同レーベルが最も積極的なリリースを行っていたのが1990年代半ば。当時のコンパクト・ディスクは音がクリアーであればそれで善しとされていた時代に、アナログ感を大事にしたマスタリングを、かのスティーブ・ホフマンが担当したことで今の耳で聞いても魅力的な仕上がりのCDをいくつもリリースしていたのです。その中にはウイングスの「WILD LIFE」やジョージ・ハリスンの「ALL THINGS MUST PASS」といった、マスタリングが済んでいながらもお蔵入りしてしまったものまであり、それらがリリースされたのは記憶に新しいところ。今回登場するレオン・ラッセルのファースト・アルバムは1994年にDCCバージョンがリリースされました。もちろん同レーベルからのリリースですので、あのスワンプ・ロック特有な腰の据わったサウンドを自然なアナログ感をCDでも楽しめる仕上がりが見事なのですが、現在出回っている本作の現行盤のマスタリングも悪くなく、この辺りは好みの問題かと。むしろ本アルバムのDCCバージョンがマニアの間で大きな注目を浴びたのは、アルバムのレコーディングがおこなわれたロンドン、オリンピック・スタジオでのセッションからのレア音源をボーナストラックに収録していたことでしょう。中でも注目されたのが二つの演奏。一つは「Jamin’ With Eric」で、その名の通りエリック・クラプトンとのジャム・セッション。ここではレオン・ラッセルがホンキートンク・スタイルのピアノでリードしながら、そこにクラプトンがソロで切り込むというもの。よって演奏がタイトで完成度が高く、なおかつこの時期ならではトーンで弾きまくるクラプトンの姿が捉えられたという聞き応えのあるもの。ただでさえお互いのファースト・ソロ・アルバムのレコーディングに参加し合った時期でもあり、和気あいあいした雰囲気まで感じられます。それ以上にマニアから大きな注目を浴びたのが最後に収録された「(Can't Seem To) Get a Line on You」。何故ならこの曲は後にローリング・ストーンズが「Shine A Light」として発表する曲の草稿と呼べる状態の音源だったからです。そこだけでも大変に貴重なのですが、ここではミック・ジャガーが歌うのはもちろん、バックがラッセルのピアノにリンゴ・スターのドラムというもので、終始スライド・ギターを弾いているのは当時それを習得したばかりのジョージ・ハリスンだと言われています。このバージョン、一方でチャーリー&ミック・テイラー説(さらにはビル・ワイマンまで)もあるのですが、ここで聞かれるスライドはフレーズに不安定さが見え隠れするもので、おまけにスライドを弾かない時のカッティングの雰囲気など、なるほど当時のハリスンのプレイのように聞こえます(よってこの曲は1970年の7月に録音されたという説もあり)。いずれにせよラッセル絡みの録音だったからこそ、ボーナスとして日の目を見たことは間違いありません。そんな貴重スーパーセッション音源ですので「(Can't Seem To) Get a Line on You」の方は多くのストーンズ・タイトルにパイレートされ、それらで聞かれたマニアも多いのでは。しかし「Jamin’ With Eric」の方はあまり注目を浴びず、それどころか忘れ去られたと言っても良いのではないでしょうか。今となってはこのアルバムのDCCバージョン自体が今では見過ごされてしまっている感があり、これほどまでに豪華なボーナスを誇った仕様を手軽に聞けるという充実でもります。現行CDにはもちろんこれらのボーナスは収録されておらず、しかも目玉となる二つの演奏以外も素晴らしいものばかり。クラプトンのファースト・ソロと双璧を成すスワンプ・ロック黎明期アルバムのレアなDCCバージョンをお試しください。 Taken from the original DCC Compact Classics CD(GZS-1049) Mastered by Steve Hoffman 1. A Song For You 2. Dixie Lullaby 3. I Put A Spell On You 4. Shoot Out On The Plantation 5. Hummingbird 6. Delta Lady 7. Prince Of Peace 8. Old Masters 9. Give Peace A Chance 10. Hurtsome Body 11. Pisces Apple Lady 12. Roll Away The Stone Bonus Tracks Unissued Tracks From The Leon Russell Sessions 13. The New Sweet Home Chicago 14. Jammin' With Eric ★エリック・クラプトンとのジャム・セッション 15. Indian Girl 16. Shoot Out On The Plantation 17. (Can't Seem To) Get A Line On You ★「Shine A Light」の原曲。ボーカルはミック・ジャガー。