絶頂期だけのことはあり、フリートウッド・マックが1979年から80年にかけて世界中を回った「TUSK」ツアーは音源に恵まれています。それどころかオフィシャルでもここ数年の間で充実した音源のリリースが実現しているという現状。ところが、それらは何かしら不満を感じる状態であったのも事実。まず2015年に「TUSK」デラックス・エディションがリリースされた際、CD二枚に渡って79年から80年のツアーを再現するパートが設けられたことはマニアを狂喜させましたが、それらはツアーで録音された複数の公演からのベスト編集となっており、単一公演を完全に再現したものではなかった。おまけにライブの臨場感という点で物足りなさを覚えるミキシングでもあったのも否めません。その点、今月リリースされたばかりの「LIVE」デラックス・エディションは元がライブアルバムですので臨場感のなども見事な仕上がりではあったものの、今度は元のアルバムのコンセプトに則って各地のステージどころか77年から82年までの録音から編集されていました。つまり、これまた「TUSK」ツアーの一公演を完全に再現する内容ではなかったという。こうして状況のせいで皮肉なことに、これまでリリースされてきたアイテムの価値が下がることはなかったのです。まず「LIVE」アウトテイクスというべき「TUSK TOUR 1979-1980」はメインのセントルイス79こそ「LIVE」で採用された日ですが、こちらはラフミックスでより荒々しい状態で聞けるという点でオフィシャルと同じ日か…と侮る訳にはいきません。それ以上にもう一つの収録音源であるモービル公演では「TUSK」期においてずば抜けてワイルドな「Oh Well」が聞けた点で隠れた名盤と言えました。一方オーディエンス録音の方ではスティーブ・ホプキンスによる名音源「BOSTON TUSK」がリリースされており、やはり極上のオーディエンスで味わう絶頂期の盛り上がりとアツい演奏は格別だと再認識させられたものです。むしろオフィシャルの現状から「TUSK」ツアーに関しては絶頂期ならではの盛り上がりが織りなす臨場感を求めてさらなるオーディエンス録音の発掘が待たれていたところなのですが、これぞ真打登場とも言うべきマイク・ミラードも同ツアーを録音してくれていたことが先週明らかとなりました。しかも彼が録音したのは「TUSK」ツアーの最終日。おまけに千秋楽となったのはこの地におけるロックの殿堂と言っても過言ではないハリウッド・ボウル。ミラードによるマックのステージの記録と言えばベストセラー記録中である「L.A. FORUM 1977 2ND NIGHT: MIKE MILLARD ORIGINAL MASTER TAPES」のリリースの記憶も新しいところですが、さらなるマックのステージの録音を「TUSK」ツアーの千秋楽で敢行してくれていたとは。「L.A. FORUM 1977」と言えばミラードがリンジー・バッキンガムのギターを相当にオンな音像で捉えてくれていた状態が印象的だったのですが、その時の経験を活かしてか今回はさらにオンな音像…というよりもリンジーのギターがまるっきりサウンドボード。それでいてバンド全体もイイ感じのバランスで捉えてくれており、これは凄い。フリートウッド・マックは一見ミラードの好みと違うバンド(あるいは音楽)のように思えるのですが、なるほどリンジーのハードエッジなギターに彼が惹かれたであろう様子が今回の音源から感じ取れる。77年の洗練されたサウンドからリンジー主導のロックサウンドへと進化した「TUSK」ツアーに彼が惹かれたことは想像に難くなく、なるほどハリウッド・ボウルに出向いた録音を思い立ってくれたのですね。とにかくリンジーのギターのフレーズの一音一音がはっきりと聞こえてしまうほどの生々しさであり、この感触こそ近年のオフィシャル群から感じられなかったもの。それが「Dreams」のような曲になると打って変わって甘美なトーンかつ抑え気味に弾いているのですが、その音色の生々しさにも聞き惚れずにはいられない。彼の絶妙なプレイをバックに歌姫スティービーも熱唱。これが世界を虜にした絶頂期マックのステージ。一方で人気絶頂期ということからハリウッド・ボウルに詰めかけた観客たちも良く盛り上がっているのですが、それがまるで耳障りでないバランスで捉えられているのもお見事。ミラードならではの「オンな音像」と「臨場感」のバランスが圧巻な傑作録音。もはや「傑作」という言葉すら陳腐に響いてしまう彼の卓越した仕事ぶり。そして「BOSTON TUSK」は79年のツアー序盤の記録でしたが、今回はツアーの最終日。最初に触れたように、何らかの問題を抱えつつもリリース量は充実してきたオフィシャル界に対し、これで栄光の「TUSK」ツアーからスティーブ・ホプキンス録音による「BOSTON TUSK」と並ぶアメリカでのステージを記録したオーディエンス・アルバムの二大巨頭が揃いました。 Hollywood Bowl, Los Angeles, CA, USA 1st September 1980 TRULY PERFECT SOUND Disc 1 (70:29) 1. Monday Morning 2. The Chain 3. Don't Stop 4. Dreams 5. Oh Well 6. Rhiannon 7. Over And Over 8. What Makes You Think You're The One 9. Sara 10. Not That Funny 11. Never Going Back Again 12. Landslide Disc 2 (67:02) 1. Tusk 2. Think About Me 3. I'm So Afraid 4. Angel 5. You Make Loving Fun 6. World Turning 7. Go Your Own Way 8. Sisters Of The Moon 9. Songbird Mick Fleetwood - drums, percussion John McVie - bass guitar Christine McVie - vocals, keyboards Lindsey Buckingham - guitars, vocals Stevie Nicks - vocals, tambourine