかつ1969年初頭のZEPを捉えた貴重音源としてアナログ時代から早くもリリースされていた定番の一つでもありました。とはいえ69年でしかも1月という時期のZEPです、さすがに極上といえるような音質ではなく、むしろいい意味で69年ビンテージ・オーディエンスのお手本というべきなのが本録音。中域に寄った音質と程よい距離感が相まって意外なほど聞きやすい。それ故にLPの時代からリリース(その名も「FOR YOUR LOVE」)されるというお眼鏡に適ったのでしょう。逆に言えばそうした録音状態のせいでカセット・ダビングによるジェネ落ちが生じるとショボく聞こえてしまうのも事実。実際CD時代を迎えてからリリースされた本音源タイトルのいくつかでは正にそうした状態に陥っているものがありましたし、それをイコライズで解消させようとしたアイテムすらあったのです。こうした状況の中でもっともナチュラルな状態で本音源を収録してくれたのがSCORPIOの「FRESH GARBAGE」ではないでしょうか。そもそも我が国では「エディー」や「ブルーベリーヒル」と違ってあまり脚光を浴びない時期でもありますので、この画期的なリリースもあまり評判を呼ばなかったことが惜しまれます。さらに最近になってGRAFF ZEPPELINが再び「FRESH GARBAGE」の名の下で初めて本音源のファースト・ジェネレーション・コピーから収録するという快挙を成し遂げたのは記憶に新しいところ。2019年には「録音者から確認済」との触れ込みでファースト・ジェネレーション・コピーがネット上に現れていたのですが、この7月また別のファースト・ジェネレーションを謳ったバージョンが現れました。それを公開してくれたのはおなじみKrw_co。もちろん先のようなバージョンが既に流通していたことから、どうせ同じ1st Gen.だし大した違いがないのでは…とタカをくくっていたところ、どっこい2019版よりも明らかに音質が向上していたという。それと比べるとよりナチュラルかつウォーミーな音質であり、今回のバージョンを前にしてしまうと2019年版がシャカシャカとして聞こえ、おまけにヒスノイズも気になってしまう。最初に申しましたように元が中域寄りのアナログ感全開な録音ですので、ちょっとしたジェネレーションの違い現れやすい。もしくは再生やトランスファーに使用した機材の違いが現れたと言えるかもしれません。その反面、今回のバージョンでは過去のいくつかのバージョンと同じく「Babe I'm Gonna Leave You」を終えた後の余韻が消え入る寸前で切れているのですが、あくまで余韻というレベルですので今回の音源本体を尊重して補填などは行いませんでした。その代わり本音源における最大の欠点と言えた「Dazed And Confused」から先の「Babe I'm~」に生じていたピッチの狂いを緻密にアジャスト。全編を安心して聞き通せるように仕上げました。そしてこの日は何と言っても演奏が抜群。ファースト・アルバムを出したとは言えど、まだアメリカにとって海のモノと山のモノともつかなかった時期のZEPがフィルモアに集まった観客の心を掴むべく大熱演を披露。オープニング「The Train Kept A Rollin'」の出だしからしてジミーの気合が入りまくったカッティングで攻めてきますし、一枚目に収められたファーストセット全編を通して彼のトリッキーなプレイが炸裂。この時期のジミーの足腰の軽いフレーズだけでも圧倒されてしまうかと。それだけではありません、ファーストセットにて披露された「As Long As I Have You」は間違いなく69年1月におけるベスト・バージョン。それ以前のゴンザガ大学やウイスキー・ア・ゴーゴーで繰り広げられていた実験的な展開がここで頂点を迎えた感じ。何より感動的なのが、本曲を初めて聞かされたであろうこの日のオーディエンスがどんどん引き込まれていく様子まで捉えられていること。その緩急自在な演奏が3月のデンマークや4月のフィルモア凱旋といった同曲の名演の基礎になったと言えるでしょう。セカンドセットを迎えると「Killing Floor」に「You Shook Me」というサイケデリック・ブルースの連続がまた強烈。これがまたこの時期のZEPならではなのですが、特に前者ではこの後のライブの展開や新しい曲のネタとなるようなフレーズが随所に盛り込まれていて、ジミーの創造性に溢れたプレイと若くてスクリームを軽々とこなすプラントがこれまたフィルモアの観衆を虜にしている様子がはっきり伝わってくる。そしてこの日の目玉であるアンコールの「For Your Love」。同曲を演奏したことでZEPがヤードバーズの発展形であることをフィルモアのオーディエンスに知らしめる形となった一方もはや原型を留めない、これまたサイケデリック・ブルース的なアレンジが初期ZEPらしい。今でこそウイスキー・ア・ゴーゴーのテイクが発掘されて「この日だけ」という価値がなくなってしまいましたが、そこから演奏が明らかに発展しているのがライブ一日単位で進化を遂げていたこの時期のZEPならでは。ブルースの影響が色濃く、それでいてジミーを中心として創造性溢れる演奏でアメリカのオーディエンスの心を掴んでいた時期の記録でもある。そんな時期のライブをもっとも長時間に渡って捉えてくれた音源としての価値はもちろん、ビンテージ・オーディエンスらしいアナログ感がさらに増した今回のバージョンで69年1月の名演を心ゆくまで味わってください。この日は全編を聞きどころと言っても過言ではないのですが、中でも「As Long As I Have You」は壮絶!(リマスター・メモ)Dazed And Confused途中からBabe I'm Gonna Leave You途中までは、ランダムに大きくピッチが遅いのでなるべく調整しました。Fillmore West, San Francisco, CA, USA 10th January 1969 UPGRADE Disc 1 (44:41) 1. The Train Kept A Rollin' 2. I Can't Quit You Baby 3. As Long As I Have You 4. Dazed And Confused 5. How Many More Times Disc 2 (48:37) 1. White Summer / Black Mountain Side 2. Killing Floor 3. You Shook Me 4. Pat's Delight 5. Babe I'm Gonna Leave You 6. Communication Breakdown 7. For Your Love