デビュー以降、時間の経過に沿って音源が豊富になる印象のある1994年ですが、そんな中にあってポッカリと穴が開いてしまっているのが11月のヨーロッパ・ツアー。4日のパリを皮切りとして12本ものギグをこなしていたにもかかわらず、そのパリの不完全なラジオ放送や同国到着時に出演したラジオ収録ライブといったサウンドボードだが短めな音源を収録したアイテムしか存在しません。つまりツアー本編をドキュメントしてくれるアイテムが未だに登場していなかった。でもご安心ください、そんなマニアの欲求不満が募る状況も今日まで。2021年、遂に94年11月のヨーロッパでの1ステージを収録した極上音源がリリースされます!今回リリースされるのは23日のフランクフルト。もちろん音源を提供してくれたのはイギリスのオアシス研究家で、彼によると近年になって発掘されたオーディエンス録音なのですが、その音質が非常に素晴らしい。この日の舞台となったBatschkappは1500人収容というシアタークラスの会場であり、案の定この音源の音像は極めてオン。おまけにDATを用いて録音されたということもあり、これまでリリースされてこなかったのが不思議なほどずば抜けたオーディエンス録音となっています。まずはその音質だけでも驚かされること間違いなし。それほどまでのクオリティを誇る極上オーディエンスでありながら、惜しまれるのはピッチが高かったということ。そこで今回のリリースに際しては、この問題をしっかりアジャスト。ただでさえずば抜けた高音質録音がいよいよ聞きやすい状態へとバージョンアップを遂げて封じ込まれることになりました。この年のオアシスは12月に入って不朽の名作「Whatever」をリリースすることでデビュー時の(いい意味で)青臭い雰囲気が薄まるのですが、11月のヨーロッパはそんな青臭さや性急な勢いだけでバンドが突き進んでいた最後の時期と言えるでしょう。そんな特別な時期であることを雄弁に伝えてくれるのがこの日の絶好調なリアムの歌声。オープニング「Rock 'n' Roll Star」を歌い出した瞬間からキレッキレ。1994年の歌声…というか「DEFINITELY MAYBE」期ならではの若々しい歌声が終始輝きを放っている。何しろ音像が近いので彼の歌声の冴えが間近に迫ってくる。94年の下半期、例えば前月のアメリカなどでは日によって「Slide Away」辺りからリアムの声が荒れ始めることがあり、それまでの不摂生なライフスタイルに加えて人気の上昇によるスケジュールの多忙ぶりから、若さだけで突っ走ってきたリアムの声に陰りが見え始めます。その点を考えてもここフランクフルトでのリアムの好調ぶりは際立っている。それにドイツでも「DEFINITELY MAYBE」がリリースされて三か月近くが経過しており、どの曲でも反応が熱狂的。それが嬉しかったのでしょう、兄弟揃って演奏が終わる度に「サンキュー」を連発しているのが微笑ましい。バンド最初の危機と言えた9月末のアメリカでのノエル失踪事件を乗り越え、なおかつアメリカより温かく迎えられたフランクフルトで兄弟以下のびのびと演奏している様子すら感じられる。そして「Bring It On Down」の後でリアムが誰かのバースデーであることを告げたのをきっかけとして客席から何度も「Happy Birthday」が歌われますが、これはオアシスのローディであるジェイソン・ローズのことで、何とも和やかな場面だと言えるでしょう。とどめは最後の「I Am The Walrus」を始める前でノエルが「みんなビートルズ好きか?おまえも?おまえも?」と質問した挙句リアムにまで振っており、それに対してオフマイクながら「yeah!」と彼の返事まで聞こえてしまう高音質ぶり。最後に終演後のBGMが流されたものの、そこでかけられていたCDが再生エラーを起こして音飛びを繰り返すという場面まで捉えられていますが、この日に相応しいエンディングかと。とにかく今までリリースされてこなかったのが不思議なほどの極上オーディエンス・アルバムであり、それでいて演奏内容も最高。最初に触れたように、今まで決定的なアイテムが存在しなかった時期を代表する極上音源のリリースが実現します。また初来日公演の決定的名盤と化した「NAGOYA 1994 DAT MASTER」以来となる94年ライブ音源のリリースでもあり、それと双璧をなす94年アイテムでもある。11月のヨーロッパを聞きたければ、まずはこれ!Batschkapp, Frankfurt, Germany 23rd November 1994 TRULY PERFECT SOUND (69:08) 01. Intro 02. Rock 'n' Roll Star 03. Columbia 04. Fade Away 05. Digsy's Dinner 06. Shakermaker 07. Live Forever 08. Bring It On Down 09. Up In The Sky 10. Slide Away 11. Cigarettes & Alcohol 12. Married With Children 13. Supersonic 14. I Am The Walrus Liam Gallagher - lead vocals, tambourine Noel Gallagher - lead guitar, vocals Paul Arthurs - rhythm guitar Paul McGuigan - bass Tony McCarroll - drums