奇跡の名盤が連発され、数十年の録音史をひっくり返し続けている伝説名手“マイク・ミラード”の大元マスター発掘。表の世界史において2020年は「コロナ禍の年」として記録されるでしょうが、裏の音楽史では「ミラードの年」と記されることでしょう。そんな象徴事業の最新弾であり、ミラード晩年の傑作となるU2録音が登場です。そんな本作に収録されているのは「1992年4月12日ロサンゼルス公演」。衝撃作『ACHTUNG BABY』に伴う“ZOO TV TOUR”の一幕を真空パックした極上オーディエンス録音です。「ミラードによるU2」というだけで心トキめいてしまいますが、まずはショウのポジション。“ZOO TV TOUR”の全体像から振り返ってみましょう。1992年・2月29日-4月23日:北米#1(32公演)←★ココ★・5月7日-6月19日:欧州#1(25公演)・8月7日-11月25日:北米#2(47公演)1993年・5月9日-7月3日:欧州#2a(20公演)《7月5日『ZOOROPA』発売》・7月6日-8月28日:欧州#2b(23公演) ・11月12日-12月10日:オセアニア/日本(10公演)←※公式映像 これが1992年/1993年のU2。『ACHTUNG BABY』は1991年11月にリリースされましたが、ツアーは翌1992年2月末に開始されました。このツアーの模様は公式作品『ZOO TV: LIVE FROM SYDNEY』にも残されていますが、それは最終盤の「オセアニア」。それに対し、本作のロサンゼルス公演は序盤となる「北米#1」の25公演目にあたるコンサートでした。そんなショウで記録された本作は、まさに極上のオーディエンス録音。このショウの録音は本作で6本目になるのですが、ミラード録音は今回が初公開。もちろん、過去のどの録音も大きく凌駕する最高峰です。ただし、超絶で当たり前なミラード・コレクションにしてはわずかに距離も感じられ(もちろん普通基準で言ったらド密着レベルです)、周囲の喧騒も吸い込んでいるのも否めない。そのため「ミラード録音の代表作」とは言えないわけですが、「ZOO TV TOURの代表作」とは十分に言える。これまで1992年の頂点オーディエンスと言えばマディソン公演やヒューストン公演が知られてきたわけですが、ミラード・マスターは登場と同時に歴代の大定番と並んでしまい、世界のマニアから「真の頂点はどれだ!?」と話題になっているほどです。そんなサウンドで描かれるのは、新世界を拓いたU2のフルショウ。前述のように、このツアーは公式作『LIVE FROM SYDNEY』ともなっていますが、本作は1年半以上前で『ZOOROPA』も出ていない頃。セットも異なりますので、比較しながら整理してみましょう。80年代ナンバー(9曲)・焔:Bad(★)/Pride (In The Name Of Love)・ヨシュア・トゥリー:Bullet The Blue Sky/ Running To Stand Still/Where The Streets Have No Name/I Still Haven't Found What I'm Looking For(★)/With Or Without You・魂の叫び:Angel Of Harlem/Desire アクトン・ベイビー他(11曲)・Zoo Station/The Fly/Even Better Than The Real Thing/Mysterious Ways/One/ Until The End Of The World/Who's Gonna Ride Your Wild Horses(★)/Tryin' To Throw Your Arms Around The World/Ultraviolet (Light My Way)(★)/Love Is Blindness・カバー:Satellite Of Love(ル・リード)※注:「★」印は『ZOO TV: LIVE FROM SYDNEY』では聴けない曲。 ……と、このようになっています。当然の事ながら『ZOOROPA』ナンバーはまだないものの、その代わり『ACHTUNG BABY』からの大盤振る舞い。公式作では聴けない「Who's Gonna Ride Your Wild Horses」「Ultraviolet (Light My Way)」はもちろんのこと、「Tryin' To Throw Your Arms Around The World」「Love Is Blindness」やシングルB面収録の「Satellite Of Love」など、このツアーだけの美味しい曲が盛りだくさん。「So Cruel」「Acrobat」以外の全曲というボリューム自体が「生演奏版ACHTUNG BABY」なムードを濃厚に発散しているのです。そして、もう1つ感動的なのが臨場感。先ほど「ミラードにしては周囲の喧騒も吸い込んでいる」と書きましたが、実は欠点ではなく、むしろ美点。よく「会場を揺るがす」「天井が吹き飛ぶ」といった表現がありますが、本作はその言葉をリアルに感じられる。もちろん、絶叫まみれでは元も子もありませんが、ミラード録音ですからその心配は無用。むしろ、遠く遠くの拍手の一粒まで鮮明だからこそ遠近感が鮮やかに描かれ、それが比較的近い熱狂との対比でスケール感にもなる。その立体空間を制圧しきるほどU2の演奏音が逞しく、スタジアム中が沸き上がっても主役の座は微動だにしない。音楽が熱狂をコントロールし、その熱狂が演奏の熱気を引き出す……そんな理想的な現場の呼吸感まで克明に味わえる。これもまた、サウンドボードやオフィシャル作では味わえない醍醐味。それを最高級クオリティで味わえる”体感アルバム”なのです。偉人ミラードが録音活動していたのは1992年11月まで。本作は、伝説名手の晩年に残された傑作ライヴアルバムです。巨大スタジアムの鳴りを活かした音づくりのU2は、オーディエンス録音に不向きなバンドとも言われています。しかし、そんな中にあっても力強い芯とくっきりとした輪郭を実現させたミラード・マジック。彼の代表作ではないとしても、伝説名手でしか成し遂げられなかった美音なのは間違いありません。公式作とは異なる表情の“ZOO TV TOUR”を極上体験できるのはもちろん、録音の魔術師の足跡を辿る意味でも欠かせない1本。 Live at Sports Arena, Los Angeles, CA, USA 12th April 1992 PERFECT SOUND Disc 1 (43:18) 1. Zoo Station 2. The Fly 3. Even Better Than The Real Thing 4. Mysterious Ways 5. One 6. Until The End Of The World 7. Who's Gonna Ride Your Wild Horses 8. Tryin' To Throw Your Arms Around The World Disc 2 (61:49) 1. Angel Of Harlem 2. Satellite Of Love 3. Bad 4. Bullet The Blue Sky 5. Running To Stand Still 6. Where The Streets Have No Name 7. Pride (In The Name Of Love) 8. I Still Haven't Found What I'm Looking For 9. Desire 10. Ultraviolet (Light My Way) 11. With Or Without You 12. Love Is Blindness