このライブ音源、73年と言われたり75年と言われたり、正確な日付が解っていない。裏ジャケに記載されている、74年1月のレインボウ・シアターでのライブ、それもタムラ・モータウンがライブアルバムとして録音し、スティービーもミックスを手がけたが、音質的な問題でリリース出来なかった、という記述を信じたい。しかしこのCDを聴く限り素晴らしい音質であり、唯一高域で歪む箇所が少しある程度だ。全くオフィシャルとしてリリースされてもおかしくはないクオリティー、寧ろそれ以上の何かがこの音盤に封じ込まれているかのようだ。まず一曲目のこのフリージャズ然とした「Contusion」の20分も続くジャムでリスナーをシンコペートの楽園と誘ってくれる。ワンダーラブというスティービーのバックバンドの実力が十二分に出た名刺代わりの一発である。スティービーに紹介されてからのMichael Sembelloのギター、このライブでは情感溢れるソロを弾くべくスティービーに何度か呼ばれる。そしてベースのReggie Mcbrideが全体のグルーブ形成の核をしっかりとキープ。柔軟な指捌きが見えるようなベースソロを弾く。そしてドラムのOllie Brown。緩急付けたドラミング、特にハイハットの刻みがこのライブでは大きくミキシングされていて、それがまたファンキーさを醸し出す。そしてその彼が長いドラムソロを魅せてくれる。このようにワンダーラブのメンバーのソロパートがあるし、スティービーが一々誰々と紹介してくれるのでメンバーが誰だがわかるのがありがたい。そしてそのスティービーはバンド紹介中、多少のシャウト以外ボーカルを入れず、キーボードの演奏に徹する。この時のメンバーはシリータのセカンド『Stevie Wonder Presents:Syreeta』やミニー・リパートンの名作『Perfect Angel』の頃、正に74年のWonderloveの面子である(そうなるとこの「Contusion」は当時の未発表曲であったわけだ。『Songs In A Key Of Life』リリースよりほぼ2年も前の披露である)。このワンダーラブの多彩なリズム・アプローチを続く「Higher Ground」や最後の「Superstition」とその後のジャムまで延々と堪能できるのだ、しかも高音質で。グーの根も出ないでしょ?そして名曲「Superwoman」もスティービーは少し崩して歌うものの、素晴らしいバックがあってこそフリーキーに、リスナーの耳に立って聴こえて来る。レアな楽曲の珍しいプレイもある。シリータ・ライトのファースト・アルバム『Syreeta』のラストを飾る「To Know You Is To Love You」をスティービーのボーカルを中心に演奏される。シリータはいないと思うが、デニス・ウィリアムス、ミニー・リパートンらがいると思われるバックコーラスがドリーミーに絡んでくる最高の時を楽しめる。そして名作『Innervision』で言わんとしたいスティービーの主張が集約された名曲「Visions」。長いスティービーのMCがあり、この曲が如何にスティービーに重要かがそこからわかる。“真の自由な世界は自分の心の中だけにあるVisionsなのか”、スティービーはこのライブで彼のインナービジョンをリスナーに一部だろうが提供してくれているのだ。そしてDisc2、「Don`t You Worry Bout A Thing:くよくよするなよ」だ。最初は淡々と歌っているスティービーが、中半からワンオクターブ上げて歌い出すあの瞬間、いつもここでがんばろう!と立ち上がることが出来る(朝起きるとき、特に良し)。スタジオ曲よりメランコリックに聴かせるこのライブ・バージョンの理由はセンベロのギターにある。秀逸。そしてまたもや名盤『Innervision』の名曲「Living For The City」だ。前曲とは一転、“この都会で生きていくのだけで精一杯なんて嫌だ!”と鬱積した感情を爆発させる。しかしバンドのクールなグルーブで包まれているから、それは静かな爆発にさせらてしまう。観客にクラッピングさせて“I`m tired now”と言わせてジャムる後半部分は、スライの孤独さの延長戦をスティービーが代わりに戦っているかのようである。“疲れているかい?疲れているよ”このネガティブなコール・アンド・リスポンスをスライは自身のステージでさせてもよかったかもしれない。そして最後の小馬鹿にしたようなクロージング。ユーモラスな皮肉屋、スライを血肉化したスティービーが堪能できる。