大手ワーナーからの再デビュー作『SWEET BABY JAMES』を全米3位に送り込み、一気にブレイクスルーを果たした1970年のジェームス・テイラー。その現場を伝える大傑作ライヴアルバムが登場です。そんな本作に収められているのは「1970年5月16日ポートチェスター公演」。その超極上オーディエンス録音です。当時のジェームスは、一気に運命が変わった大成功の真っ直中。まずは、そのスケジュールを振り返り、ショウのポジションを確かめておきましょう。《2月『SWEET BABY JAMES』発売》・2月5日-3月29日:北米#1(15公演)・4月25日-6月12日:北米#2(9公演) ←★ココ★ ・7月25日-8月15日:北米#3(5公演)・10月16日-12月19日:北米#4(9公演) これが1970年のジェームス・テイラー。本作は、『SWEET BABY JAMES』発売から約3ヶ月後となる「北米#2」の6公演目。ポートチェスターでは2日連続公演で、しかも16日は2公演。本作は、その「2日目の2公演目」にあたるコンサートでした。ちなみに、1970年と言えばジョニ・ミッチェルとの共演盤『AMCHITKA』もありますが、それは「北米#4」。本作は、ゲストもバックもないジェームス1人の弾き語り公演です。そんなショウを記録した本作は、まさに超極上のオーディエンス録音……です、たぶん。いきなり頼りなくて申し訳ないのですが、正直断言したくない。以前から客録として知られているだけに間違いはないものの、流れ出すのは「オーディエンス」の言葉からイメージされるものとはかけ離れている。芯は極太で距離感など微塵もなく、歌声もギターもすぐ目の前。ヘッドフォンで耳を澄ませれば極々ほんのりとしたホール鳴りも気づきはするものの、それも歌とギターを芳醇にしこそすれ、曇りや濁りが一切ない。例えば、サウンドボードでもリッチにするためにエコーをホンの少しかけたりしますが、本作もそのレベル。「オーディエンスと言われているから」という理由だけであり、聞こえてくるサウンドからはラインか空間録音かの違いがまったく分からない。それほどの超極上サウンドなのです。そんなサウンドで描かれるのは、伝説のキャリアが始まったばかりのショウ。もちろん、大ヒット中の『SWEET BABY JAMES』ナンバーも演奏しますが、全体的にはもっと幅広くちょっと意外でもある。ここで、そのセットを整理してみましょう。 オリジナル(12曲)・心の旅路:Brighten Your Night With My Day/Rainy Day Man/Something In The Way She Moves/Carolina In My Mind・スウィート・ベイビー・ジェームス:Anywhere Like Heaven/Blossom/Sunny Skies/Country Road ・マッド・スライド・スリム:Riding On A Railroad/Machine Gun Kelly/Isn't It Nice To Be Home Again・ワン・マン・ドッグ:Mescalito カバー他(5曲+α)・カバー:With A Little Help From My Friends(THE BEATLES)/Greensleeves(トラッド)/Okie From Muskogee(マール・ハガード)/ Up On The Roof(THE DRIFTERS)/Hallelujah, I Love Her So(レイ・チャールズ)・その他:Tube Rose Snuff Commercial ……と、このようになっています。「Carolina In My Mind」「Country Road」も演奏され、初期のベスト選曲……かと思いきや、そうでもない。ブレイクスルーとなったシングルヒットの「Fire and Rain」やタイトルトラックの「Sweet Baby James」がなく、よく考えてみると「Country Road」もシングルカットされるのは翌1971年になってからのこと。その一方で、まだ正式に録音されていない『MUD SLIDE SLIM AND THE BLUE HORIZON』ナンバーや「Mescalito」を大盤振る舞い。もしかしたら、このセットは「同会場2日目の2公演目」というシチュエーションと関係あるのかも知れません。本作とは直接関係ありませんが、前日(15日)録音では反対に『MUD SLIDE SLIM……』のレパートリーがなく、「Fire And Rain」を演奏している。完全に推測ですので間違っていたら申し訳ないのですが、セットを入れ替えていくうちに大ヒット曲が抜け落ちてしまったのかも知れません。そして、そんなセットが綴られるショウは、ジェームスの美声とアットホームなムードがとことん心地良い。当時22歳の歌声はディープな響きのなかにも若々しさが宿り、ユーモラスであると同時に真摯。じっくり静かに聴き入る客席に優しく語りかけ、観客もそれを暖かく迎え入れる。先ほど必殺ヒット曲が欠けているとも書きましたが、それでも会場は1曲1曲じわじわと熱くなっていき、「Carolina In My Mind」で一気に大爆発! ラストの「Mescalito」も『ONE MAN DOG』ナンバーだけに観客は知らないはずですが、ジェームスのリードでビシッと揃った手拍子で盛大に盛り上がるのです。とにかく、超極上のクオリティで大ブレイク中の現場に立てる。これに尽きます。サウンドボードか/オーディエンスかの区別も意味をなくすサウンドで名曲群を綴る弾き語りライヴアルバムの大傑作。 Capital Theater, Port Chester, NY, USA 16th May 1970 (Late Show) ULTIMATE SOUND (61:16) 1. Intro 2. With A Little Help From My Friends 3. Anywhere Like Heaven 4. Greensleeves 5. Okie From Muskogee 6. Blossom 7. Sunny Skies 8. Up On The Roof 9. Brighten Your Night With My Day 10. Tube Rose Snuff Commercial 11. Hallelujah, I Love Her So 12. Rainy Day Man 13. Something In The Way She Moves 14. Riding On A Railroad 15. Country Road 16. Carolina In My Mind 17. Machine Gun Kelly 18. Isn't It Nice To Be Home Again? 19. Mescalito