日本盤レーザーディスク復刻・エイジア編が同時登場です。当時の日本公演からほぼ1ヵ月後となる1990年11月9日、通称" 09-X1-90 "にソビエト連邦はモスクワ・オリンピスキ・スタジアに観客2万人を集めて行われた屋外ライブ映像です。かつて『エイジア モスクワ・ライヴ』という邦題で日本でも国内盤ビデオ・LDでタイトル化された事がありますが、公式DVDは現在も存在していません(※ 複雑な権利関係からか、恐らく今後も公式DVD化は望み薄でしょう)。90年は『ANDROMEDA - エイジアライヴ1990』と本作の、同じ年に撮影された2つの映像作品が残されている事にも改めて驚かされますが、特に本作『モスクワ・ライヴ』は当時のバック・ステージやステージ設営の様子、ロード・クルーの姿、地元メディアからインタビューを受けている様子、メンバーがオープン・マーケットで買い物を愉しむ光景、当時の街中、そして何より現地" 赤の広場 "で撮影された「Prayin' 4 A Miracle」のプロモーションビデオなど、滞在中に撮影した様々な映像がふんだんに盛り込まれたドキュメンタリー・タッチの側面を併せ持っていただけに、より深く当時のエイジアに肉迫出来るのが特徴でした。6月の『ライヴ1990』から髪が伸びたパットの外見的変化も面白いですが、しかし一番変化が大きいのはメンバー全員の顔が柔和になっている点でしょう。『ライヴ1990』ではまだ手探り感や緊張感が色濃く残って硬い表情が目立っていたものが、このモスクワではバックステージやオフショットは勿論のこと、演奏中もメンバー全員が表情豊かで、リラックスして演奏している事に気付かされるのです。あの素晴らしかった90年日本公演は結局ライヴ盤としても映像としても公式に残されませんでしたが、日本公演と構成が似たほぼ同時期のショウとメンバーの姿が、そうしたオフショット満載の映像と共に残された事は、我々日本のファンにとっても大いに意義あるものだったのです。そんなモスクワ・ライヴもまた、日本盤LDは格別な品質となっていました。この映像を御覧になった事がある方なら分かると思いますが、このライヴのライティングは恐らく意図的に" 赤色 "が基調になっています。勿論それは共産社会主義国のイメージ・カラーの為と思われるのですが、実は日本盤LDはこの赤色の発色が大変鮮やかなのです。これは当時同時リリースされたVHSのビデオテープ版を観てみると顕著ですが、ビデオ版は磁気テープの特性からか赤色がもっと滲んでおり、色差信号の解像度の低さによって映るもの全て(※ 特に光源や人物の輪郭)に鋭さが欠けているのです。一方水平解像度400本以上を誇るLD版は映るもの全ての色調がキリッとシャープで、物の形と質感がグッと掴み易い映像となっている為、記録メディアによる情報量・水平解像度の違いがハッキリ判るのです。リリース当時(※ 日本での発売日は1991年3月31日でした)は明らかに継ぎ足した拍手、恐らくホームビデオで撮ったと思われる客画シーンの異質さ(※ そしてその客画は同じシーンが何度か使い廻されている)などマイナス面ばかりが指摘されたものですが、しかしLD版はその編集の稚拙さでさえ愛おしくなるほど鮮明な画質・音声で、このライヴのドキュメンタリー性を現在に伝えてくれるのです。これを今回同時リリースの『ライヴ1990』同様に、完全未開封M+の日本盤LDから初回再生したものを最新機材でデジタル・トランスファーしたものが本作となっている訳ですが、その映像の美しさときたら目を疑うばかりの眩しさなのです。先述した赤色の成分も盤の再生傷が無い分だけノイズ成分が限りなくゼロに近く、音声もド迫力ステレオそのものとなっており、恐らく現時点でこれ以上は望めないクオリティとなっているのです。例えば「Sole Survivor」ではウェットンの伸び上がる声が磁気テープ版以上に中音域に芯の入った音で入っており、画質だけでなく音像でもその違い・記録メディアのアドヴァンテージ差が顕著に出ています。曲中間のブリッジではパットがタッピングを入れていたり、終盤でも原曲のイメージを壊さずに素晴らしいハードタッチで音を彩って音楽をグイグイと引き上げてゆく様子が観て取れますが、これも文句など微塵も付け様のない素晴らしい映像美で流れるのです。ダウンズのソロパート、いわゆるボレロのシーンとしての「Cutting In Fine」はウェットンが地元メディアのインタビューを受ける様子やリハーサルの様子、ロシア軍兵士も動員してのセット設営の様子がドキュメンタリー的に挿入されていますが、このセット組み上げの様子ひとつ取っても鉄骨フレーム一本一本まで確認出来る解像度を誇っているのです。この同シーンはビデオ版ではもっと粗くぼんやりとした映像で再生され、LDがいかに多くの情報量を持っていたかがよく分かるシーンでもあります。「Days Like These」では赤から青へ、ここに来て初めてステージ全体に青く強いスポットライトが当たりますが、この大胆な色彩変化もビデオ版を超える見事な発色です。一方「Rendezvous 6:02」で暗闇にピン・スポットが当たりつつ歌うウェットンの肌艶の発色、淡いライティングの再現度も抜群ですし、「The Heat Goes On」でドラムをタフに叩くカールがこちらにウインクする例のシーンも、史上最高の画質で登場します。