ストーンズのメンバー、特にミックとキースが出すソロ・アルバムはリリース時に大きな注目を浴びつつも、しばらくすると見過ごされてしまう状況へと陥りがちではないでしょうか。その最たる例がキースのセカンド・ソロ・アルバム「MAIN OFFENDER」。このアルバムに至ってはリリース直後からファンの間での評判は芳しくなく、ファースト・アルバム「TALK IS CHEAP」の(特に日本における)大好評ぶりとは正反対の結果となりました。当時はアルバムの内容よりも、アメリカでしかツアーを行わなかったファースト・アルバムの時と違って小規模ながらもワールド・ツアーを行ったことの方に注目が集まりました。そうした状況の中で日本公演も期待されたものの、結局は実現せず。それもまた「MAIN OFFENDER」の人気下降に一役買ってしまったように思えてなりません。しかし、アルバム「MAIN OFFENDER」は断じて駄作ではない。むしろ内容の問題ではなく、リリースされたタイミングの悪さに原因があったように思えます。「TALK IS CHEAP」の時は「ソロを録音してもアルバムとしてまとめ上げられない」とまで言われていたキースが遂に完成させ、しかもファースト・アルバムというインパクトから大いに歓迎されたものでした。その点「MAIN OFFENDER」は二枚目ということからフレッシュなインパクトを望むべくもなかった。むしろアルバムの弱点を挙げるとすれば「Take It So Hard」や「Struggle」といったストーンズ直系キラーチューンを欠いたことにあったのかもしれません。また「TALK IS CHEAP」は楽曲がバラエティに富んでいたのに対して「MAIN OFFENDER」はストレートなロックとR&B調ナンバーの二手に分かれていたこと、それがむしろアルバムの魅力となっていたのですが、それが理解されることもなかったように思えてなりません。シングルカットされた「Eileen」などよりも「Hate It When You Leave」のようなR&Bナンバーこそ、このアルバムのキモだったように思えます。ここまでに触れてきたアルバムの人気度とは裏腹に、リリース後のツアーに関しては映像が豊富に存在しています。中でもブエノスアイレスとケルンのテレビ映像はどちらも定番とこのツアーの呼べるもの。1992年から93年はストーンズの完全休養が決定していた時期ですので、反対にストーンズの再開が決まりかけていた88年とは正反対な状況がそうしたツアーを可能としたのです。11月に先のような地を回ったキースとエクスペンシブ・ワイノーズは12月になると、彼らとしては初めてのイギリス・ツアーを実現させています。しかも初日に選ばれたのはロンドンのマーキー・クラブ。今やオフィシャル・リリースされている1971年のテレビ用ギグを行った舞台というだけでなく、何と言っても1962年にストーンズがデビュー・ギグを行った思い出の地。そこへキースが帰還を果たしました。実質的にシークレット・ギグとなったこの日、オーディエンスの中には当時アルバム「WONDERING SPRIT」の制作中だったミックの姿がありました。当時の音楽誌にも弟のクリスを引き連れてギグを鑑賞するミックの姿が載せられていたものです。ストーンズが休止中だったとはいえ、キースのソロ・ギグにミックが顔を見せたというのは非常に画期的な出来事でした。後にこの時のことを日本の音楽誌に尋ねられたミックは曰く「音が大きすぎた」だの「’Gimme Shelter’はキースじゃ歌いこなせない」だの苦言を呈していたのですが、インタビュアーに「その割には随分と楽しそうにしてましたよね?」と突っ込まれて苦笑していた、つまり本当は楽しかったことを突かれていたミックだったのです。このようにミックが観に来るようなギグです、そうなれば音源が存在するのは奇跡的なレベルでしょう。おまけにこのギグを捉えたオーディエンス録音の音質が非常に良いのだからなおさらというもの。この貴重音源を最初にリリースしてみせたのは「YAP YAP」(ICJ15)というCD。ただし一枚のディスクに収めるために「Too Rude」など3曲をカットしていた不完全版だったのです。それ以前に、これがリリースされた頃には「MAIN OFFENDER」の人気が急降下していたので、それを手に入れた人はほとんどいなかったと思われます。そして貴重なギグを捉えた音源は新たなアイテムが登場することもなく10年が経過。もやは誰もが忘れてしまった頃に登場したのが「IT’S OLDIE ROCK AND ROLL」。ようやく登場した完全収録盤、しかもマスターからの収録と言うことで専門誌などからも高い評価を受けました。この日の音源はとにかく音質が良く、おまけにウォーミー。マーキーと言うハコの臨場感や音像の近さを余すことなく伝えてくれるのです。それに加えてキース以下バンドの演奏も絶好調。既にブエノスアイレスやケルンでのテレビ収録ステージを終えたことでプレッシャーからも解かれていたことも大きかったのではないかと。そして「MAIN OFFENDER」期最大の定番映像である1993年ボストンではキースの声が嗄れ気味であった。その点においてもマーキー・ギグのキースは絶好調。ワイノーズはクラブ・ギグが本当に合います。ここまでに挙げてきた定番ライブ映像は今ならばYouTubeでも簡単に見られますので、むしろ久々に良好オーディエンス録音がリリースされるとなれば、世界中のマニアの注目を浴びること間違いなし。大音量で鳴らすともうゴキゲン!
Live at Marquee Club, London, UK 2nd December 1992 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters)
Disc 1(44:11)
1. Take It So Hard 2. Eileen 3. Wicked As It Seems 4. Gimme Shelter 5. Too Rude 6. Yap Yap 7. How I Wish 8. Big Enough
Disc 2(50:46)
1. 999 2. Time Is On My Side 3. Hate It When You Leave 4. I Could Have Stood You Up 5. Bodytalks 6. Band Introductions 7. Will But You Won't 8. Happy 9. Whip It Up
Keith Richards - Guitar, Vocals Waddy Wachtel - Guitar, Backing Vocals Ivan Neville - Keyboards, Guitar, Backing Vocals Charley Drayton - Bass, Drums, Backing Vocals Steve Jordan - Drums, Bass, Backing Vocals Bobby Keys - Saxophone, Percussion
Sarah Dash - Vocals Babi Floyd - Backing Vocals, Percussion