数年ストーンズ1989年のアメリカ・ツアーの音源をリリースし続けてまいりました。その度に触れていたように、この時期はリアルタイムで良好なオーディエンス録音と言うのがなかなか登場せず、それどころか1989年から90年にかけて登場したアメリカ・ツアーものはどれもこれも冴えない音質のものばかりだった。今回リリースされるその典型と言える形で1989年当時にリリースされていたものです。そのアイテムの名は「LOVE YOU LIVE IN LOS ANGELES」。白黒印刷のジャケットに載せられた画像は「SOME GIRLS」の時のストーンズと言うセンスのずれ具合。それだけでもB級アイテム感が全開なLP三枚組アイテムだったのですが、それに輪をかけて冴えなかったのが音質。元になったオーディエンス録音は音像が遠く、おまけに音に厚みを欠いたペラペラなカセット・クオリティでしかも悪いポジションからの録音であったことが揺るぎないB級感を醸し出していた。そんな「LOVE YOU LIVE IN LOS ANGELES」というアイテムをリリースしたのがStarlightと言うレーベル。LP時代末期の1980年代後半から1990年辺りまでの間におけるアナログの仇花レーベルと言うイメージがぴったりと当てはまる。さまざまなアーティストの音源をすべて白黒印刷のジャケに包んでリリースしたという点が当時の基準からしても相当に冴えないものがあった。既に市場はCDに取って代わられ、しかも驚異的なクオリティのアイテムが連発されていたという輝かしき時代に、それこそ時代錯誤だと取られても仕方のないようなアイテムばかりをリリースしていたレーベルだったのです。先にも触れたようにジャケのセンスのなさだけでも十分に魅力を削いでくれるアイテムだったのですが、そこに加えてショボい音質によって、中古ショップの常連となっていたことを思い出します。これでCD時代に移ってから別音源でよい音質のオーディエンス録音がリリースでもされれば、10月18日公演の印象はグンとアップしたことでしょうが、その点においてもこの日の公演は不運でした。それと言うのも翌日のショーとなった19日の公演を会場のスクリーン用に撮影して録画されたプロショット映像がツアー終了後に流出。当然ながら音はサウンドボード録音。それだけでも冴えない音質の前日を吹き飛ばしてしまうには十分だったのですが、とどめは「Little Red Rooster」にエリック・クラプトンが飛び入りしたこと。こうした要素が重なり、マニアの間において89年のLA公演と言えば10月19日を指すことが蹄跡と化したのです。このまま10月18日の公演は「STEEL WHEELS」アメリカ・ツアーの狭間に埋もれてしまうのかと(いや、実際に埋もれていました)思われていましたが、今年に入って突如JEMSからこの日の新たなオーディエンス録音が供給されました。しかも公開に際してテープをデジタル化したのはおなじみKrw_coという最強タッグ。彼らによって供給された新音源ですが、さすがに30年近く埋もれていた音源ということもあり、エクセレントだと断言できるようなクオリティには及ばず。やはりストーンズの人気再燃「STEEL WHEELS」アメリカ・ツアーは録音環境の難しさからこうした状態のオーディエンス録音が多いですね。クリアネスや音像の近さと言う点においては、数週間前にリリースされた「OAKLAND 1989 1ST NIGHT」の方に軍配が上がるかと。しかしながら、それ以上に今回の音源で重要な点は、オークランドよりも録音状態が俄然安定しているということでしょう。ましてや「LOVE YOU LIVE IN LOS ANGELES」のショボい音質とは比べ物になりません。さすがに同LPよりは音像が近く、ややマニア向けなクオリティではあるものの、俄然「聞き込める」状態が大きな魅力でしょう。そのリリースに当たっては、大幅なオーバーホールを敢行。高いピッチのアジャストは当たり前、団子状でギターやボーカルのくぐもった響きをイコライズにて大幅に改善。良質な音源の場合はイコライズを最小限にとどめた方が原音の魅力を活かせる場合が多いのですが、こうした(オークランドほどではないにせよ)荒くれ録音の場合はイコライズが絶大な威力を発揮してくれます。今回の元になった音源を既に入手されているマニアが聞き比べれば、圧倒的なアッパー感を覚えるはず。更にテープチェンジにより、イントロカットが確認された2000 Light Years From HomeとJumping Jack Flashの2箇所は、先のアナログ「LOVE YOU LIVE IN LOS ANGELES」より丁寧に補填。より完成度の高いヴァージョンを目指しました。一方で演奏の方はツアー開始から一か月以上が経過し、なおかつこの一連のLA公演に関してはあのニューヨーク、シェア・スタジアム公演の合間行われたこともあって、大都市スイッチの入った素晴らしい演奏が聞かれます。ただしオークランドの時のような新曲に対する熱狂的な反応が聞かれないのは事実。そこがにわかファンも寄って来る大都市だけのことはあって、ミックも「新曲やるけど」とオーディエンスの顔色を伺っているほど。おまけに録音自体もまず「Undercover Of The Night」が始まると周囲が大人しくなるという解りやすさ笑。それ以外のクラシック・ソングでの熱狂が顕著なだけに、なおさら反応が淡泊な曲との落差も捉えられています。さらに面白いのが、この日に限ってキースが「Happy」しか歌わないという展開。アメリカではキースが歌い始めるとオーディエンスがトイレに向かい始めるのは有名なエピソードですが、もしかしたらキースもそれを気にしていたのかもしれません。それにしても彼が一曲だけとは本当に珍しい。しかし演奏自体は腐るどころかむしろテンション高めであり、その前の「Little Red Rooster」辺りから、この日のストーンズのスピーディさが際立った好調ぶりもリアルに捉えられている。そして今回の音源は終演後の花火やアナウンスの音まで捉えられているのがレア。アナウンスが流れるとスポンサー(バドワイザー)の悪口を呟くところまで聞けるという、ドキュメント的な面白さも味わえる音源でしょう。今やスタンダードと化した19日とはまた違った89年LAで魅せたストーンズの躍動を聞いてください!Los Angeles Memorial Coliseum Los Angeles CA. October 18th 1989 Disc 1 (66:10) 1. Continental Drift 2. Start Me Up 3. Bitch 4. Sad Sad Sad 5. Undercover Of The Night 6. Harlem Shuffle 7. Tumbling Dice 8. Miss You 9. Ruby Tuesday 10. Play With Fire11. Rock And A Hard Place 12. Mixed Emotions 13. Honky Tonk Women 14. Midnight Rambler Disc 2 (68:03) 1. You Can't Always Get What You Want 2. Little Red Rooster 3. Happy 4. Paint It Black 5. 2000 Light Years From Home 6. Sympathy For The Devil 7. Gimme Shelter 8. Band Introductions 9. It's Only Rock 'n Roll 10. Brown Sugar 11. Satisfaction 12. Jumping Jack Flash 13. Outro.