本当に凄いライヴは、終わった後に話題になるもの。日本中の期待を集める超大物の来日公演も良いですが、やはり人気が出る前のバンドの“実は凄いショウ”ほど心をくすぐるものはありません。ライヴの前には話題にすらなっていないのに、現場に居合わせた人間をノックアウトし、ライヴ後になって口コミで凄さが広がっていくタイプです。今回お届けするのは、まさにそんなライヴ。実際にライヴが始まるまでは、会場に足を運んでいた人間でさえ、誰もここまで凄いとは思っていなかった。しかし、ライヴが終わった今、ネットでは「凄かったぜ」と話題になりつつあるステージなのです。本来であれば、このまま口コミの都市伝説で終わるところですが、そんな一期一会なライヴを、あの「西日本最強テーパー氏」がバッチリ録音していました!そんな本作の主役は、エイドリアン・ヴァンデンバーグの新バンド、VANDENBERG'S MOONKINGS。「え? ヴァンデンバーグって、白蛇の?」という方もいらっしゃるかもしれませんね。そう、あのエイドリアンです。WHITESNAKEの「RESTLESS HEART」を最後に音楽業界から引退していたエイドリアンが新バンドを率いて17年ぶりにシーンに戻ってきたのは昨年。本作は、そのVANDENBERG'S MOONKINGSによる来日公演で、先々週の録りたてホヤホヤなライヴ・アルバムです。 ……とは言っても、「ふーん」以上の興味はなかなか持ちにくいもの。しかし! だからこそ、“人知れず、実は凄い!”の快感に溢れるライヴでもあるのです。では、何がそんなに凄いのか? 実は、本作の主役はヴァンデンバーグ……ではなく、彼さえ霞むヤン・ホーフィングの熱唱です!! スタジオ・アルバムをお聴きの方はご存じと思いますが、いわゆるポールロジャーズ・タイプで、若きカヴァデールを彷彿とさせる。ポイントは“若き”の部分で、ターザン絶叫に走る前の、ひたすらに熱く熱く歌い込んでいた頃のカヴァデールを思い起こさせるのです! ただし、ヤンはヨルン・ランデのような“ソックリさん”ではありません。彷彿ととさせつつも、あくまで物マネではないディープ・ヴォイスなのです。そのうえ、その熱さがやたらとライヴ映えする。正直なところ、デビューアルバム「MOONKINGS」を聴いても「悪くないね」くらいにしか思いませんでしたが、ステージでの歌い込む熱さはけた違い。声質の深みまでも数倍になったかのようです。スタジオ作を遙かに超えたライヴを収めたサウンドが、またスタジオ超え。今まで数限りなくHR/HMの傑作録音をモノにしてきた「西日本最強テーパー」氏ですが、彼の最高傑作録音と言っても過言ではないでしょう(まだ隠し球を秘匿してるかも知れませんが:笑)。狭いクラブの超近距離サウンドのクリアさと生々しさは、まさに極上中の極上です。もしかして、「でも、アルバムも聴いてないんだよな」と二の足を踏んでいますか? その心配はありません。これまた正直に告白しますと、デビューアルバムは一度聴いたきりでした。「悪くない」けど、「別に凄くもない」と思ったのです。しかし、このライヴで蘇った新曲の数々は、同じ曲とは思えないほど感動的。スタジオ作ではあっさりと流れていた曲も、ブルースロックの生グルーヴ感で見違えるように躍動する(このバンド、リズム隊も凄い……)。その凄みは、バラードの「Breathing」でさえ染め変えてしまっている。ストリングスで豪奢に飾っていたスタジオ作でも「本当に良い曲だ」と感動はしましたが、本生リアルな本作はそれ以上。深い声がクラブ・エコーを伴って耳元でささやく……文字通り、両腕に鳥肌が立ちました。そんなオリジナルもさることながら、WHITESNAKEやVANDENBERGの名曲群も気になるでしょう。これがもう、本当に素晴らしい! 本家が高音を見せびらかすように歌った「Judgment Day」も中音域の声の太さを活かした歌唱でタフな漢の色気を発散、「Here I Go Again」は、もう何年も聴いてなかった深みのある感動バージョンです。そして、「Burning Heart」に至っては史上最高の仕上がり! “もし、80年代のカヴァデールが歌っていたら……”の想像を十分に満たしてくれる素晴らしい歌声で、バート・ヒーリングが誰だったのか忘れてしまいそうです。さらに白眉は「All Right Now」! 堂に入ったブルースロックのグルーヴとディープ・ヴォイスが驚異的に冴え渡っています。そんな注目カバーの合間に差し込まれたオリジナルの「Nothing Touches」がまた凄い。超名曲に挟まれながら、負けるどころかブン殴るようなグルーヴでハッと目が覚めるよう。彼らが現在進行形でいかに良い曲を書いているかに気づかされる一瞬です。 1997年のWHITESNAKEフェアウェル・ツアーから18年。あの年に生まれた赤ん坊は、もう大学生です。そんな長大な時間を超えて戻ってきたエイドリアンですが、彼は長い長いブランクを無条件で不問にできるほどの大物とは言えない。だからこそ大きな話題とはなり得ず、クラブ規模の再来日となったわけですが、まさか、そこでこれほどの逸材が歌っていようとは。聴けば聴くほどに、“ライヴ後に話題になる”のが分かる情熱のステージです。現場に居合わせることができた方は、ぜひ誇りにしていただきたい。本作こそが、その確たる証拠です。ご覧になった方の“想い出の記念”で済ますには、あまり勿体ない。本当に、こんなに凄いと知っていたら絶対観に行ったのに……そんな想いに駆られるライヴ・アルバム。 Live at Umeda Club Quattro, Osaka, Japan 22nd April 2015 ULTIMATE SOUND(from Original Masters) Disc 1 (46:47) 1. Pre Show Music 2. Intro 3. Line Of Fire 4. Steal Away 5. Leave This Town 6. Feel It 7. Breathing 8. Close To You 9. Drum Solo 10. Judgment Day 11. Burning Heart Disc 2 (45:02) 1. Intro 2. Pushing Me 3. Good Thing 4. Leeches 5. Lust And Lies 6. Here I Go Again 7. Nothing Touches 8. All Right Now 9. Rock And Roll Adrian Vandenberg - Guitar Jan Hoving - Vocals Sem Christoffel - BassMart Nijen Es - Drums