結果的にウイングスのラスト・アルバムとなってしまった傑作『BACK TO THE EGG』は実質的に廃盤状態であり、現在ではサブスクでしか聞かれない状況が続いています。惜しまれつつこの世を去ったデニー・レインの語りからアルバムが始まるなど、グループ歴代のアルバムの中にあって彼の活躍が目立つ本アルバムがフィジカルでは手に入らないとは由々しき事態だと言いざるを得ません。皮肉なことに、そんな状況を尻目にこの名盤の制作過程を捉えたラフミックス音源が久々の登場&アップグレードを果たします。『BACK TO THE EGG』のラフミックス音源は収録予定の曲がまとまり、それらをとりあえずアルバムの形にしてみたという段階の文字通りラフミックス。この音源はLP『EGGS UP』で日の目を見てから常にマニアの間で高い人気を誇る音源であり続けています。その秘訣はまず音質の良さ。さらにミックスの違いが解りやすいバージョンばかりが収められていたというのも大きい。まずオープニングの「Reception」からして大きく違う。何と「The Broadcast」の朗読が組み込まれているだけでなく、曲が二巡するというロングバージョン。さらに未発表曲「Cage」もこの時点では収録候補であったことが明らかに。本音源登場前から既に『COLD CUTS』で知られた存在ではありましたが、それとはミックスが違うという奥の深さ。当時マニアの間に浸透し始めた未発表曲のさらなるミックス違いということがまたマニアを喜ばせるには十分でした。しかし何と言っても本音源の目玉であり、なおかつデニーが亡くられた今となっては「Getting Closer」の別ミックスがさらに尊くなってしまったというもの。何しろここではデニーがメインボーカルを務めており、ポールと交互に歌うというリリース版とまるで違うボーカル・アレンジに心底驚かされたものです。確かにポールが「Getting Closer」の草稿を70年代前半には書いていたことがデモ音源で明らかとなっていますが、それをアルバムに収録できる段階にまでまとめあげたのはデニーの力も大きかったとギタリストのローレン・ジュバーが証言していました。そもそも「Getting Closer」はアルバム収録曲の中でも特に人気の高い楽曲であり、それがここまで違いの大きなバージョンとして楽しめるのはあまりに魅力的だった。こうして聞くとデニーの曲では?と錯覚しそうになるほどの違いはインパクトがあまりにも大きい。ラフミックスだからこそ解き明かしてくれた衝撃の新事実でした。それに音源全体も楽器のバランスが整えられておらず、あるいは楽器やボーカルの生っぽい質感が随所で感じられるのがラフミックスならではの状態。これまたデニーが歌う「Again And Again And Again」ではジュバーのギターの音がやたらに目立つというバランスも、まだミックスが終わってない段階の証かと。こうして内容と音質の両方で魅力にあふれた音源でしたので、CD時代を迎えても高い人気を誇ります。まず最初に『EGGS UP』の名の下で出されたCD版は十分に音質が良く、以降コピー盤の元ネタにされるなど長期政権を誇った名作でした。その後21世紀を迎えてYellow Catがリリースした『SUNNY-SIDE UP』で遂に新たな決定版が登場かと思いきや、カセットで流出した音源のヒスノイズをイコライズで抑えたせいでふんずまりな仕上がりとなってしまいます。また貴重ではあるのですが、冗長なインスト・ジャムが延々と続く内容が聞き込む上でのストレスとなっていたのも事実 しかし今回はコア・コレクター間に出回るアッパー版コピーをマニアから提供いただき、遅すぎたといってもいい待望のアップグレードが実現。もはや『SUNNY-SIDE UP』とは比較にならず、なおかつCD版『EGGS UP』よりもはっきりクリアーでヒスノイズが減少。むしろ今回のバージョンと比べると『EGGS UP』のジェネ落ち感が気になってしまうほど。特にアコースティックな「We're Open Tonight」のイントロの澄み切った音色は『EGGS UP』との差がはっきりと。元々が音の良い音源ではありましたが、今回のアッパー感は見事なもの。みんな大好き『BACK TO THE EGG』ラフミックスが文字通り待望のアップグレード。改めてデニーが活躍したウイングス最後のアルバムの制作過程を最高の音質で垣間見てください!Back to the Eggアウトテイク音源のアップグレード版! アルバム制作中に曲順を仮組みした”rough assembly”バージョンのBack to the Eggです 87年にコレクターが入手したTrevor Jonesのカセットコピーの最もロージェネレーションな音源 2002年リリースの「Sunny-Side Up (Yellow Cat)」より数段テープジェネが若いです PAUL McCARTNEY & WINGS - BACK TO THE EGG: ROUGH MIX(1CD) (44:52)01. Reception 02. Cage 03. Getting Closer 04. We're Open Tonight 05. Spin It On 06. Old Siam, Sir 07. Again And Again And Again 08. To You 09. Arrow Through Me 10. After The Ball / Million Miles 11. Winter Rose / Love Awake 12. The Broadcast 13. Rockestra Theme 14. So Glad To See You Here