曲のブリッジではショルダー・キーボードを持ってダウンズがフロントに出てフロントの3人が熱演を展開しますが、当時ならではのこのフォーメーションがこれほど極上の映像美で残されている事にも改めて感動を覚えるに違いありません。「Prayin' 4 A Miracle」は当時モスクワ" 赤の広場 "で撮影されたプロモーションビデオを軸に据えたシーンとなっていますが、ここもパットのギター、ダウンズのマフラーとズボン、演奏を見守る子供の帽子などの" 赤 "と、モノクロームな基本映像との対比がVHS版とは比較にならない鮮やかさで出る映像に驚かれるでしょう。再び青いスポットライトが当たる「Go」は6月のノッティンガムよりも熱っぽく歌い上げるエネルギッシュなウェットンや、後半が引き伸ばされた曲後半の熱演は今見ても感動的です。またここでは色彩と光源のコントラストが見事で、楽器に当たる照り返しの鋭さも桁違いですし、楽曲本来の威力が結実する演奏力も特上音声で甦ります。「The Smile Has Left Your Eyes」は浮かび上がる白いグランドピアノの発色の良さが際立ちますし、オリジナルのハウが82年ヨーロッパツアーで弾いていたブリッジ部分のギターをパットが弾くというレアシーンも、LDならではのタフな音像と超鮮明な映像でバッチリ追ってゆけるのです。「Open Your Eyes」も真っ青なスポットが降り注ぐ中で両手を下げ、直立不動で歌い始める姿はシンガーとしてのウェットンがまず呈示されていた事を視覚的に理解出来ますし、鮮やかなライティングの中でベーシストとしても熱演する彼がミント盤LD直結の映像美で現れる興奮にドキドキするでしょう。「Heat Of The Moment」は改めて観るとかなり抜けの良い音声で記録されていた事が分かる筈です。映像もますます質の高さが際立ち、黒い服のパットが漆黒のバックの中に居ても人物の輪郭がクッキリ浮き上がって分かるほどに鮮明で、ディスクエンドまで素晴らしい映像美が保たれているのです。バンドはこの後、1991年4月初旬に南米ツアーを行った後にまずカールが脱退し、継いでパットとウェットンが7月頃に去ってあっけなく夢潰えるのは御存知の通りです。(※ ちなみに日本でウェットン脱退のニュースが初めて流れたのは、恐らく91年9月12日放送のFMサウンドマーケット番組内だったと思います)。そう考えると91年3月31日にリリースされたこのモスクワ・ライヴは、ウェットン在籍時の89年~90年エイジアが残した最後の置き土産だったと言えるでしょう。「'72年にキング・クリムゾンに移った。これも良かったが'82年にエイジアを立ち上げたんだ。巧くいかない時期もあったけど、僕のキャリアではこれも最高だったな」ファンとしてはそんなコメントを期待してしまいますが、もしかするとウェットンにとっての音楽的継続とは仕事をしている自分そのものなのであって、特定のバンドではなかったのかもしれません。振り返れば僅か2年間弱ではあったものの、その間にはベルリンの壁崩壊、そしてソ連解体直前のペレストロイカとグラスノスチに揺れる歴史の大きな大きな転換点があり、その中でエイジアは再生して新しい航路を求め・もがいていた訳で、それを鑑みてこのライヴ映像に映るウェットンを観ると、何と活き活きとそれに挑戦している事かと改めて胸打たれる方も多い筈です。本作の狙いはまさにそこで、決してウェットンが世を去ったからではなく、そのキャリアの集大成とも言えるエイジアで彼が果敢に再挑戦していた姿だからこそ未開封の日本盤LDを開け、最新機材でトランスファーしたプレス盤DVDなのです。これほど重要なタイトルが廃盤になって久しく、再発売も見込めないなどあってはならない事です。是非この週末は永久保存に相応しい本作DVD、及び同時リリースの『ANDROMEDA: ASIA'S GREATEST HITS LIVE: Laser Disc Edition』も一緒に手に取り、挑戦していた熱きウェットンに再会して戴ければと思います!! Live at Olymmpijski Stadium, Moscow, USSR 9th November 1990 Taken from the original Japanese Laser Disc (CSLM-797) 1. Introduction 2. Only Time Will Tell 3. Sole Survivor 4. Cutting In Fine 5. Days Like These 6. Rendezvous 6:02 7. The Heat Goes On 8. Book Of Saturday 9. Prayin' 4 A Miracle 10. Go 11. The Smile Has Left Your Eyes 12. Open Your Eyes 13. Heat Of The Moment John Wetton - Bass & Vocal Geoffrey Downes - Keyboards Pat Thrall - Guitar Carl Palmer - Drums PRO-SHOT COLOUR NTSC Approx.66min.