世界のオーディオ・マニア達が絶大な信頼寄せるブランド“モービル・フィディリティ”。音の匠が情熱の限りを込めて生み出した大名盤シリーズがリリース決定です。本作に収められているのは、1996年4月にリリースされたCD『UDCD 668』。アナログ・マスター専門メーカーの“モービル・フィデリティ・サウンド・ラボ(MFSL)”がデジタル化したQUEENの『華麗なるレース』です。マスターテープ・サウンドを最重視したモービル・フィディリティ アナログ作品のCD化が最盛期を迎えた90年代には高音質CDが数多く登場しましたが、その中でもMFSLは別格でした。他の高音質CDは新技術によって圧縮の違和感を減らしたり、素材で読み取りエラーを減らしたりといった「デジタル劣化を抑える」発想のもの。それに対してMFSLのポリシーは「マスターテープに刻まれた音を忠実に再現し、余分なものを足したりしないこと」。磁気テープから音を引き出す段階にも目を向けた独自の“ハーフスピードマスタリング”技術を開発するなど、“アナログ録音された音そのもの”を最重視にしているのです。そんなMFSLは1987年からレコード会社からオリジナルのマスターテープを借り受け、数々の名盤を1本1本緻密にデジタル化。マスターテープの音をCDに移し替えていく“Ultradisc”シリーズをリリースして行きました。現在はSACDやLPの分野にも進出していますが、本作は90年代にCD化していたというのもポイント。磁気テープのマスターは経年劣化に弱く、時間が経てば立つほど録音当時の音が失われていく。テープが歪んだり張り付いたりといったケースもありますが、たとえ精密に保管されていたとしても磁気の消失までは防げない。現在では、マスターテープそのものより物理的な溝で記録するLPの方が音が良かった……などという事態も起こりつつあるのです。その点においても“Ultradisc”シリーズは偉業だった。CDの普及期にあった80年代から始められており、高音質を謳う新技術CDの登場よりも早くにマスターテープの音をデジタルに残したのです。MFは、そうして引き出したマスターサウンドを24金のゴールドCDに封じ込めた。純度99%以上という金メッキ・コーティングは通常CDの金属薄膜より反射率が高く、エラーを減らすことができる。その狙いも重要でしたが、現在それ以上に重要だと思われているのが保存性。CDのポリカーボネートは保水性があり、内部の金属薄膜(アルミ)を腐食させる(つまり、錆る)。古いCDを光にかざすとポツポツとした小さな点が見えることがありますが、それが腐食して空いた穴であり、これが読み取りエラーの原因の1つになるとも言われています。それに対して金はもっとも安定した金属で自然界では錆びない。もちろん、あくまでコーティングなので限界はあるものの、通常CDとは比較にならないほど保存力があるのです。機微の機微まで鮮明でナチュラルな『華麗なるレース』そうして“録音から20年”時点のマスター・サウンドを伝えてくれるのが、本作の『華麗なるレース』。そのサウンドは、極めて繊細でナチュラル。一聴するとアナログ感がまろやかに感じられつつ、聴き込めば聴き込むほど細やかなディテールが生き生きと息づいている事に気づく。その違いは1曲目「Tie Your Mother Down」の冒頭から明らか。QUEENの代名詞でもあるブライアン・メイのギター・オーケストレーションで幕を開けますが、実はこの多重録音は1テイク毎に微妙なズレがあり、それがぶ厚さにもなっています。本作は、この極々わずかなズレまでもがクッキリ分かる。現行リマスターCDでは多重録音も塊として扱われ、フレーズ単位で音の立ち上がりだけがグイッと引き上げられている。ところが、本作では1テイク1テイクがズレて重なっていく様が細やかに残されており、多重録音本来の重厚感がスゴいのです。もちろん、ギターだけではありません。例えば、「The Millionaire Waltz」のピアノ。本作を聴くだけでは普通に軽やかなピアノが舞っているように感じられますが、本作を体験後に現行リマスターCDに戻ってみるとびっくり。ピアノのアタック音が異様に強調され、やたらぶっきらぼう……と言いますか、暴力的でさえある。曲本来の優しさや楽しさ、滲み出す哀感もトゲトゲしたピアノで台無しになって聞こえてしまうのです。さらにドラムなら「You And I」。元々の録音からしてドラムがビビリ寸前のド迫力で捉えられているのですが、現行リマスターCDでは完全に振り切ってオーバーピークを起こしている。本作はその寸前で踏ん張っており、当時のQUEENが意図した通りのサウンドを味わえるわけです。さらに「Teo Torriatte (Let Us Cling Together)」ではマスターテープ自体の鮮度が実感できる。本作ではしっとりとしたピアノと歌声がナチュラルに鳴っているのですが、現行リマスターCDでは(デジタル化の時期が遅かったのか)音揺れを起こしており、立ち上がりも不揃いで鳴りも不安定になってしまっているのです。“モービル・フィディリティ”によるCDだからこそ現代まで保持し得た大名盤のマスター・サウンド。今になって現物を手に入れようと思っても、元々が少数限定生産なために困難。Taken from the original US Mobile Fidelity Sound Lab CD(UDCD 668) Ultradisc II CD from Mobile Fidelity Sound Lab "Original Master Recording" collection 1. Tie Your Mother Down ※オーケストレーションのズレ 2. You Take My Breath Away 3. Long Away 4. The Millionaire Waltz ※現行リマスターCDはピアノがぶっきらぼう 5. You And I ※ドラムがキレイ(現行リマスターCDでは完全に振り切ってオーバーピークを起こしている。)6. Somebody To Love 7. White Man 8. Good Old-Fashioned Lover Boy 9. Drowse 10. Teo Torriatte (Let Us Cling Together) ※現行リマスターCDでは(デジタル化の時期が遅かったのか)音揺れを起こしており、立ち上がりも不揃いで鳴りも不安定になってしまっている。本盤は無問題