年をまたいで行われた「BE HERE NOW」ツアーは1997年と98年でライブの構成が大きく変わったことがマニアの間で高い人気を誇る要因の一つでしょう。とはいえ当時は今ほど情報が早く伝わるようなことはなく、インターネットも普及し始めた段階。現在のような生活必需品レベルからは程遠い状態でした。それ故に98年の武道館で前年のツアーとまるで違うライブ構成のステージが繰り広げられたのを目の当たりにした時は驚かされたものでした。てっきり前年の構成を引き継いで行われるとばかり思っていたマニアは少なかったはず。そんな「BE HERE NOW」ツアーの大きな分岐点となったのが98年最初のライブ活動であるアメリカ・ツアーであり、その初日を飾ったのが1月8日のニュージャージー公演。既にこの日から前年にはなかった(12月のダブリンで急遽設けられたことがありましたが)ノエルのアコースティック・コーナーが組み込まれることは決定しており、特にリアムを中心としてアルコールの力を借りたやりたい放題パフォーマンスの果てに前年のツアーで疲労した彼の声を持続させる為にも盛り込まれたのは明らかでした。この日はなかなか音質の良好なオーディエンス録音が存在していたのですが、意外にもアイテムとしてリリースされたのは「BE HERE NOW TOUR 1998 ACT 1」というCD-Rだけ。音質が良く、この後で詳しく触れる演奏内容の貴重さを考えると、これほどの音源が今までリリースされたことがないというのは実に意外だったのです。そのタイトルやトレーダー間において、この日の会場であるブロックバスター・ソニー・ミュージック・エンターテインメント・センター(現在はBB&Tパビリオンで当時は「ソニー・E・センター」と称されていた)の所在地がフィラデルフィアとクレジットされがちなのですが、実際にあるのはニュージャージー州。98年のアメリカ・ツアーは兄弟喧嘩で完遂できなかった二年前のツアーで回れなかった会場や土地の契約履行を兼ねて訪れるのが目的でしたので、フィラデルフィアは訪れませんでした。またソニーが前年に発表したアメリカ・ツアーのプレス・リリースにもブロックバスター・ソニー・ミュージック・エンターテインメント・センターがニュージャージーであると明記されています。つまりこのツアーにおいてオアシスは二回ニュージャージーでギグを行っており、四日後にはソニー・E・センターより少し小さいコンチネンタル・エアライン・アリーナでギグを行っていたのです。よって今回のタイトルに「1st Night」が冠されたのはこうした事情を反映した結果でした。この日の音源はいかにも1990年代後半のDATオーディエンス録音にありがちな質感で、非常にクリアーな音質である一方、暗めで演奏のメリハリを欠き、なおかつドンシャリ寄りな状態状態でした。そこで今回のリリースに際してはこの問題の改善に着手。原音と比べてマイルドでなおかつメリハリを感じさせるイコライズを施しています。これによって暗く迫力不足だった音質が大きく改善されたのです。バンド演奏ではドンシャリ気味、ノエルの弾き語りになると線が細い…という状態が解消。その点は「Some Might Say」辺りで聞き比べれば一目瞭然かと。また現在ネット上などに出回っている本音源は「Wonderwall」と「It's Gettin' Better (Man!!)」でドロップアウトが生じるコピーが大半なのですが、今回はイギリスのオアシス研究家から問題のないクリーンコピー・バージョンの提供をいただきました。それにしてこの日は演奏内容が実に面白い。最初に申しましたように、初めて98年モードのステージ構成が導入された日でもあった訳ですが、それ以上に劇的な変化をもたらすことになったのはリアムの調子。序盤こそ普通に歌い切ってくれていたのですが、「Some Might Say」では一番を歌うそばから声がひっくり返ってしまい、一気に調子を崩して代わりをノエルが歌います。既に前年の段階からリアムが苦しそうな日が散見された曲でしたが、ここで遂にセット落ち。これが98年で唯一の演奏となってしまいます。皮肉なことにノエルの弾き語りコーナーのレギュラー化がさっそく功を奏したことにもなってしまう。とはいえ嬉しいことに、この日のノエルは自身のコーナーで極めてレアなレパートリーを披露してくれたのです。それがデヴィッド・ボウイ「Heroes」のカバー。非常にシンプルなアレンジが素晴らしく、それでいてアメリカで人気の高いボウイ・クラシックの一つということからオーディエンスの反応も上々。オアシス解散後は完コピに近いバンドアレンジでノエルがカバーしたほどのボウイ・ソングが初めて披露された貴重な場面を良好な音質で捉えてくれているという点が貴重であり、しかも今回は収録されたのもポイントが高め。彼のコーナーが終わって通常のオアシス・フォーメーションによるライブ終盤ですが、案の定リアムの調子は良くない。おまけに「It's Gettin' Better (Man!!)」の間奏ではノエルのギターの音が出なくなってしまい、そこではボーンヘッドのリズム・カッティングが良く聞こえるという非常に珍しいハプニングまで。こうしたリアムの不調とハプニングが重なったことに動揺した訳でもないでしょうに、当初演奏される予定だった「All Around The World」が演奏されず、代わりにこの日の予定になかった「Cigarettes & Alcohol」がこの位置で演奏されるというさらなるハプニングが。これによって前者が98年のステージで演奏されることは叶わず。そして極めつけは「Fade In-Out」。調子の悪いリアムが頑張って歌ってみせたものの、三番の途中で遂にギブアップ。演奏自体は完奏されたものの、何とライブ自体がそのまま強制終了という曲名を地で行くようなハプニング。結局これが98年唯一、なおかつ同曲の最後のライブ演奏となってしまったのです。このことからも分かる通り、98年アメリカ・ツアー初日の段階では「All Around~」に「Fade In~」といった前年を象徴するレパートリーが継続されるはずでした。それだけに98年版「Fade In~」の演奏は極めて貴重。ところがリアムの不調をきっかけとしてあっけなく姿を消し、結果として98年の構成が決まるというハプニング・ギグを驚くほどの高音質オーディエンスで収録した衝撃のリリース! Blockbuster-Sony Music Entertainment Centre, Camden, New Jersey, USA 8th January 1998 TRULY PERFECT SOUND (79:55) 1. Intro 2. Be Here Now 3. Stand By Me 4. Supersonic 5. Some Might Say 6. Roll With It 7. D'You Know What I Mean? 8. Don't Go Away 9. Heroes 10. Don't Look Back In Anger 11. Wonderwall 12. Live Forever 13. It's Gettin' Better (Man!!) 14. Cigarettes & Alcohol 15. Fade In-Out Liam Gallagher - lead vocals, tambourine Noel Gallagher - guitar, vocals Paul Arthurs - guitar Paul McGuigan - bass Alan White - drums