ザ・フー1970年タングルウッドと言えば、彼らの映像ヒストリー・ドキュメント「MAXIMUM R&B」の中で登場してマニアを狂喜させたカラービデオのライブ映像として有名でしょう。前年の髪が長めなピートとも、あるいはワイト島で無精ひげを生やし始めた彼とも違う、非常にこざっぱりとしたルックスながら、未だに白のつなぎでステージを飛び跳ねていた時期の記録としても貴重でした。この映像は冒頭でビル・グレアムによるメンバー紹介が行われていることからも解るように、彼の指示によって撮影され、その権利も彼が持っているのだと思われます。「MAXIMUM R&B」がDVD化された際には本映像が未収録だったことがマニアの間で物議を醸しましたが、やはりグレアム絡みの権利がクリアーにならなかったのでは。ついでに言うと、同ドキュメンタリー以前にもこの映像は傑作映画「THE KIDS ARE ALRIGHT」のエンドロールで少しだけ登場しました。このように映像の印象が極めて強いステージですので、これまでにリリースされてきたアイテムも圧倒的に映像を収めたものばかりでした。かろうじて「TANGLED UP IN WHO」というスコルピオ系の紙ジャケCDが二十年前にリリースされていたものの、そこでは音声が基本モノラルだった上、欠損部をジェネ落ちビデオ(ブートビデオの時代でした)の音声で雑に補うという詰めの甘さから名盤になれなかったことが思い出されます。ところが70年タングルウッドに関しては、映像とは別にラジオ放送用の素晴らしいステレオ・サウンドボード録音も存在します。同日の映像版と違ってここ10年の間に広まった、これまたビル・グレアム絡みの音源。こちらの音源に関しては、現在「OLD ENGLAND, NEW ENGLAND」というグレーゾーンCDがリリースされており、一枚のディスクで何と80分超えというものでした。とはいっても1枚のディスクにこの日のすべてが収まるはずもなく、何とこの日の聞きどころの一つでもあった「Water」をカットするという暴挙。せっかくクリアーさ誇る音源を台無しにしてしまう編集でリリースされていたのです。それと同時に映像の方も現在は同じステレオ音声がアフレコされたバージョンが広まっており、こちらは当然「Water」もカットされずに入っている。そこで今回は先のラジオ用リリースに映像の音声から「Water」を補填、さらにいくつかのカットにおいても映像からのそれを緻密に補填したタングルウッドの最高音質かつ最長バージョンのリリースを実現させました。おまけに二枚のディスクという収録時間に余裕が生まれた恩恵を受け、トータルタイムは94分にまで拡大。 ラジオ放送用である以前に、このステレオ・サウンドボード録音は録音状態が実に素晴らしい。近年ザ・フー絶頂期のライブ音源が次々とオフィシャル・リリースされてきました。例えば1868年のフィルモアがその最新作でしたが、どうしても近年のテクノロジーによるトリートメントが施されてしまう。もちろんオフィシャルですので嫌味のある仕上がりではなく、確かに完成度も高いのですが、それが2010年代の仕上がりであるのは事実でしょう。ところがタングルウッドのラジオ音源は何ともナチュラルでウォーミーなアナログ感たっぷりの音質が秀逸。1970年のザ・フーのライブにはこの質感がしっくりくる。このアナログ感に関しては、是非ヘッドフォンで聞いてじっくりと味わっていただきたく。先のフィルモアと同様、近年の発掘ライブであるハル大学はもちろん、当日の演奏順に収録されたことがマニアの間では話題となった「LIVE AT LEEDS」の配信版などのモダンな仕上がりと比べてみても、このウォーミーな仕上がりは俄然魅力的。ミキシング・バランスはそれらほどのアルバムほどジョンのベースが目立つ仕上がりではないものの、何より丸みを帯びた音質と相まって実に聞きやすい。そして1970年の6月から7月にかけて行われたアメリカ・ツアーがこれほどまでのオフィシャル・クラスなステレオ・サウンドボード録音で残されているというのがまた魅力的。このツアーは二日連続で行われたニューヨークはメトロポリタン・オペラ・ハウスでのショーから幕を開けたのですが、ここでロックオペラ「TOMMY」を披露できたことによって、前年のウッドストックなどで既に人気の爆発していたザ・フーがさらにアメリカでの人気を確固たるものにできた重要な時期だったのです。そのツアーの最終日が今回のタングルウッドだった。さらにはリーズとワイト島の合間という時期に属するライブ・ステージを完璧なステレオ・サウンドボード録音で捉えているという点も価値が高い。ここでも「TOMMY」パートをメインとしたステージ構成なのですが、演奏の雰囲気はそれらとまったく違う。ましてや遂にオフィシャル・リリースが実現した前年のウッドストックとも違う。それでいて例の「Water」のような当時の新曲も投入されている。そうした構成の中、何と言ってもそこやリーズで磨きられてきたフーの演奏の完成度の高さたるや。「Young Man Blues」一つをとっても他の公演と違ったスピード感に驚かされるでしょう。何と言っても極めつけはフィナーレの「My Generation」。途中からピートを中心として非常にハードな展開へと向かう点からして独特なのですが、そこから彼が弾き出したのが何とニール・ヤングの「Cinnamon Girl」のリフ。この頃は彼やCSN&Yがアメリカのロック界を席巻していた時期ですので、なるほどピートとしても弾いてみたくなった気持ちもわかります。このあまりにも意外な展開、そして全体を通してこれぞ絶頂期と呼ばずにはいられない鉄壁の演奏。最初に触れたように映像でおなじみなステージではありますが、これはリーズとワイト島の間に割り込んできた立派なオフィシャル級サウンドボード・アルバムです! Live at Music Shed, Tanglewood, Lenox, MA, USA 7th July 1970 STEREO SBD(UPGRADE)* from RADIO BROADCAST MASTER Disc 1 (30:46) 1. Intro 。2. Heaven And Hell 3. I Can't Explain 4. Water 5. I Don't Even Know Myself 6. Young Man Blues Disc 2 (63:06) 1. MC 2. Overture 3. It's A Boy 4. 1921 5. Amazing Journey 6. Sparks 7. Eyesight To The Blind 8. Christmas 9. The Acid Queen 10. Pinball Wizard 11. Do You Think It's Alright ? 12. Fiddle About 13. Tommy Can You Hear Me ? 14. There's A Doctor 15. Go To The Mirror! 16. Smash The Mirror 17. Miracle Cure 18. I'm Free 19. Tommy's Holiday Camp 20. We're Not Gonna Take It 21. See Me, Feel Me 22. My Generation STEREO SOUNDBOARD RECORDING