あの「アット・フィルモア」直後、チック・コリアとキース・ジャレットのダブル・キーボード、ホランド、ディジョネット、アイアートにグロスマン、野外ステージでの闘争心剥き出しの大音量コンサートが、偏ったバランスが改善されたクリアーな奇跡の高音質で蘇った決定版が登場!!ライヴ音源に関して、サウンドボードが良いに決まってるが、オーディエンス録音にはボードにない臨場感、まるでその場で実際に聴いているような擬似体験が出来るという意味で、意外やオーディエンス録音の方が好きというファンも多い。しかし70年代の大きなコンサート会場や野外ステージを経験した方には分かると思いますが、テクノロジーの進化した現在のPAシステムに比べて、やたらとベースの音がデカい!などの聴こえる楽器の偏りが顕著でした。コンサート会場で聴く分にはまだしも、それをテープに録音して後で聴くとそれはもう悲惨なものです。本作で聴ける1970年7月6日ニューヨークのハイド・パーク野外コンサートもそこまでは酷くなかったのですが、既発のSo What!盤ではやはりデイヴ・ホランドのベースが大きくムンムンと少しこもった音質が演奏が良いだけに少し残念でした。本作では元のマスターテープを精査してベースの音をタイトにして、さらにチックとキースのキーボード、ディジョネットのドラムスなどの楽器をバランス良く配置して、マイルスのトランペットが浮き出るようなリアルな高音質を実現!!ロック世代にとってもカリスマ的存在になり、時代のヒーローとして認識されるようになったマイルス含め、チックもキースもデイヴ・ホランドもジャック・ディジョネットもアイアートもスティーヴ・グロスマンも、それぞれのメンバー全員が最もカッコよかった時代に、ローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンのようなロックのスーパーがいっぱい付くようなアーティストが大音量で観客を沸かす、野外セントラル・パークに降臨したマイルス・グループ。その後もマイルスは、例えばピート・コージーとレジー・ルーカス、ロバート・アーヴィングとアダム・ホルツマン、ボブ・バーグとゲイリー・トーマスなど同じ楽器をバンドに2つ導入するが、このチックとキースによる相乗効果以上のサウンドはなかった、というかあり得なかった!モジュレーターを通したり、音を変換して凶暴なまでにエレピで暴れまくる、一発キメテてる?チックと、やはり体をくねらせて音を変換しながらオルガンをのたうち回らせるキースの天才2人が、ライバル心を剥き出しに真っ向からぶつかり合う様は、大音量のロック・バンドをも凌駕する。その嵐の真っ只中をかい潜って威風堂々ブローをかますマイルスはどうだ!もちろんジャックもホランドもアイアートも負けじと突っ込んでくる。皆ロック、ブルーズ、ファンク、現代音楽までその時の気分でお構いなしにガンガンぶちこんでいく。こうなるとまさに異種格闘技戦だ!しかしマイルスのカリスマ性と知性とリーダーシップによってギリギリのところで統制され、それまで誰も聴いたことのない新しい音楽を生み出して行く。もちろんそのクオリティの高さは言うまでもない。そう、コルトレーンとエヴァンスを擁したオリジナル・クインテット、トニー、ハービー、ショーターらを擁した黄金のクインテットしかり、全てがマイルスがいたからこそあれほどのレベルに達したのだ!なかでも、このチックとキースを擁したマイルス・バンドの革新性はダントツだ!これまでは埃を被ったレコードのように細かなノイズ、モコモコしたこもりなど、あ〜大会場の隠し録りだからこんなものだろうだったこのマジソン・スクウェア・ガーデン公演。もちろん極上高音質とまでは言わないが、ここまでクリアーに進化したのはとても感慨深い。