ジェネレーションが一つ下がっただけでもアッパー感が話題となり、なおかつアイテムがすかさずリリースされるZEPレア音源界において、1990年代初頭のアイテムの価値が未だに落ちないという異例の存在であった1969年11月のトロントはオキーフ・センターのオーディエンス録音。それが懐かしのレーベルからリリースされた「BEAST OF TORONTO」でして、数年後に同内容の「LISTEN TO MY BLUEBIRD」がリリースされたきり、21世紀を迎えても新たなアイテムやアッパー版が登場しない異例の長寿アイテムでした。それらは69年のオーディエンス録音としてはかなり上質な部類に入る音質であったものの、パソコン上での音処理が普及する前にありがちだったイコライズが施されており、派手めな音質な上に疑似ステレオ風味な処理まで加えられていたもの。それはカセット・トレード時代の音の粗を隠蔽すべく施されたものであったことが容易に想像できる仕上がりでもあったという。そうした独特な音質にとどまらず、本音源はピッチが少し低めという問題を抱えており、上記のアイテムにおいてはおざなりにされています。音源の状態自体はまったく同じであったものの、その狂いをアジャストしてひっそりリリースされていたGRAF ZEPPELINの「DRAW LIKE HEAVY MAGNET」はマニアの間でちゃんと評価されており、今回の音源登場時にも参考資料的にアップロードされていたのです。しかし先のイコライズが古臭い印象は否めず、それがまた大々的に販売される扱いにまで至らなかったのでは。こうした状況が重なって1990年代アイテムの価値が一向に下がらないという異例の状況と化していたオキーフ・センターですが、昨年ウインターランド二日目の新音源を発掘して世界中のマニアをアッと言わせたThe Dogs of Doomチームが今回もやってくれました。というか同じく衝撃の発掘だったアトランタ・ポップ・フェスティバルがそうだったように、彼らは69年音源が強いみたいですね。それだけに今回のバージョンも内容面と音質面の両方で世界中のマニアを驚かせる衝撃的な発掘となっています。まず収録時間が一気に伸びており、何とZEPの前にオープニング・アクトを務めたバンドの演奏を録音チェック的に収録(これもまたウインターランドの時と似ていますね)。ここで聞かれるエドワード・ベアというグループは地元トロントのグループで、演奏しているのは「Everyday I Have The Blues」で正調のブルースロック。何よりブルース色が強かった69年のZEPですので、彼らが始まる前の断片的な録音ながらも、これはすんなり聞けてしまうはず。そしてZEPのパートも彼らの登場前からして俄然長く収録されている。何しろバンド登場前のアナウンスから収録されているのだから。ここでMCを務めているのはトロントでの活動が有名(オーストラリア人)なジャーナリストのリッチー・ヨーク。ZEPとの付き合いもどんどん深くなっていった彼がアナウンスという納得の場面でもある。これに続いて登場したロバートのMCがまた「BEAST OF TORONTO」など(以下、既発盤と称します)よりはるかに長く、このライブ序盤のパートだけでも驚きのアッパー感を思い知らされることでしょう。ところがライブ終盤にも驚きの発掘が。今回のバージョンでもっとも惜しまれるのは「Moby Dick」の後に演奏されていた「How Many More Times」が未収録に終わってしまったことでしょうが、それを補って余りあるアンコールの発掘。ここで披露されているのはウインターランドの時と同じくエディ・コクランのカバー二曲。一般的には翌年のロイヤル・アルバート・ホールで知られていますが、マニアからすれば思い浮かぶのがウインターランド。それが今回の発掘によって最古のライブ演奏が刷新されました。中でも「C'mon Everybody」はロバートが歌い出すタイミングを思いっきり間違えており、ライブ初演の可能性が濃厚な雰囲気を感じさせます。「Something Else」の方はBBCにて披露済みでしたね。さらにもう一つのアッパー感を確信させてくれるのが音質。最初に触れたように既発盤の元になった90年代トレード音源には小細工が施されていた訳ですが、今回はそうした余計なお世話のないナチュラルで腰の据わったモノラル。おまけにジョンジーのベースを驚くほどのバランスで捉えており、その上で歪みがないとは69年のオーディエンス録音のレベルからすると、これまた驚きでしかありません。もちろんピッチは正確。本音源はそうした演奏の音圧と比べてロバートの歌声が押され気味なのですが、それでもスクリーム絶頂期の彼の声が地鳴りのごとくオキーフ・センターに響き渡る様もまた圧巻。これも既発盤とは比べ物にならないほどの迫力です。何しろメンバー全員の力が拮抗していて、しかもハイパーな演奏が難なく繰り広げられていたという時期らしさが既発盤よりもはるかに感じられる。それでいて一年を通してライブに明け暮れたからこその強靭な演奏ぶり。それもまたオープニングから炸裂しているのですが、中でも当時リリースされたばかりのアルバムから、という位置づけで披露される「Heartbreaker」は強烈の一言。永年のレパートリーとなった本曲、ジミーの早弾きパートも「お家芸」と化す前の自由でスピーディさがZEPのライブ音源を聞き倒してきたマニアにとっても意外なほど新鮮に映るはず。かと思えば次の「Dazed And Confused」の終盤で現れるマイナー調の展開など、全編を通して余裕に溢れた演奏を聞かせる69年後半ならではのステージを捉えた隠れた名音源がようやくアップグレード!(リマスター・メモ)全体の音圧を上げたのみです。音質は高音を上げる余地が有りそうですが、上げるとジリジリしたヒスも一緒に上がり雰囲気が崩れるので、何もしませんでした。O'Keefe Centre, Toronto, ON, Canada 2nd November 1969 (Late Show) PERFECT SOUND (UPGRADE) Disc 1 (44;09) Edward Bear: 1. Every Day I Have The Blues Led Zeppelin: 2. Ritchie Yorke Intro 3. Good Times Bad Times Intro / Communication Breakdown 4. I Can't Quit You Baby 5. Heartbreaker 6. Dazed and Confused Disc 2 (46:15) 1. MC 2. White Summer / Black Mountain Side 3. Babe I'm Gonna Leave You 4. Moby Dick 5. C'mon Everybody 6. Something Else