JEMSによるマイク・ミラードのオーディエンス録音テープ発掘には毎週わくわくさせられてばかりですが、今回リリースされる音源も世界中のマニアを大いに驚かせています。それが1989年8月18日コスタ・メサでのニール・ヤングのショーを捉えた音源。彼はミラードのオーディエンス録音から縁遠いアーティストのように思われていただけに、こんな音源が存在していて、なおかつひょっこり現れてくるとは本当に驚きです。しかも1970年代ではなく、89年のステージを録音していたという事実にも驚きを禁じえません。こうして音源の登場だけでも世界中のマニアをあっと言わせた訳ですが、その録音は89年のソロ・ツアー(来日公演の後です)とミラードの仕事ぶりの相性が抜群であったことも証明される形となっています。というのも89年ソロ・ツアーはそれまでのように椅子に腰を掛けてアコースティックな演奏をじっくり披露するのではなく、ニールが以前から使っていたワイヤレス・システムを使い、ステージを練る歩きながら弾き語るというアグレッシブなもの。それに加えて会場に発せられる音量が大きく、まるでアコースティック・ロックとでも呼びたくなるようなサウンドだったという。この大音量アコースティック・サウンドを捉えたミラードの仕事ぶりがまた凄い。オーディエンス録音としては別格な「奇跡がデフォ」レベルのクオリティは今回も健在な上、先の理由によって会場から発せられる音量の大きさと相まって、ド迫力の音像は正に「まるでサウンドボード」。ニールの歌声もアコギの音量も肉厚感が凄まじいほど。おまけに大音量アコースティックと舞台を練り歩きながら歌うスタイルのおかげで観客が黙って聞かなくてもオッケーという状況でもあり、実にオンなバランスで捉えられた演奏の左右から聞こえる盛り上がりのきめ細やかな臨場感も秀逸。ただし、ニールが「リクエストは?」と語りかけたのをきっかけとして、しつこく「T-Bone」と叫ぶ観客がいるのには笑ってしまいますが…この時点まで一度も演奏されたことのない曲というだけでなく、ましてやアコースティック・バージョンでやるわけないだろっ!(笑)それは冗談ですが、89年ソロ・ツアー独特なアコースティック・ショーなのに熱狂的な雰囲気という独特の臨場感もしっかり伝わってくるのです。このツアーに関してはオフィシャルでもビデオ版「FREEDOM」、あるいは各地での演奏をまとめたラジオ放送など、音源には恵まれているのですが、あの熱狂的なアコースティック・ショーならではの盛り上がりというのが思いのほか伝わらない。特にビデオ版「FREEDOM」ではそうした雰囲気が希薄だったのです。この点に関しても、ミラードによるオーディエンス録音が本領発揮したと言えるでしょう。またこのツアーからは約二週間後のサラトガ・スプリングスでのショーをこれまた極上音質で捉えた名盤「BARSTOOL BLUES ‘89」がリリースされていますが、それと比べるとライブの雰囲気がまったく違うところがニールらしい。サラトガの方では「Winterlong」にタイトルにもなった「Barstool Blues」といったアコースティック・バージョンでの演奏が極めて貴重な二曲が含まれていたのに対し、今回のコスタ・メサは89年ソロ・ツアーにおける、いわば定型セットリスト。それでいてこの年は強力な新曲「Rockin’In The Free World」をショーの始めと終わりで二回演奏するというニールの攻めの姿勢を全面的に押し出したツアーでもあり、オーディエンスにとってはコスタ・メサのセットリストの方がメジャーソング揃いとなって分かりやすく、しかも楽しめたのではないでしょうか。それだけに熱狂ぶりも際立っていたという訳です。そうした反応を前に、ニールが弾き語りとは思えないほどアグレッシブな演奏を聞かせてくれる様子を生々しく捉えてくれているのも「奇跡がデフォ」クオリティのミラード録音。まず何といっても、先の「Rockin’In~」を含む冒頭二曲の力強さにあふれた弾きっぷりといったら。まるでエレキを弾いているかのようなストロークで観客を圧倒します。また「Crime In The City」でニールがハーモニカを吹く際にアコギのボディを叩いてリズムを取るのは89年名物な光景ですが、それを叩く音が実に生々しい。もしヘッドフォンで聞いたら鳥肌が立つレベルかと。そして「Ohio」はまだ記憶に生々しかった天安門事件の学生に捧げる形で演奏され、本編の締めくくりとして歌われた二回目の「Rockin’In~」を観客に合唱させるというパターンも健在。これがまたミラード・クオリティのおかげで実にリアルであり、当時まだリリースされていなかった新曲に盛り上がり、観客がそれを合唱する様は本当に感動的。後にアルバム「FREEDOM」の冒頭では、映像が有名な6月のジョーンズ・ビーチでのテイクが収録されましたが、それと違ってここでは演奏や合唱が編集されることなく、実際の演奏そのものとして楽しめる。これほどまでのクオリティであればあまりの高音質ぶり故イコライズを加える必要はまったくありませんでした。唯一ライブ序盤におけるピッチの不安定さだけはアジャストしましたが、これによって別格クオリティが最強の状態へと進化。それでいて攻めまくりなアグレッシブ・アコースティック・ライブ&充実選曲というこのツアーの素晴らしさが存分に味わえる。これはもう掛け値なしに1989年ソロ・ツアーの決定版と呼べるアイテムがリリースされます。今回もミラードは凄かった!(リマスター・メモ)冒頭4曲のみ半音の15%前後スロープ状に低いので調整。 Live at Pacific Amphitheatre, Costa Mesa, CA, USA 18th August 1989 TRULY PERFECT SOUND Disc 1 (50:41) 1. My My, Hey Hey (Out Of The Blue) 2. Rockin' In The Free World 3. Sugar Mountain 4. Helpless 5. Pocahontas 6. Crime In The City 7. This Old House 8. Too Far Gone 9. Roll Another Number For The Road Disc 2 (36:55) 1. This Note's For You 2. The Needle And The Damage Done 3. No More 4. After The Gold Rush 5. Heart Of Gold 6. Ohio 7. Rockin' In The Free World 8. Powderfinger Neil Young - Vocals, Acoustic Guitar, Piano, Harmonica Frank Sampedro - Guitar, Mandolin, Vocals Ben Keith - Dobro, Keyboards, Vocals