大きな話題を呼んだ“モービル・フィディリティ”のCD復刻シリーズ。その最新弾がリリース決定です。アナログ・マスター専門メーカーの“モービル・フィデリティ・サウンド・ラボ(MFSL)”と言えば、世界のオーディオ・マニア達が絶大な支持を寄せる信頼のブランド。音の匠が情熱の限りを込め、大名盤の数々をマスター・テープからデジタル化していきました。そんなシリーズの中で、本作に収められているのは1994年にリリースされたCD『UDCD 614』。そう、RUSHが新たなるサウンドの挑んだ意欲作『SIGNALS』です。
【マスターテープ・サウンドを最重視したモービル・フィディリティ】
アナログ作品のCD化が最盛期を迎えた90年代には高音質CDが数多く登場しましたが、その中でもMFSLは別格でした。他の高音質CDは新技術によって圧縮の違和感を減らしたり、素材で読み取りエラーを減らしたりといった「デジタル劣化を抑える」発想のもの。それに対してMFSLのポリシーは「マスターテープに刻まれた音を忠実に再現し、余分なものを足したりしないこと」。磁気テープから音を引き出す段階にも目を向けた独自の“ハーフスピードマスタリング”技術を開発するなど、“アナログ録音された音そのもの”を最重視にしているのです。そんなMFSLは1987年からレコード会社からオリジナルのマスターテープを借り受け、数々の名盤を1本1本緻密にデジタル化。マスターテープの音をCDに移し替えていく“Ultradisc”シリーズをリリースして行きました。現在はSACDやLPの分野にも進出していますが、本作は90年代の前半期にCD化していたというのもポイント。磁気テープのマスターは経年劣化に弱く、時間が経てば立つほど録音当時の音が失われていく。テープが歪んだり張り付いたりといったケースもありますが、たとえ精密に保管されていたとしても磁気の消失までは防げない。現在では、マスターテープそのものより物理的な溝で記録するLPの方が音が良かった……などという事態も起こりつつあるのです。その点においても“Ultradisc”シリーズは偉業だった。CDの普及期にあった80年代から始められており、高音質を謳う新技術CDの登場よりも早くにマスターテープの音をデジタルに残したのです。
【1音の立体感とトータルの世界観がリアリティを極めた『SIGNALS』】
そうして“録音から12年”時点のマスター・サウンドを伝えてくれるのが、本作の『SIGNALS』。そのサウンドは瑞々しい鮮度が眩しい。とにかく1音1音に立体感があり、その立ち上がりから虚空に消える刹那までが手応えたっぷりに描かれる。RUSHの場合、近年のリマスター盤も出来がよいのですが、本作はイコライジング感もなしに同等以上のダイナミズムを感じさせてくれる。その要は、微細部に至るまでフレッシュなディテール。1つひとつの音が克明なためにわざわざ音圧を引き上げるまでもなくピークが浮かび上がり、無音部の漆黒も深くなる。例えば、「Digital Man」中盤のバスドラ。打音は破裂音寸前の迫力でありつつ、決してオーバーピークにはならず、その芯から広がるヴァイヴの波紋までクッキリとしたまま無音へ吸い込まれていく。RUSHは各時代の最先端を体現していくバンドでしたが、単に目新しい加工感だけではなく生音、ひいては楽器の存在まで感じる現実感があるのです。1音1音に注目してもそれだけ鮮やかなのですが、それがバンド・アンサンブル全体にまで波及しているから素晴らしい。当時大いに話題になったシンセは天翔る高音から躍動感たっぷりの中音域、地響きのような重低音に至るまですべてが美しい。そして、そこに絡んでいくアレックスのギターとニール・パートの妙技。そのフレーズ1つひとつがピンと張った糸のように感じられ、それが複雑で立体的な綾取りのように音の構造物を形づくっていく。これまでも数多くのMFSLタイトルをご紹介してきましたが、シリーズのコンセプト辞退がRUSHのためにあるかのようにさえ感じる仕上がりなのです。“モービル・フィディリティ”によるCDだからこそ現代まで保持し得た大名盤のマスター・サウンド。今になって現物を手に入れようと思っても、元々が少数限定生産なために困難。その美麗サウンドを1人でも多くの方に触れていただくためのリリース。
Taken from the original US Mobile Fidelity Sound Lab CD(UDCD 614) Ultradisc II CD from Mobile Fidelity Sound Lab "Original Master Recording" Collection (42:56)
1. Subdivisions 2. The Analog Kid 3. Chemistry 4. Digital Man 5. The Weapon 6. New World Man 7. Losing It 8. Countdown





























