ZEPのライブ史において文字通りの過度期となった1972年。中でもロバート・プラントのスクリーム・ボイスの末期であったアメリカ・ツアー。彼の変調に呼応するかのごとく、ZEPのライブ・サウンドもまた変化を遂げていった時期です。1971年までの勢いで押しまくる感じから、序盤がまったりと始まって最後は嵐のような盛り上がりでしめくくる。ツアーが後半に差し掛かるとLAフォーラムやロング・ビーチのように最初からアッパーな雰囲気のショーもありましたが、前半のシャーロットなどは正にまったりとしたショーの典型と呼べるもの。そのシャーロットの間にはバッファロー公演が行われていたのですが、この日の音源は未だに発掘されていません。よって次に存在するのが6月11日のボルチモア公演。これもまたシャーロットと同じように、ツアー序盤の良質オーディエンス録音として昔から定評があります。距離感のある音像ながら、正にアナログ然とした丸みを帯びた質感、さらにスッキリとした鮮度抜群な音源としてマニアに支持されてきました。当店からも今から10年前にリリースした「BALTIMORE 1972」は既に出回っていたマスターからのナチュラルな状態でのプレスCD化を実現させていたものです。それまでに出ていたアイテムのようなイコライズの不自然さ、あるいはジェネ落ちによる劣化感がない状態がマニアに高く評価されました。ところがボルチモアのオーディエンス録音を音像の遠さと相まって非常に地味な音質に聴こえる音源であったことも事実。そのせいで良質ながらもマニア以外にはなじみのない72年ツアー音源という扱いを受けていたのではないでしょうか。このボルチモアのような状態の音源ですと、一切イコライズを加えないでおくと単に地味な音質にしか聴こえないのは事実。またwinston remasterのようなファンによるイコライズ・プロジェクトがそうであるように、2010年代を迎えると、以前のドンシャリ的イコライズ・センスが鳴りを潜め「ナチュラルさと聴きやすさ」のバランスを重視した次世代イコライズが主流となって現在に至ります。その点において、今回のボルチモアなどは格好の素材だといえるのかもしれません。今回のCDリリースに当たって、ボルチモア音源の新たなベストすべく選ばれたのは、2010年にLiriodendronを名乗る人物によってリマスターされたバージョン。彼が手を加えた点としては、基本的にヒスノイズを落として左右チャンネルのバランスを整えたというもの。それ以上に特筆すべきは、この音源特有の地味な音質ゆえに暗く沈んだ風に聴こえがちだったアコースティック・セットにおいて音の抜けが良くなったというもの。ここまでも十分にアッパー・バージョンと呼ぶに相応しい仕上がりですが、今回のリリースに際しては通しで変動していた、半音近く上がったピッチを正確にアジャスト。実をいうとこの不安定なピッチの変動こそ、ボルチモア音源における最大の弱点であったのでした。これによってリスニング上のストレスが一気に解消され、マニアでなくとも楽しめる72年アメリカ・ツアーの名音源へと昇格してみせました。72年のアメリカと言えば、プラントの声の好不調が露わとなり始めた時期。特にツアー前半はライブ序盤で彼の声が煮え切らない調子の日が多い。ボルチモアに関して言うと、正にプラントの声は煮え切らない調子。ところどころでキーを下げて歌ってしまう様子はまるで70年のフェニックス公演を彷彿とさせます。そもそもボルチモアまでのZEPはツアー初日、6月7日のデトロイトから10連続公演を行っていたのだから、プラントの喉が疲労しない訳がない。おまけに「Immigrant Song」の歌詞を間違えてしまうなど、序盤のプラントからは疲労の色が濃く感じられる。そんな状況に光が差すのは今や代表曲と化した「Stairway To Heaven」。72年のアメリカではプラントが曲名を告げると、どの会場でも大きな歓声が沸き上がるところが感動的なのですが、まるでそんな反応に奮起したかの如く、プラントの頑張りが素晴らしい演奏へと昇格させています。それに声質自体はまだまだスクリーム調を保っている点がこの時期の彼の声の魅力というもの。そして今回のリリースで聴きやすくなったアコースティック・セットになると、プラントが実にいきいきと歌って完全復活。特に「Bron-Yr-Aur Stomp」の途中では演奏より早く歌に入ってしまう彼の走りっぷりからもはっきりと伝わってきます。叫ぶ頻度が下がるこれらのセットに続いて、いつもの72年パターン炸裂な「Dazed And Confused」に及ぶとプラントは絶好調。そしてボルチモアにおける最高のクライマックスは「Whole Lotta Love」メドレー。実をいうと前日のZEPはかなりの弾丸スケジュールで、昼はマディソン・スクエア・ガーデンでエルヴィス・プレスリーのライブを観戦、そこからバッファローに向かって自分たちのショーを行い、夜中にはニューヨークのクラブに飛び入り演奏といったものでした。中でもエルヴィスを観た余韻が大きかったのでしょう、メドレーに彼の「I Need Your Love Tonight」が登場したのはとてもレアな場面。ここでもプラントがハイトーンで歌い切っているから頼もしい。さらに一年後の「THREE DAYS AFTER」ショーの予告編とでも呼びたくなる「Going Down」までメドレーに登場するなど、ライブ後半の充実ぶりは素晴らしいものがあります。さらには「Rock And Roll」もプラントがハイトーンで歌い切る、72年ボルチモア決定版が登場します!
Live at Civic Center, Baltimore, Maryland, USA 11th June 1972
Disc 1 (66:02)
01. Intro 02. Immigrant Song 03. Heartbreaker 04. Black Dog 05. Since I've Been Loving You 06. Stairway To Heaven 07. Going To California 08. That's The Way 09. Tangerine 10. Bron-Y-Aur Stomp
Disc 2 (59:38)
01. MC 02. Dazed and Confused 03. What Is And What Should Never Be 04. Moby Dick
Disc 3 (41:30)
01. Whole Lotta Love 02. Rock And Roll 03. Communication Breakdown





























