どんな偉大なバンドにも“駆け出しの時代”という時期が存在します。それは人気が爆発する前を指し、音源や映像の存在が限られがちな時期だとも言えましょう。オアシスが1994年にデビューシングル「Supersonic」でデビューを果たしたのは4月11日のこと。今やクラシックと化したこの曲も当時はチャートの31位どまりでして、シングルをリリースしてしばらくの間はギグの本数もまばらでした。その後の人気の上昇を考えると意外にも思えますが、「Supersonic」リリースの前後というのは思いのほか地味な時期だったのです。それを反映するかの如くオアシス1994年春というのはライブ音源も限られているのですが、そうした中で残されている優良オーディエンス録音を収めてみせたのが今回のコンセプト。メインに収録されているのは初登場5月7日にウインザーにあるライブハウス、オールド・トラウトでのギグ。この会場は90年代前半においてイギリスはもとよりアメリカの新進気鋭バンドなどもギグを開いた由緒あるライブハウス。オアシスのギグを捉えた今回のオーディエンス録音も「ハコ」らしい臨場感がたっぷり。それ故に音像も非常にオンで、所々で「サウンドボードか」と突っ込みたくなるようなド迫力の音像が圧巻。最たる例は「Bring It On Down」のイントロでしょう。トニー・マッキャロルが叩きだすドラミングはサウンドボードそのもの。単に音像が近いというだけにとどまらず、それぞれの楽器の音が生々しい。ノエルのギターなどPAでなくアンプからの出音では?と錯覚しそうになるほどですし、ギグジーのベースもブリブリと唸っている。何よりリアムの歌声がまた実に近い。勢い余ってフィナーレ「I Am The Walrus」では彼とバンドが噛み合わなくなる場面まで。それが1994年5月の記録ともなれば、彼の歌声はファースト・アルバムで聞けたあの初々しさそのままでオールド・トラウトの小さなハコに響き渡っていて、なおかつ45分弱というステージの時間も功を奏して気持ちいいほどにリアムの声が出ている。さらに驚かされるのが、このデビューして間もないオアシスのギグで日本人が居合わせていたということ。「Live Forever」の前では日本人女性の「足が真っ黒じゃない?」という会話がはっきり聞き取れる。恐らくは現地に滞在していた人物なのだと推測されますが、デビュー直後で既にオアシスを見ていた日本人がいたとは。それと同時に別の観客(こちらは現地の人だと思われる英語で)「T・レックスのカバーやるよな?」と呟いており、それが「Cigarettes & Alcohol」を指すのは明らかであると共にカバー曲と誤解されるのもデビュー当時ならでは。本タイトルに収録されているもう一つのライブ音源はデビューを二週間後に控えた3月24日にロンドンの100クラブで行ったギグを収録。100クラブと言えばセックス・ピストルズやクラッシュを始めとしたパンクの登竜門として由緒ある会場でもある。それだけにオアシスとしても気合の入る出演であったことは想像に難くありません。それ以上に驚かされるのは、このオーディエンス録音のクオリティの高さ。さすがに本編オールド・トラウトには及ばないものの、こちらも音像がオンで迫力満点。既に評判となっていたバンドのギグとはいえ、まだデビュー直前。そんなタイミングでこれほどまで高音質な音源が残されていたことに驚きを禁じえません。録音は「Bring It On Down」の序盤からスタートしており、そこでは少し音がこもっている。ところが、これこそ100クラブのドアを開けて中に入ったかの臨場感がありありと伝わってくるもので、すぐに音がクリアーになって演奏がどんどんクローズしてくるという。さすがにデビュー前という事もありレパートリー少なめ、ステージ自体も30分を切るものでした。またこの日の目玉である「I Will Believe」のみがコンピレーションものでCDに収録されたことがありましたが、ギグ全体のリリースが実現するのは今回が初めて。その目玉たる「I Will Believe」は唯一の純生ライブ演奏の記録としてマニアにおなじみなライブテイクであると同時に、この曲が最高音質で捉えられたというのは本当に幸運でしょう。特にリアムの声が大きく響き渡り、演奏と共に初々しさに溢れた雰囲気には聞き惚れてしまいます。このようにオアシス1994年のデビュー時のビフォー&アフターをどちらも信じられないほどの高音質オーディエンス録音で捉えた歴史的ドキュメント。これはオアシス「青の時代」の記録です! Old Trout, Windsor, London, UK 7th May 1994 TRULY PERFECT SOUND 100 Club, Oxford Street, London, UK 24th March 1994 PERFECT SOUND(71:04) Old Trout, Windsor, London, UK 7th May 1994 01. Shakermaker 02. Fade Away 03. Digsy's Dinner 04. Live Forever 05. Bring It On Down 06. Up In The Sky 07. Cigarettes & Alcohol 08. Supersonic 09. I Am The Walrus 100 Club, Oxford Street, London, UK 24th March 1994 10. Bring It On Down 11. Digsy's Dinner 12. Live Forever 13. I Will Believe 14. Cigarettes & Alcohol 15. Supersonic Liam Gallagher - lead vocals, tambourine Noel Gallagher - lead guitar, vocals Paul Arthurs - rhythm guitar Paul McGuigan - bass Tony McCarroll - drums