大きな話題を呼んだ“モービル・フィディリティ”のCD復刻シリーズ。その最新弾がリリース決定です。アナログ・マスター専門メーカーの“モービル・フィデリティ・サウンド・ラボ(MFSL)”と言えば、世界のオーディオ・マニア達が絶大な支持を寄せる信頼のブランド。音の匠が情熱の限りを込め、大名盤の数々をマスター・テープからデジタル化していきました。そんなシリーズの中で、本作に収められているのは1997年にリリースされたCD『UDCD 709』。CHEAP TRICKの出世作にして象徴でもあるライヴアルバム『AT BUDOKAN』です。
【マスターテープ・サウンドを最重視したモービル・フィディリティ】 アナログ作品のCD化が最盛期を迎えた90年代には高音質CDが数多く登場しましたが、その中でもMFSLは別格でした。他の高音質CDは新技術によって圧縮の違和感を減らしたり、素材で読み取りエラーを減らしたりといった「デジタル劣化を抑える」発想のもの。それに対してMFSLのポリシーは「マスターテープに刻まれた音を忠実に再現し、余分なものを足したりしないこと」。磁気テープから音を引き出す段階にも目を向けた独自の“ハーフスピードマスタリング”技術を開発するなど、“アナログ録音された音そのもの”を最重視にしているのです。そんなMFSLは1987年からレコード会社からオリジナルのマスターテープを借り受け、数々の名盤を1本1本緻密にデジタル化。マスターテープの音をCDに移し替えていく“Ultradisc”シリーズをリリースして行きました。現在はSACDやLPの分野にも進出していますが、本作は90年代の前半期にCD化していたというのもポイント。磁気テープのマスターは経年劣化に弱く、時間が経てば立つほど録音当時の音が失われていく。テープが歪んだり張り付いたりといったケースもありますが、たとえ精密に保管されていたとしても磁気の消失までは防げない。現在では、マスターテープそのものより物理的な溝で記録するLPの方が音が良かった……などという事態も起こりつつあるのです。その点においても“Ultradisc”シリーズは偉業だった。CDの普及期にあった80年代から始められており、高音質を謳う新技術CDの登場よりも早くにマスターテープの音をデジタルに残したのです。
【オリジナル版のマスター・サウンドによって甦る『AT BUDOKAN』】そうして“録音から19年”時点のマスター・サウンドを伝えてくれるのが、本作の『AT BUDOKAN』。これまでご紹介してきたMFSLシリーズはほとんどがスタジオ名盤であり、歓声もミックスされたステージ・ライヴではあまり意味がない……と思いきや、実はそういうものではありません。まず耳を惹くのは、低音の鮮やかさ。アナログ感覚の密度やずっしりとした質感が味わえつつ、立体感も見事に描かれている。1音1音の立ち上がりも鋭く、それが綺麗なカーヴを描き、無音の漆黒へと消えてゆく……その輪郭の機微までもが残されているのです。これこそ、MFSLの旨み。現代的なマスタリングによってピークを引き上げた不自然感ではなく、楽器の存在感まで描ききったマスター・テープならではのサウンドなのです。そうした美点はスタジオ作でも感じられますが、実はライヴ録音でこそ真価を発揮する。スタジオ作は納得のいくテイクが録れるまで何度でも繰り返し、それを立体的に組み上げる。立体感があって当然なのですが、一斉に演奏するライヴはそうはいかない。特に70年代の録音は1つの楽器音が他楽器のトラックにも記録される事がよくあり、それがアンサンブルの一体感を生み出しもしますが、一方で(無意識下レベルで)混ざり合いになって三次元的な深みをスポイルしがち。そこを理解せずに無理矢理リマスターで立体感を演出しようとすると不自然になりねないのです。そこで重要になるのがマスター鮮度。意識もしないような微細部まで残されていることにより、演奏自体が本来持っていた立体感が自然と現れ、そのディテールが細やかなら細かいほどナチュラルな鮮やかさを描いてくれるのです。そう、これはまさにMSFLマスタリングの真価そのものでさえある。実のところ、翌1998年には拡張版『AT BUDOKAN: THE COMPLETE CONCERT』もリリースされたために、A/B面のフェイドも残る本作はあまり注目されませんでしたが、マスターテープ本来のオリジナル・サウンドは本作にこそ息づいているのです。
“モービル・フィディリティ”によるCDだからこそ現代まで保持し得た大名盤のマスター・サウンド。今になって現物を手に入れようと思っても、元々が少数限定生産なために困難。その美麗サウンドを1人でも多くの方に触れていただくためのリリース。
Taken from the original US Mobile Fidelity Sound Lab CD(UDCD 709) from Mobile Fidelity Sound Lab "Original Master Recording" Collection
1. Hello There 2. Come On, Come On 3. Lookout 4. Big Eyes 5. Need Your Love 6. Ain't That A Shame 7. I Want You To Want Me 8. Surrender 9. Goodnight Now 10. Clock Strikes Ten





























