北欧の魔術師が大西洋を越えた! 「魔術師」とは、もちろんPer Erikのこと。近年、1980年代後期の傑作録音を連発している録音師です。なんの目的があったのか分かりませんが、彼がアメリカに渡ったのは1990年。メタルの本場に降り立った魔術師は、ムーヴメントの激震地でも魔術を発揮しました。それがWHITESNAKE録音の新たな傑作、「SLIP IN LAGUNA HILLS」なのです!Per Erikの「SLIP OF THE TONGUEツアー物」と言えば、先日リリースされ、“ツアー屈指”との評判も頂いた「SLIP OF THE GLOBE」が思い浮かびますが、本作も勝るとも劣らないオーディエンスの名録音。低音の迫力でメタルスネイクの本領を記録した「SLIP OF THE GLOBE」に比べると、本作は“迫力”よりも“機微”に優れており、スティーヴ・ヴァイが効かせるワウの揺れまでしっかりと分かる。そのサウンドには一片のビビリやノイズもなく、キラキラと眩かったWHITESNAKEの輝きが遺憾なく収められ、こと“クリアさ”に限れば「SLIP OF THE GLOBE」さえも凌駕しているのです! まったく、魔術師は一体、どれくらいの名作を録音したというのか……。その強力サウンドで聴けるライヴは、“さすが本場”と唸らざるを得ない熱狂。「SLIP OF THE GLOBE」は、オフィシャル化もされたドニントン公演の“次のライヴ”であり、ツアー末期の8月録音(9月には白蛇解散)でした。それに対し、本作はツアー中期となる5月のカリフォルニア録音。(あまり好きな言葉ではありませんが)ヘアメタルの中心地で、その象徴だった絶頂WHITESNAKEが繰り広げるライヴなのですから、その盛り上がりたるや半端ではありません。そんなライヴを普通に録ったら観客の大騒ぎで埋め尽くされるところですが、世界屈指の熱狂がしっかりと伝わりながらも、演出の域を超えず、楽音の邪魔をしていない。Per Erik本人がどこまで意図的だったかは分かりませんが、会場ごとの旨味を捉え、録音自体が雄弁に物語るからこそ、彼は“魔術師”なのです。しかも、その楽音が素晴らしい。特にハイパーに叫ぶカヴァデールのパワーは空前絶後。同時リリースの「LA CROSSE 1987」はヴォーカリスト人生の頂点を記録した凄味に溢れていましたが、ことパワフルな勢いでは、自信に充ち満ちた本作に軍配が上がります。カヴァデールだけではありません。ヴァイの妙技は当然として、カヴァデールの上品とは言い難いMCに、トーキング・ギターで絡む様子も実にヴァイらしい。そして、そのヴァイにライバル意識を燃やすエイドリアン・ヴァンデンバーグも凄まじく、対等だったヴィヴィアン・キャンベルが相棒だった時期とは明らかに気迫が違う。恐らく、エイドリアンが生涯でもっとも熱く弾き倒したのは、この時期だったのではないでしょうか。キャリアを通して、もっとも力づくで弾いていた2人が、渾身を込めた「Crying In The Rain」の凄まじいこと! 歴史に名高いジョン・サイクスの名演もかくや、というド迫力。思えば、ヴァイを迎えた新ラインナップも場数を踏んでアンサンブルがこなれつつ、長い日程の疲れもないベストな時期。この充実感も当たり前なのかもしれません。 こうして聴いていると、やはり「SLIP OF THE TONGUEツアー」は“やりすぎ”だったのだろうと思います。なにせ聞こえてくる総ての音が過剰スレスレなのですから。しかし、“抑え込んだロック”になんの意味があるのでしょう。思えば、旧来のクラシック・スネイクも(聞こえてくる音は渋かろうが)“思いっきりロックする”という情熱に溢れていました。男性ソロよりもロックバンドのシンガーを選んで白蛇を結成した時点で、カヴァデールは“もっとロックしてやる!”という道を歩み始めていたのです。ヴァイを迎えて生まれ変わったメタル・スネイクも、その美学だけは貫き通している。その意味ではWHITESNAKEは、何も変わっていなかったのです。日本でこそ“深い味わい”や“渋みのあるヴォーカル”のイメージが先行していますが、英語圏では堂々と“白人男性のシンボル”をバンド名に掲げるバンド。ブルースロック時代から軍事作戦をテーマに据えるほど“タフな男らしさ”は些かも変わっていません(余談ですが、シカゴブルースの象徴マディ・ウォーターズは、晩年になってもポケットにビンを突っ込んで“マッチョ”を誇示しました。それほど、ブルースと男らしさは不可分なのです)。この後、WHITESNAKEは“もっとパワフル”に疲れ、“もっと渋く”に方向を変えました。その直前、結成当時からの“白蛇の魂”が燃え尽きる寸前の輝きを収めた名録音。 Live at Irvine Meadows Amphitheatre, Laguna Hills, CA. USA 11th May 1990 TRULY PERFECT SOUND Disc 1 (54:31) 1. Introduction 2. Slip Of The Tongue 3. Slide It In 4. Judgment Day 5. Slow An' Easy 6. Is This Love 7. Kitten's Got Claws 8. Adrian Vandenberg Solo 9. The Deeper The Love 10. Cheap An' Nasty Disc 2 (55:41) 1. Crying In The Rain 2. Tommy Aldridge Solo 3. Crying In The Rain(reprise) 4. Fool For Your Loving 5. Steve Vai Solo 6. Here I Go Again 7. Bad Boys 8. Give Me All Your Love 9. Still Of The Night David Coverdale - Vocals Steve Vai - Guitar Adrian Vandenberg - Guitar Rudy Sarzo - Bass Tommy Aldridge - Drums