本作に収められているのは「1984年3月1日グラスゴウ公演」。本編解説で言うところの「欧州#1」の11公演目で記録されたステレオ・サウンドボード録音です。これまた本編解説で触れましたが、このサウンドボードは『SLIDE IT IN』のアルティメイト・エディションで公式化済み。ただし、本作はオフィシャル版のコピーではなく、従来から知られるFM放送版。その最高峰マスターをCD化した1枚なのです。オフィシャル版との違いは「長さ」と「サウンド」。まず「長さ」ですが、これはオフィシャルの勝ち。放送版は約50分の放送枠に沿っていましたが、オフィシャル版は「Slow An' Easy」「Need Your Love So Bad/Thank You」「Slide It In」「Don't Break My Heart Again」も追加された約77分でした。もう一方の「サウンド」は(好みの差はあるものの)放送版の勝っています。オフィシャルは音圧を稼ぎまくってド迫力に仕上げられていますが、それによって細部が潰れ、もっと悪い事に演奏音そのものがノイジーになっている。言葉を選ばず言ってしまうと「汚い音」。もちろん、放送版を知らない一般リスナーにはそれでも良かったのでしょうが、マニアには「せっかくの長尺マスターなのにビリビリ言ってる……」と嬉しさ半分、悔しさ半分という感じでした。もちろん、本作はそうした無粋なマスタリングはなし。放送自体の特性もあってピークの詰まり感もなくはないものの、オフィシャル版よりも遙かにナチュラルなサウンドで楽しめるのです。そして、そのサウンドで描かれるアンサンブルが素晴らしい。実のところ、サイクスが開花するのはメルが離脱し、ギターパートを独りで担うようになってから。ここではSUPER ROCKやROCK IN RIOほどの爆弾きはしていないのですが、要所要所で吹き出すオブリは紛れもなく『SLIDE IT IN(US Mix)』の発展系。常に弾き倒すのではなく、狙いを定めて必殺のフレーズを繰り出す感じなのです。さらに「A:6人編成」の旨みと言えば、メルのコーラス。バーニー・マースデンも歌が巧かったですが、メルもめちゃくちゃ巧い。カヴァデールや後にメイン・ヴォーカルを張るサイクスとも合わせた三声コーラスの分厚く、声の良さが際立つ。弾き倒しギターの迫力では「C:4人編成」に及ばない時期ではありますが、音の厚みやコーラスの華やかさでは圧倒的に「A:6人編成」が上なのです。華やかなサイクスの妙技が盛り込まれつつ、SUPER ROCKやROCK IN RIOほどメタリックになってはいなかった「A:6人編成」のWHITESNAKE。過渡期だからこそ、他の時期にはない旨みに溢れていました。その特別なアンサンブルをステレオ・サウンドボードで楽しめるライヴアルバムです。 Live at Apollo Theatre, Glasgow, Scotland 1st March 1984 STEREO SBD (48:51) 1. Intro. 2. Gambler 3. Guilty Of Love 4. Ready An' Willing 5. Love Ain't No Stranger 6. Here I Go Again 7. Crying In The Rain 8. Soldier Of Fortune 9. Ain't No Love In The Heart Of The City 10. Fool For Your Loving David Coverdale - Vocal John Sykes - Guitar Mel Galley - Guitar Jon Lord - Keyboards Neil Murray - Bass Cozy Powell - Drums STEREO SOUNDBOARD RECORDING