そして前述のミニー・リパートンの「Perfect Angel」をさらっと歌うスティービー、うわーこの曲が演奏されるの?と思うか、結局は名曲「Sunshine」へ。ここでのデュエットはスタジオでもバックを取っていたLani Grovesである。少しじれったく歌うコケティッシュな歌い方がソソル。しかしスティービーも彼女もライブならではの崩した歌い方だ。レジーとオリーの二人もそんなボーカルを支えると言うより寧ろ暴れまくるが、直ぐにおとなしくなり、スティービーの優雅なハーモニカにこの音場を仕切らせることに了承する。そして快活なセンベロのギターとスティービーの飄々としたスキャット、スティービーが今度は色々遊びまくる。そしてファンクへ。そう「Superstition」である。ここではワンダーラブの威信をかけて、だれた所は一切見せず、リアル・ミュージックの空間設計を緻密に築く。心して聞いて欲しい、このジャムを。しかし最後にスティービーが観客に感謝しつつ、沢山の自分の夢について淡々と歌う、ミドルテンポの未発表曲が披露されてこのライブは終わる。この曲名「Lot Of My Dreams」と言われているようだが、正確なタイトル名は知られていない。以上、少し感情的に書き過ぎた感があるが、素晴らしいライブであることだけでもわかっていただければ幸いだ。そしてこの『Funkafied Rainbow』の音源、実はこのアイテムが初出というわけではなかった。恐らく92年頃Chamerionというレーベルがリリースした『Live At The Rainbow Vol.1 &2』がオリジナルであろう。そしてその後数多のレーベルから、特にOil Well、On Stageとかの廉価版レーベルが一枚に短縮してリリースしたりして、数多くのタイトルが世に出た。それだけ内容が良かったのだろうが、音質的にはどれも『Funkafied Rainbow』の域を超えていない。当時はDATでのコピーがあったはずだが、下手するとカセットテープで一回くらいダビングしたようなヒスが入っているのもあるくらいだ。そしてちゃんとコンプリートでリリースしているのはそのChamerionの2枚組、後は『Funkafied Rainbow』だけである。巷ではMP3のような音質のアイテムもあるが、基本的にこのセットリストを覚えておくと良い。そうすると73年のライブと書かれていても、演奏している曲がこの中の曲に当てはまれば、それは74年1月レインボウ・シアター音源の抜粋だったりする。注意が必要だが、それだけこのライブが素晴らしいという事でもある。今回微細なノイズの除去、Contutionではフェードアウトで終わてしまっている欠落していた2秒半の部分を74年1月23日にドイツのブレーメンで録画されたドイツのWDR-TVムジークラーデンで差し替え、Signed、Sealed、Delivered、Visions は、他の演奏に比べて音量が若干弱かったため少し音量を大きくするリマスタリングが施されました。Rainbow Theatre London, UK February 2, 1974 Disc 1 01 opening jam 02 Contusion 03 jam #2 04 Higher Ground 05 Superwoman 06 To Know You Is to Love You 07 Signed, Sealed, Delivered 08 Visions Disc 2 01 Don't You Worry 'Bout a Thing 02 Living for the City 03 Living for the City jam 04 You Are the Sunshine of My Life 05 Superstition 06 (You've Been Better to Me Than a Lot of) My Dreams Stevie Wonder - keyboards, harmonica & vocals Wonderlove: Ollie Brown – drums Michael Sembello – guitar, percussion & synthesizer Reggie McBride - bass Deniece Williams – vocals & percussion Lani Groves – vocals & percussion Shirley Brewer – vocals & percussion