ウイングス最高傑作の誉れ高き『VENUS AND MARS』はポールの右腕としてウイングスで重要な役割を果たしたデニー・レインが先ごろ亡くられたことによってなおさら重みを増してしまいました。このアルバムはビートルズのソロ関連のアルバムの中ではもっとも早くCD化が実現していたアルバムの一つとしてマニアにはおなじみ。結果として1990年代初頭の時点ではDCCがリリースしたゴールド・ディスク仕様のCDがベストの名をほしいままにしていたと同時に復刻したところ大好評となったバージョンでもありました。その後ポールやウイングスのアーカイブ・コレクション化が進む中で本アルバムのリリースも実現、現在はこちらがポピュラーな存在となっています。それでもなお、マニアの中ではDCCバージョンを好む向きがあったのも当然かと思われます。というのもアーカイブ・コレクションのマスタリングはかなり押しつけがましい仕上がりになっていたから。とはいえどちらのバージョンもリリースに際してマスタリング処理が加えられていたのは当然。言い換えればマスターテープの状態をありのままには伝えていなかったことになります。そんなウイングスの名盤も今回フラット・トランスファーでのリリースが実現。こちらもまた『SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND』と同様、ヨーロッパ向けLPカッティング用の38cm/sオープンリールマスターから一切の小細工なしに収録してみせたフラット・トランスファーなのです。となれば先に挙げたCDアイテムとまるで聴き心地が違うのは当然のこと。おまけに『SGT. PEPPER'S』と違い録音機材が発達した状態で録音されて豊かな音が鳴り響くアルバムですので違いが解りやすい。まず何と言っても俄然ナチュラルな質感というか、音の鳴り具合だけでも歴然とした違いが。例えば「Letting Go」や「Listen To What The Man Said」のような演奏が激しかったり勢いのある曲ですと音圧を上げるだけでも十分なのですが、アルバム序盤の「Rock Show」のように起伏のある曲ですと話が違う。この曲の途中で演奏が穏やかになって鐘が鳴り響く個所がありますが、先に挙げたCDアイテムではそれぞれに音量の格差をなくすべくこの部分の平滑化が図られていた。当然ながら今回のフラット・トランスファーはそうしたコンプ処理が加えられていない。この鐘の音が先のCD群とは比べ物にならないほど自然に澄み切った状態で鳴り響くのはその為です。最初に申しましたように、70年代の進化した録音機材を使って豊かなサウンドで録音されたバンド・サウンドが印象的なアルバムですので、なおさらフラット・トランスファーな状態が際立つ。まだビートルズの2009年リマスターは60年代の録音ということが功を奏してアナログ感やビンテージ感を尊重した仕上がりが伺えましたが、2010年代半ばにリマスターされた本アルバムのアーカイブ・コレクションは全体的に音圧がキツめでアナログ感はもとより70年代のロックアルバムらしさまで抑えられてしまった感が否めない。だからこそDCCバージョンがマニアの間で熱心に支持され続けていた訳ですが、今回のバージョンでは、それですら味わえなかった自然で豊かなマスターテープならではの鳴りを簡単に楽しめてしまう。おまけにアーカイブ・コレクションのシリーズもまた豪華な装丁の一方でフラット・トランスファーな状態での収録が見過ごされてしまっているという現状。だからこそ本リリースにて、ウイングスが生み出した名盤ありのままの姿をお楽しみください。 欧州向けLP用38cm/sオープンリールマスターよりデジタル化 A面/B面のテープチェンジ箇所の結合以外は一切未編集のフラットトランスファー音源! オリジナルソースを活かして音圧一切上げてません! こちらはサージェントペパーよりテープヒス少なく更に高音質です PAUL McCARTNEY & WINGS - VENUS AND MARS: FLAT TRANSFER(1CD) (43:17)1. Venus And Mars 2. Rock Show 3. Love In Song 4. You Gave Me The Answer 5. Magneto And Titanium Man 6. Letting Go 7. Venus And Mars (Reprise) 8. Spirits Of Ancient Egypt 9. Medicine Jar 10. Call Me Back Again 11. Listen To What The Man Said 12. Treat Her Gently/Lonely Old People 13. Crossroads Theme