これまでいかなる形でもリリースされたことのないメンフィスのオーディエンス録音は正に荒れくれ録音(笑)。LA公演を収めたあの懐かしのCD「L.A. CONNECTION」を彷彿とさせる周囲の騒がしさ。おまけに左右のファンによる会話が飛び交う箇所まである。それに音質自体もかなりの粗さを感じさせるもの。不幸中の幸いというべきは、周囲の様子は「L.A. CONNECTION」のように女性の金切り声でなく、むしろキースを愛する熱狂的な男性ファンによるものだということ。そのリアクションは「TALK IS CHAP」収録曲に対して非常に熱狂的で、ライブ後半「Locked Away」では一緒に合唱してみせるほど。もちろん耳障りなことに間違いないのですが、本当にキースが好きで参戦したのだな…という熱意が伝わってくる。また全体的にピッチが高めな状態でしたので、そこをアジャストしたことで元の状態と比べると格段に聞きやすくなっている(そういえば「L.A.~」もピッチが高かった)。そんな荒くれ音源をリリースされるのには訳がありまして、これが「TALK IS CHAP」ツアー開始二日目の記録なのです。いざ聞いてみるとオープニング「Take It So Hard」からしてキースの声が絶不調、まるで歌えていない。もしツアー終盤であれば疲れが出たのかな?などと推測できるのですが、何とこれはツアー二日目の記録。思えば同ツアーはキースにとって初めて自身がフロントマンとなり、毎回のステージが歌いっぱなしとなる経験。それがツアー序盤ともなれば慣れないが故の緊張も加わってくるはずで、なおかつ日程をこなす上で必要な声の温存など考えもしていなかったのでしょう。そんな調子で前日かつツアー初日であったアトランタではりきり過ぎてしまい、そこへ初日を終えた後の打ち上げも合わさったのか、ここでのキースはライブ序盤が尋常でなく歌えていない。「Whip It Up」では彼が妙なタイミングでリフの音を外してしまっている場面が見受けられるのですが、これは思うように歌えない自身に動揺してしまった結果なのかもしれません。おまけにこの日に限って「Big Enough」が省略されていますが、それもまた前半のキースの不調ぶりからの判断だったかと。幸いにも本ツアーは途中でサラ・ダッシュが二曲歌うという構成が見事に功を奏し、前半は目も当てられないような調子だったキースの調子が何とか復活しています。さらに本音源を録音してくれたテーパーは開場前にもレコーダーを回し、彼女を中心として演奏される「Time Is On My Side」のリハーサルを録音してくれた相当なマニア。ただし録音中に他のファンに話しかけられてしまい、その場面までばっちり録音されてしまうというオチが付きましたが。この貴重なツアー序盤ならではの雰囲気を伝えたく、荒くれ音源でありながらあリリースする次第です。ここでの気負い過ぎたキースの悪戦苦闘ぶりには驚かされるばかり。New Daisy Club, Memphis, Tennessee, USA 25th November 1988 Disc 1 (44:11) 01. Intro 02. Take It So Hard 03. How I Wish 04. I Could Have Stood You Up 05. Before They Make Me Run 06. Too Rude 07. You Don’t Move Me 08. Make No Mistake 09. Time Is On My Side Disc 2 (37:44) 01. Whip It Up 02. LockedAway 03. Struggle 04. Happy 05. Connection 06. Rockawhile 07. It Means A Lot Bonus: extract from the soundcheck 08. Time Is On My Side Keith Richards - Guitar, Vocals Waddy Wachtel - Guitar, Backing Vocals Ivan Neville - Keyboards, Guitar, Backing Vocals Charley Drayton - Bass, Backing Vocals Steve Jordan - Drums, Backing Vocals Bobby Keys - Saxophone, Percussion Sarah Dash - Vocals