1997年9月に欧州ツアーを終えたオアシスは10月初頭に渡米する。目的はツアーではなく、リリースされたばかりのアルバム『BE HERE NOW』のプロモーションであった。この渡米では、わずか2度のテレビ出演と、ニューヨークのハマーステイン・ボールルームでの2公演のみというスケジュールであった。本作はそれら全てを収録したものである。プロモーションという事もあり「Don't Go Away」はこの時がライブ初演。10月7日は非常に優れた高音質オーディエンス音源であり、10月8日は完璧なサウンドボード音源である。初日10月7日については、出ていなかったものの、高音質のDAT録音としてマニアの間では知られており、ここに初収録となる。なるほど周囲の環境にも恵まれ、音も近くバランスにも優れ、確かにオーディエンス録音ではあるものの、サウンドボード音源と比較しても遜色なく、実際にディスク3&4に収録のサンドボード音源とはまた異なる、臨場感と空間の広がりが付随した魅力あるものとなっている。二日目10月8日は放送されたこともあり、これまでもいくつか既発盤が存在してきた。今回リリースに当たってそれらに耳を通してきたが、いずれも内容的あるいは音質的に不備のあるものばかりで、ここに初めてパーフェクトともいえる収録となっていると自負している。この10月8日の音源は放送されたものと放送原盤の二つに大別される。前者は途中で番組ジングルが挿入されるが後者にはそれがない。では放送原盤が完璧かというと、不思議なことに放送音源には原盤音源に含まれていないMCが存在するなど、これら音源の収録から流通した経緯については不明な点が多々ある。そしておそらく既発でベストとされていたのは、プリンスのタイトルで有名なNYC』ではないかと思う。このタイトルもまた数多くの欠点を有していながら、その後は同公演を収録したタイトルに恵まれず、依然としてベストとされているのが現状であった。この『NYC』を聴いて、まず最初に気付かされるのは耳をつんざくような極端な高音、ノイズのような中音域の強調、そしてレンジいっぱいに全体を「海苔状態」に圧拡した音圧である。このタイトルがリリースされた20年以上前はこのような派手な音が流行していたかもしれないが、ナチュラル志向でヘッドフォンで聴くことが主流の令和時代にあっては、このような疲れる音は到底受け入れられないだろう。元音源の特性上ある程度は仕方ないのかもしれない部分はあるが、明らかに『NYC』はやり過ぎである。本作は『NYC』と比べ高音部分は緩和され、中音域のガーッゴーッというノイズもない。そして音の波形で見るときちんとオウトツのあるレンジに余裕を持った音作りとなっている。そして『NYC』のもうひとつの欠点とされていた極端に遅いピッチの狂い(MCのリアムの声が太く低く間延びしているのがわかる)も、本作ではきちんと正確なものとなっている。欠点を挙げる人は前述のように音質とピッチを挙げる人が多い。しかし内容的にもけしてベストとはいえない問題を抱えている。放送音源を収録したタイトル、放送原盤から収録した『NYC』、いずれの既発盤も全て「Don't Look Back In Anger」の途中で、ほんのわずか短いながら、ソ〜サリキャンウェ〜の直前のギター・ソロが欠落しているのである。『NYC』ではその部分をつまんで収録しているが、瞬間的なものではあるものの確実に欠落しているため、聴いているとつんのめりになってしまう内容的な最大の欠点である。本作ではその欠落がないのが特徴である。また「D'You Know What I Mean」の前のMC部分でリアムが放送するに相応しくない言葉を発するため、その部分が意図的に消去されている。本作の元音源でもそれは同じ状態であったので、ここでは同日のオーディエンス音源で補完することでリアムの不適切なMCを完全再現している。「私はこの街の一部になりたい。眠らない街で新しい人生の出発だ。私はここでナンバーワンになる。この街で成功できたなら、どの街でもやっていける。自分次第さ。ニューヨーク、ニューヨーク」9月に欧州ツアー、そして11月からも新たに欧州ツアーが組まれており、本格的な全米ツアーが始まるのは翌1998年1月まで待たねばならない。本作に収録の1997年10月の2公演+テレビ出演2番組というのは、世界最大マーケットであるアメリカのファンへの、せめてものプレゼントではないだろうか。 HAMMERSTEIN BALLROOM, NEW YORK U.S.A. October 7, 1997 DISC ONE 01. Be Here Now 02. Stay Young 03. Stand By Me 04. Supersonic 05. Some Might Say 06. Roll With It 07. D'You Know What I Mean 08. Magic Pie 09. Don't Look Back In Anger DISC TWO 01. Don't Go Away 02. Wonderwall 03. Live Forever 04. It's Getting Better (Man!!) 05. Champagne Supernova 06. Fade In-Out 07. All Around The World 08. Acquiesce SATURDAY NIGHT LIVE October 4, 1997 09. Don’t Go Away rehearsal 10. Don’t Go Away 11. Acquiesce DISC THREE HAMMERSTEIN BALLROOM, NEW YORK U.S.A. October 8, 1997 01. Be Here Now 02. Stay Young 03. Stand By Me 04. Supersonic 05. Some Might Say 06. Roll With It 07. D'You Know What I Mean 08. Magic Pie 09. Don't Look Back In Anger DISC FOUR 01. Don't Go Away 02. Wonderwall 03. Live Forever 04. It's Getting Better (Man!!) 05. Champagne Supernova 06. Fade In-Out 07. All Around The World 08. Acquiesce DAVID LETTERMAN SHOW October 9, 1997 09. Don’t Go Away