黄金の70年代シェンカー時代でもひと際異彩を放っているダニー・ペイロネル在籍時。その極上サウンドボード・アルバムがブラッシュアップ。そんな本作に刻まれているのは「1976年5月3日:ウェストハリウッド公演」。そのステレオ・サウンドボード録音です。70年代のシェンカー時代は正規キーボード奏者によって大きく3つ「4人編成/ダニー時代/ポール・レイモンド時代」に分けられる。この中でスタジオ作1枚だけで終わり、かつ他の時代とは違う個性的なピアノ・サウンドを聴かせてくれるのが「ダニー時代」でした。本作は、そんな貴重ラインナップを楽しめるサウンドボード・アルバムです。また、ダニー時代のライヴアルバムと言えば、公式ボックス『OFFICIAL BOOTLEG BOX』に2公演分収録されていますが、もちろん本作は別公演。まずは当時のスケジュールを振り返り、それぞれのポジションを確かめてみましょう。1975年《8月:ダニー・ペイロネル加入》・8月22日-9月14日:欧州(9公演) ・9月23日-11月19日:北米#1(31公演)←※公式レコードプラント公演(?)・12月6日-28日:英国#1(7公演)1976年・3月5日+10日:スウェーデン(2公演)・4月6日-25日:英国#2(13公演) ←※公式ロンドン公演・5月1日-6月7日:北米#2(22公演)←★本作★ 《7月:ペイロネル離脱》 これがダニー・ペイロネル時代のUFO。この前後にもツアーしていましたが、あくまでダニー参加に絞って整理しました。その中で本作のウェストハリウッド公演は、最終盤「北米#2」の3公演目。公式ボックスに収録されたラウンドハウス公演の約1週間後のコンサートでもありました(ここで日付に関して余談を2つ。まず、本作と同じショウが“3月3日”としても流通していますが、上記の通りその時期にライヴはありませんでした。もう1つは公式ボックスのレコードプラント公演。こちらは公式では“9月1日ニューヨーク”とされていますが、その時期は欧州ツアー中。本当は“9月23日”か“10月6日”で場所もカリフォルニアと言われています)。そんなショウを記録した本作は、脳みそド直結のリアル・サウンドボード。いかにもミックス卓ダイレクトなラフ感覚ながら混じりっ気なしの無加工な生演奏が止めどもなく流れ出る。直近の公式ラウンドハウス公演サウンドボードも生々しかったですが、本作はさらにパワフル。成功の階段を駆け上がっていた「1976年」の勢いがスピーカーから吹き出すのです。しかも、本作はそんなサウンドボード録音を細心マスタリングで磨き込んだ最高峰更新盤。2012年に発掘された原音は2ndジェネ・マスターだったせいか所々に不安定な箇所があり、鳴りも(わずかに)丸みがあった。通常であれば十二分なレベルではあるものの、その点で公式サウンドボード群に及ばなかった事も否めませんでした。そこで、本作ではそうしたウィーク・ポイントを徹底補修。部分的に狂っていた(テープチェンジの影響?)ピッチをビシッと整え、音抜けを大幅に改善。公式ラウンドハウスSBDに匹敵する抜けの良さながら、さらにド迫力で突進感のある極上サウンドに生まれ変わっているのです。そんな鮮烈サウンドで描かれるのは、シェンカーの泣きとダニーのグルーヴィなピアノが大活躍するショウ。直近なだけにセットはラウンドハウス公演に酷似しているわけですが、良い機会でもありますので整理しておきましょう。 ミック・ボルトン時代(2曲)・UFO登場:C'mon Everybody/Boogie For George マイケル・シェンカー時代(10曲)・現象:Doctor Doctor/Oh My/Rock Bottom・フォース・イット:Out In The Street/Let It Roll/This Kids/Shoot Shoot・ノー・ヘヴィ・ペッティング:Can You Roll Her/ Highway Lady/I'm A Loser ……と、このようになっています。アルバムを重ねるほど消えていったミック・ボルトン時代のレパートリーもまだ2曲が残っており、シェンカー初期の「Oh My」も美味しい。そして極めつけなのが当時の新曲「Can You Roll Her」と「Highway Lady」でしょう。どちらもこのツアーの限定曲で、それも指折り数えるほどしか演奏記録がない。まさにダニー時代ならではのレア曲なのです。そして、そんなセットを紡ぐアンサンブルこそが必聴。やはり、ポイントなのはダニーのキーボード。UFOにおけるキーボードの在り方はポール・レイモンドが生み出したサポートの美学が基準になると思いますが、ダニーはその枠を軽々と乗り越え、ギターと対等のツイン・リード。しかも、その音色はエレピにこだわり、ホンキートンク調を多用しながらコロコロと心地よく転がり、ソロもたっぷりと聴かせてくれるのです。しかも、普段と違うアンサンブルなのに違和感がまったくないから素晴らしい。シェンカー加入以前からバンドが持っていたロックンロールな本質にピタッとフィット。ピート・ウェイと醸し出すグルーヴはえらく気持ち良く、その上で泣きに泣き倒すフライングVとのコントラストも鮮やか。特にハイライトの「Rock Bottom」「C'mon Everybody」「Boogie For George」では8分-10分の大熱演が連発。この相性の良さはポール・チャップマンにも通じる。もしチャップマン/ペイロネル体制のUFOが誕生していたら、史上最強の英国ロックンロールが紡がれていたかも知れません。「MSGより断然UFO」という方なら、UFO独自のグルーヴ感と泣きのギターの絡みを愛しておられると思います。その旨みがピークに達していたシェンカー/ペイロネル時代。本作は、セットもアンサンブルも特別なショウを極上ステレオ・サウンドボード味わい尽くせるライヴアルバムの大傑作です。公式サウンドボードにも肉薄しつつ、さらに生々しくこの時期ならではのグルーヴィな突進力まで味わえる極めつけの1枚。(リマスターメモ)テープのB面にあたる後半のピッチが速いので補正しました。音質も向上しています。 Live at Starwood Club, West Hollywood, CA, USA 3rd May 1976 STEREO SBD (UPGRADE) (74:47) 1. Intro. 2. Can You Roll Her 3. Doctor Doctor 4. Oh My 5. Out In The Street 6. Highway Lady 7. I'm A Loser 8. Let It Roll 9. This Kids 10. Shoot Shoot 11. Rock Bottom 12. C'mon Everybody 13. Boogie For George Phil Mogg - Vocals Michael Schenker - Guitar Pete Way - Bass Andy Parker - Drums Danny Peyronel - Keyboards STEREO SOUNDBOARD RECORDING