今や押しも押されぬエリック・クラプトンの「右腕」となったギタリスト、ドイル・ブラムホール?。2000年以降、彼の楽曲面、サポートプレイ面での貢献には絶大なものがあり、もし彼がいなかったら、果たしてクラプトンがこうまで順調にキャリアを延長してくることはできなかったのではないかと言っても過言ではありません。今回はドイル・ブラムホールIIの楽曲センスの良さ、プレイの優秀さを実感していただけるナンバー、ライブテイクを集めてみました。クラプトンにここまで買われた実力のほどを再確認いただければと思います。元々クラプトンがドイルの存在に気がついたきっかけは、90年代末期のツアー中、オフタイムのクラプトンがリラックスできるよう、マネージャーがリスニング用に用意した他アーティストのCD群の中にドイルのアルバムが含まれていたことでした。何気なくドイルのCDを取り上げ聴いてみたクラプトンは瞬時にドイルの個性に魅せられます。そして即座にドイルの所在確認をマネージャーに命じ、次作のアルバムへの参加を要請したのです。それは2000年リリースのB.B.キングとのジョイントアルバム『RIDING WITH THE KING』でした。ここからクラプトンとドイルの絆は深まっていったのです。それでは各曲を解説していきましょう。1. Marry You 2. I Wanna Be その『RIDING WITH THE KING』に収録されたドイル作の2曲です。クラプトンはこのB.B.とのブルースアルバムで、敢えてドイルのナンバーを2曲もカバーしました。もちろんドイル自身も口説いてセッションに参加してもらいました。それくらいドイルに「一目惚れした」わけです。このアルバムが単にブルースのカバーに終始するよりも、この2曲を収録したことでどれほどインパクトを生み出したかは計り知れません。楽曲の良さに加え、逆にB.B.がこうしたコンテンポラリーなナンバーにも柔軟に対応できることを証明したことでも、非常に価値のある楽曲だったと言えるでしょう。ドイルはクラプトンとB.B.を引き立て、自らは陰の立役者として、見事なサポートプレイを披露しています。Marry YouはプロモーションCDシングルバージョンを、I Wanna Beはプロモーション・ラジオエディットバージョンを収録しています。3. Superman Inside クラプトンはさらに次作『REPTILE』(2001年リリース)にもドイルを招きました。そしてドイルもそれに応え、新たな楽曲を提供したのです。これがまた当アルバムでは最もロック色の強いキラーチューンとなりました。本当にドイルの作曲のセンスは素晴らしいものです。ここには当アルバムのDVDオーディオのみに収録されていたレアなオルタネイト・ボーカルバージョンを収録しています。クラプトンは当アルバムのプロモーションツアーにもドイルを参加させたかったのですが、それは叶いませんでした。なぜなら同時にドイルに目を付けていた元ピンク・フロイドのロジャー・ウォータースのツアーに先にブッキングされてしまっていたからです。レジェンドクラスの大物が獲り合うドイル、凄いですね。4. Lost And Found 5. Piece Of My Heart もはやドイルを手放すことができなくなったクラプトンは、2005年リリースの『BACK HOME』にも協力を依頼、ドイルはセッション参加のみならず、2曲の楽曲提供も行いました。Lost And Foundは、クラプトンとのジャムセッションから生まれたナンバーで、当時クラプトンは「ジャムった後、何とかこれを形にしたいね、とドイルに言って別れたら、一晩で仕上げてきたんだ。」と、驚きとともに語っていました。やはりドイルのセンスは只ものではありません。Piece Of My Heartは、当アルバムでは最高の名曲とも言えるナンバーで、こんなに素晴らしいナンバーを提供しながら、自らはバックアップに回り、ゲストのジョン・メイヤーに花を持たせています(終始オブリガートでリードプレイをしているのはメイヤーです)。健気ですね。クラプトンは終盤に左チャンネルから切り込んできて、メイヤーとの息詰まるインタープレイを展開しています。当アルバム中、最大の聴きどころです。6. Everything You Need 遂にクラプトンはドイルのアルバムにしてやりました。2018年リリースのドイルの5枚目のソロアルバム『SHADES』に収録されたこの曲でのクラプトンのプレイは、ドイルのプレイに寄り添うような印象を受けます。ソロ競演なのに優しいんです。まるで長年に亘るドイルの友情と貢献へのクラプトンの静かなる思いが込められているかのようです。7. Diamonds Made From Rain 2010年リリースのクラプトンのアルバム『CLAPTON』に収録されたドイル作のナンバーです。ここではプロモーション・ラジオエディットバージョンを収録しています。ボーカルにはシェリル・クロウが参加しています。ほとんどがカバー曲で構成されたこのアルバムにあって、このドイルのオリジナル作がアルバムをより輝かせることに繋がりました。ドイルのロマンティックな一面が窺える秀逸なナンバーです。8. Layla 念願が叶い、ようやくクラプトンはドイルをツアーのサポートメンバーに加えることができました。それは2004年ツアーでした。ここでは初めてドイルがクラプトンをサポートしたツアーから、当時イギリスのFMラジオで放送された2004年4月25日のアイルランド、ベルファスト公演のステレオ・サウンドボード録音テイクを収録しています(ミッドヴァレイ『BLACK BEAUTY』より)。オリジナルバージョンに近い、的確なリフやコードワーク、センスを感じさせるオブリガートはドイルの才能を物語っています。今までのサイドギタリストとは明らかに違いました。9. Compared To What ドイルは幅広い人脈を持ち、プリンスのバンド、ザ・レヴォリューションのメンバーであるウェンディ&リサとのユニット<パシフィコ>でも活躍していました。ここでは2005年8月10日に、米カリフォルニア州ハリウッドにあるクラブ・ラーゴで行われた彼らのギグにクラプトンが飛入りしたレアなライブテイクを収録しています(ステレオ・オーディエンス録音)。このステージには、ドラムでエイブ・ラボリアル・ジュニアやウェンディの双子の姉で当時のドイルの奥さん、スザンナ・メルヴォワンも参加していました。クラプトンの二度に亘る素晴らしいソロに続いては、ドイルによるジミヘンのようなソロを聴くことができます。ここでは実際には18分に及んだパフォーマンスから、7分41秒に濃縮エディットしたバージョンを収録しています。そしてこの曲は、2009年に埼玉で実現したクラプトン&ベック伝説のジョイントステージでもプレイされました。このことから、このギグでの感触を気に入ったクラプトンとドイルから、この曲をセットリストに加えることがベックに進言されたことが窺えます。10. Little Wing ドイルに加え、スライドの名手デレク・トラックスを伴い、トリプルギター体制で実施した2006年の「BACK HOMEワールドツアー」から、12月9日のジャパンツアー最終日、日本武道館公演でのテイクを収録しています(この公演を極上ステレオ・オーディエンス録音で収録した『STARSIGN』より)。この日のこの曲は特別なものでした。なぜなら、中間でソロをとったドイルが予定通りワンコーラスで次のデレクに繋ごうとした瞬間、クラプトンがドイルに向かって「もっと弾け!」と言わんばかりのジェスチャーを示し、それに気づいたドイルがソロを延長したからです。クラプトンがそんな行為に及ぶのは非常に珍しいことでした。最終公演にあたり、これまでのドイルの貢献に感謝し報いようと思ったのでしょうか?・・・・それとも・・・。クラプトンは懸命にプレイするドイルの姿にジミヘンの幻影を見たからなのかもしれません。11. Got To Get Better In A Little While ドミノスナンバーが続きます。これは2018年7月8日にロンドンのハイド・パークで開催され、6万5千人を集めたフェス「BRITISH SUMMER TIME」にトリで出演した際のライブテイク(ステレオ・オーディエンス録音)です(ミッドヴァレイ『IT’S COMING HOME』より)。この時のドラムは、アース、ウィンド・アンド・ファイヤーのソニー・エモリーでした。エモリーのおかげで強力なグルーヴが紡ぎ出されており、それに煽られてファーストソロをとるクラプトン、セカンドソロのドイルともに素晴らしい出来映えとなっています。2004年以降、様々なサポートメンバーとともにプレイされてきたナンバーですが、彼らのプレイのお陰で、これが完成形だったかと思えるほどのプレイクオリティを示しています。12. Gotta Get Over クラプトンのデビュー50周年記念ツアーから、2013年6月2日のドイツ、リプジグ公演からのライブテイクを収録しています(ステレオ・オーディエンス録音)。オリジナルバージョンは、同年リリースのクラプトンのアルバム『OLD SOCK』に収録されていたドイル作のナンバーですが、ライブステージではさらにグルーヴィーな出来映えとなりました。クラプトンとドイルのユニゾンプレイで始まるイントロからそれぞれのハイテンションなソロ、迫力満点のバックコーラスまで、ライブ映えするドイルの楽曲の素晴らしさがよく分かるナンバーです。13. The Core クラプトンがツアーを小休止していた2018年に、米コネティカット州グリーンウィッチで5月26日にスポット的に行われたフェスティバル<GREENWICH TOWN PARTY>に出演してプレイされた珍しいナンバーです(ステレオ・オーディエンス録音)。この曲がセットインしたのは78年以来40年ぶりのことでした。オリジナルバージョンは『SLOWHAND』収録で、当時バンドに在籍していた女性シンガー、マーシー・レヴィが歌っていた全パートをここではドイルが担当しています。久々のナンバーでキレまくるクラプトンのプレイも聴きものですが、ファーストソロをとるドイルの味わい深いプレイにも、彼のボーカルにも注目です。 以上、クラプトンの頼れる相棒、ドイル・ブラムホール?にスポットを当てたレアで素晴らしい楽曲を集めてみました。今後もドイルは、クラプトンにはなくてはならない存在であり続けることでしょう。実はドイルとの共演が叶った直後の2001年、正式にクラプトンはツアーからの引退を発表していました。時同じくしてドイルをツアーのサポートメンバーに口説いていた時期です。ひょっとすると、ツアー引退を撤回したのは、ライブキャリアを終える前に、ドイルとは絶対やっておかねばならないと考え直したからだったかもしれません。だとすれば、ドイルは「クラプトンに引退を撤回させた男」だったかも。カッコイイですね。